危機決戦・星を踏み貫く神造巨人 5
ビーコンが光線によって破壊された。
「っ…」
まだ戦える総勢が集って激しい攻防戦をしていた最中、上級天使は的確に間隙を突いた一撃においてヴァリス頭部に設置されていたビーコンを射貫く。
だが悲観は無い。ここに来て高性能アンドロイド・シャザラックの用意周到さが効いてくる。
照準ビーコンは予備を含めて五つ製作されている。残る二つは、今現在も頭部にて戦闘継続中のディアンとエヴレナが有していた。
この二つが最後の希望。何においても死守すべきもの。
拳を地表へ打ち込んだ前のめりな姿勢のままヴァリスは動かない。否、動けない。
拳ごと凍てついた大地に拘束し続けているカルマータが氷結の内で魔力を燃やしている。だがその拮抗もあと数十秒の内に競り負けるだろう。
氷山の内側でも大魔女は休むことはしない。並列思考で操作する無数の救世獣が地上から津波のように持ち上がり、その大波に乗る形で残る六十八機の人型機動兵器が巨人へと飛び掛かる。
操作主たる自身を安全圏へ置く為に後退させた一機の頭頂部でうつ伏せに倒れるトゥルーヤも、薄れる散漫な意識の中で、それでも魂を乗せた兵器達がただの鉄屑にならぬよう懸命に細く意識を繋いでいた。
ついに魔女ごと大凍山が砕け巨人ヴァリスの腕が自由になると、途端にその両腕が再びの猛威を振るわんとする。前のめりから解放されたことでその両眼は敵を捉えて光を瞬かせ、岩石の砲弾が装填される。
激しく揺れ動く頭部から引き離されぬように踏ん張りしがみ付きながら足掻く兵軍の戦士達の一部もその標的となった。数秒後には人体を粉微塵にするであろう攻撃が控え、ある者は覚悟を決めある者は玉砕覚悟でその顔面へ突っ込む。
しかしそれらが散る前に、ヴァリスは吐血にも似た黒煙と衝撃を口から吐いた。
無論ヴァリスを外側から押さえている彼らの仕業ではない。その現象は他ならぬ内部へと侵入を果たしたもう一つの希望によるもの。
二度、三度。体内で暴れ狂う敵がウイルスのように巨人の内側を破壊していく様子が振動として大気を揺るがす。
あと少し。もう少し。
その異常は疲弊が限界に近づきつつあった兵軍の勇士達に最後の高揚を与える。
最後。最後だった。
どうあれこれ以上の維持は難しい。意気を燃やすのはここが最後だと、全ての戦士が悟っていた。
成し遂げても、成し得なくても、ここが正真正銘最後の踏ん張りどころ。
叫ぶ、叫ぶ。吼え散らし、猛り狂う。
強がりでも真似事でも、彼らはそうして戦意を保つ。
「…シャザラック。俺とエヴレナのビーコン位置を今の座標で固定。いつでも撃てるように準備しとけ」
『……了解しました』
ディアンの言葉に、何を意見することもなくアンドロイドは首肯した。
既に覚悟は決まっている。もしも衛星からの砲撃に諸共巻き込まれることになろうとも、必ずこの巨人だけは刺し違える。その決意を感じ取ったから。
無論エヴレナとてその意志に同意している。ここまで死ぬ気で付いてきてくれた者達の助力を無駄にしたくはなかった。
空、天、宙。遥かに見上げる彼方にある衛星は静かにエネルギーを蓄え始める。三射目、間違いなく巨人を沈めるであろう最後の一撃を溜め込む為に。
ーーーーー
上へ向けて進むにつれて、広大な巨人内部での天使接敵頻度は増していた。まるでそこへ近づかれることを最大限忌避するように。
そんな天使達の抵抗を片っ端から薙ぎ払い、五名はひたすらに止まることなく心臓部へと駆け上がる。
優位なのは明らかに彼らたった五名の外敵の方であった。天使達は内部での戦闘を想定に含んでいなかったのかどうにも動きが鈍い。外と違い、それなりの広さはあるにしてもやはり莫大な数が逆にそれぞれ各個の動きを阻害している。加えて、天使達はこの内部を『壊してはいけない領域』として深く認識していた。
対して外敵はこれに一切の躊躇をしない。
「くっははは!!おいおいボーナスステージかァ!?木偶人形共が、もうちょい真面目に抵抗したらどうだ!」
「油断しない!全力で行きますよ!」
特に前衛を張るアルとヴェリテの暴れっぷりが一際輝いている。
飛び交う刀剣が、瞬く雷鳴と轟雷が、たとえ敵対象である天使を外しても巨人の体内を縦横無尽に壊して回る。
守る側と攻める側。防衛に対する攻め手の戦力は通常三倍なければ成立しない、その攻撃三倍の法則はこの場では通用しない。
「そのまま、まっすぐ上層まで!―――そこが目的地、ですっ」
ここまでスコープを覗きながらナビゲートを行っていた真由美が最後の誘導を発する。誘導に専念できるよう彼女の護衛を担っていた夕陽もスロープ状の斜面の先に視線を向けた。
〝干渉〟を乗せた両の眼が、その先にある脅威達を捉えていた。
「いるぞこの先ぃ!ここが一番の難所になる!暴れすぎて余力残ってませんとか言い訳しやがったらぶっ飛ばすからな!!」
「ハッ!やっと準備運動が終わったとこだっての!!」
「ええ然り。では…心臓を潰しに、参りましょうか」
嵐のような猛攻に呑み込まれた天使達を押し退け蹴り飛ばし、ついに彼らは巨人ヴァリスの中心部へと至る。
これまでで一番広い空間。胃袋のように緩やかな楕円を描くその中央。
上下左右から何かしらのパイプのようなものに接続された、大きな球体が目に入る。
小さく確かに脈動する青白い球体。そこへ注がれているエネルギーの総量、間違いなくこの巨体を動かすに足るだけの燃料をここで循環させている。
心臓にして操舵をも司る核。操縦室とも兼任した主要部。
この広い空間全てに等間隔に配置された上級天使数十体が、ここの重要性を嫌でも主張してくる。
直後、全ての上級天使が一斉にその手に光を集う。
「散れッ!!」
夕陽の号令を以て四人が散開。何の余韻も前触れも無く、無数の光線が彼らが固まっていた場所へと殺到する。もはや内部への破壊などで気を揉んでいる状況ではないと、より高い知能を持つ上級天使達は理解していた。
ここより先、言葉は不要となる。
圧倒的な能力と数と質を誇る天使達。指で数えられる程度の僅かな戦力。
文字だけで判別するなら確定で敗北を約束された戦況に、それでもとこれまでを覆してきた歴戦の精鋭達が迫る。
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