危機決戦・星を踏み貫く神造巨人 2


『あのデカブツを内側からぶっ壊して動きを止める。他はアレの注意を引きつけてろ』


 水晶型通信端末の全チャンネルに繋いでその言葉は簡潔に告げられた。声は間違いなく妖魔のもの。少なくとも、同じ戦場にて戦う全ての戦力にその意志は伝わった。

 内部を、巨人の核となるものを破壊したところでどの程度動きを止められるのかは不明だ。もしかしたら核は複数あるのかもしれないし、仮にひとつきりだったとしても予備電源のようなものが作動するのかもしれない。

 そんないくつもの憶測や懸念を抱えて、それでもなお。

 戦士達は誰も異議を唱えなかった。


「承知した。受けたからには死守だ。必ずその間を保たせよう」

「ここが正念場ぁ!!勝つこと以外考えんな!臆せば死ぬぞ!」

「いいぜ、行こう!俺らの命アンタらに預けたっ」

「ここまで来たんだ!勝利以外は断固認めねぇ!」

「時間は作る。だから―――頼んだ!!」


 流石にこの世界で多くの『命懸け』を積み重ねてきた猛者の集団。軍紀や厳しい上下関係のような縛りと結束が無い分指揮系統においてはその道の組織には到底敵わないものの、彼らには冒険者・ハンターとしての気ままな風のような自由性の高さがある。

 そして自由自在であるからこそ、己が意志に則ってこの場に在る彼らの信念は非常に強固であり、強靭不屈な目的達成意欲は横にしか繋がらない、上も下もない仲間同士を頑丈に繋ぎ止める。

 たった一人の逃奔も無いままに再度戦線を構築した巨人討伐軍。

 その中央を、戦場全域に満ち満ちる銀色の祝福を振り撒く竜が突っ切った。




     ーーーーー


『ユーヒ達の援護!もう出し惜しみは無しで!』

 真銀竜エヴレナと、そこに乗る一員。少数編成の中で数々の敵を打破せしめた精鋭の個が集う。

「ようは注意をこっちに引けばいいんだろう?簡単さね」

「大天使もあのデタラメな魔法も火球の雨も無くなったことだしな」

 飛翔するエヴレナに、飛竜を駆るディアンと救世獣に乗るカルマータが並走する。

 さらには一回分の燃料を惜しみなく燃やして超重量を空へと押し上げる射出ユニットの火を背に吹かせながら人型兵器が次々に先行したエヴレナ達を追い抜いて下級天使達の壁へと突撃する。

 物量差では負けても、一機辺りの質量でいえば下級天使の千体よりも遥か凌駕する巨大な鉄の人型かたまりは当然の如く衝突の拮抗すら無く体当たりで敵陣に穴を空け、鉄塊のような大振りのブレードを振るってさらにその穴を広げていく。

 だがそこへ一帯に影を落とすさらなる大質量。

 これまで行進にのみ傾倒していた巨人ヴァリスがここにきて本体の攻撃挙動。振り上げた拳は山ひとつよりも大きく広がり機兵達を大雑把に捉える。

 そこにはエヴレナ達も補足されていた。

「行きな!!」

 声を張り上げカルマータが二本指を立てると、機兵を除く巨人の殺傷圏内に入っていた戦力に鏡の魔法陣が展開され、一瞬の浮遊感の後にヴァリスの振り上げた拳のさらに上空にまで瞬間移動していた。

 大魔女カルマータが戦士リヒテナウアーの常識外れの転移術を解析し独自に作り直した魔術。限りなく大量の魔力を消費する欠点は既に魔石において克服している。

 だがそこに自身は対象へ入れていない。

「―――ふ」

 隕石の落下。それに近い衝撃がミナレットスカイ全域を激しく揺さぶる。

 ただ単純な振り下ろしのパンチが、ただ純粋なエネルギーを地表へ響かせた。当然ながら人の視点からして巨躯を誇る機兵達とてアリのように潰され無残に散らばるのみ。

 最大展開した反射鏡の術式も大質量の前には機能せず、ガラスの割れるような音と共に抉り抜かれた地表へ姿を消したカルマータ。

 巨人の拳は、ここで一旦動きを止める。

「まぁだ、まだ……っ」

 直径数十キロにもわたるクレーターに沈む拳を引き抜こうとするヴァリスだが、それが思うようにいかない。

 当然だ。クレーターごと埋没した拳が凍り付いているのだから、そう簡単には動かせるわけもない。

 反射鏡の術式は初めから頼りにしていなかった。本命は割られた際に別の魔術へと置き換えた〝悪魔の鏡〟。鏡の破片を突き刺し周辺を凍てつかせる術。

 叩き割られた最大展開の鏡面魔術全ての破片をヴァリスの拳に集約させて発動させた術式は山のような巨人の拳ひとつを丸ごと覆い氷山へと変貌させていた。

 さらに追加で発動した〝ミラーリング・ミラージュ〟。性質を反転させる魔術が作用したことによって、巨人の拳はことになる。

 この能力を正しく把握していれば、逆にことも掌握できただろう。だがたいした知性も持ち合わせていないヴァリスではこの作用も原理も理解できない。自力での打開は不可能だろう。

 となればあとは残る内蔵魔力との勝負。

 先の一撃で肉体が半壊した状態のカルマータが、自身の不死による力任せで剛力と競り合う。

(まだだ…せめてあの子らが巨人へ肉薄するまではッ)

 大魔術の連発と維持によって体内を巡る魔力回路が数か所破裂する。大魔女は痛覚ではもはやなんの障害も起こさない。自壊していく己の身体など目もくれず、氷山の遥か上で交戦する若き力を見上げる。片腕を封じたとて、まだ巨人の脅威は衰えない。

 押さえられてあと十秒―――その短い拮抗の時を。


『止まりなさい。我が兵器、そして天使達よ』


 使が引き延ばす。

 誰しも倒したはずの存在の声に狼狽え動揺を表す中で、たった一人。

「なーんて、ね」

 死霊術師の少年だけが、意地の悪い笑みを張り付かせていた。

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