VS 大天使ナタニエル (後編)
『
驚異的な神性を付与された大天使への加護はそもそも無効化を無効にする性質を持つ。最上位クラスの神でなければこれを打ち破ることは出来ない。
だから大道寺真由美の『創造』で創り上げた『反魔』では無限に等しい神器の創造と『投げれば必中、必ずその手に戻る』力を持つ槌の二つを封じるので精々だった。
目鼻から血を流して気張ってみても、その神性介入への干渉は一割。リアでもスィーリアでもない女神の恩寵を受けた魔法使いの全力でも、そこが限界。
そこへ巨大な砂時計と対峙途中だった日向日和の横槍が入る。
それは『「創造」で創り上げた「反魔」の〝模倣〟』。彼女が有する三種の異能の一つ。
すなわちが『
だが今の弱体化した日和では崩壊する戦場での助け船にも限度があった。ここまでで神性介入六割の押さえ込みに成功している。
頼みの綱は夕陽の扱う神刀、
もとより霊験あらたかなる真正の神性を保有する、現存する数少ない神刀の一振り。神代三剣の呼び名は伊達ではない。
さらにこの刀はその性質により『かつて断ち斬った存在の本質を解析し、刃に記憶』する。
最初の使い手から日向日和の手に渡るまでの間、この刀は五柱の神格を討滅している。
当然ながら『
とはいえ今代の使い手たる日和の手を離れた神刀のその真価を発揮できず、未熟な少年の振るう刃にはそこまでの特効は乗らない。
全てが不完全。不安定の積み重ね。
最後の不完全は日向夕陽。
『反魔』によって自身の〝倍加〟も〝憑依〟も、刻印術すらも剥ぎ取られた正真正銘子供の身体スペック。
握る刀もただの人間の範疇にある腕力頼り。常に鍛えてはあるものの、それでも生身で断つには大天使という存在は生物としての強度自体が違い過ぎる。
それでもと、意気を声に変えて叫ぶ夕陽の振り下ろしは大天使ナタニエルの左腕と、その後ろにある翼に食い込む。
血管が切れた。骨も外れた。
押し出す勢いに肉体が負ける。それでも押す。外れた骨は肉を内側から潰して破壊し、切れた血管は瞬く間に腕全体を内出血で青黒く染める。
それでも押す。まだ押す。刃が進む限り押し付け続ける。
大天使の腕が荒く粗く引き裂かれる。翼もまた同様に。
悲痛なる叫びと激昂に近い叫びが重なる。
やがて、利き腕の完全破壊と共にやっと。
ようやっと、大天使の片腕と片翼を切断するに至った。
「
「
『です!!』
すぐさま『反魔』を解除し落下する夕陽と幸を抱えて離脱した真由美の判断力たるや、その場の一同からの言外の賞賛を浴びていたのは間違いなかった。
異能を縛る領域から解放され、まず雷竜が飛び込んだ。
「ぬぅっ!!」
天使としての先天的な特徴である翼は『反魔』の影響下から外れてはいたものの、流石に片方の翼を喪った状態で即座に常の滞空を維持することは困難だった。千載一遇の隙を突き、至近距離まで雷速で迫ったヴェリテが目と鼻の先にある大天使へ向けて全力のブレスを放つ。
「オォラアァッ!!」
雷撃に呑まれ大きく後退するナタニエルへと雷竜の背に乗ったアルが持てる力を余さず絞り尽くして三千の剣を生み出し一斉に投げつける。それらには皆一様に『当たれば爆ぜる』だけの無茶苦茶な性質が付与されていた。
飛来する剣の爆弾が殺到し、防御に専念せざるを得ないナタニエルをさらにさらに後方へと追いやる。
そこまで下がらされて、天使はついに気付く。
既に残る片翼の先がジリと焦げ付くように崩れ始めていた。『崩壊』の魔法を撒き散らす砂時計が確殺できる距離まで到達している。
不味い。ナタニエルは全てにおいて重要視するべき災厄の末端に触れた。
これだけは駄目だ。これは、世界の理も神の加護も、全て全てを漏れなく無視して、ただ均等に均一に平等に同等に一律に公正に、全てを崩し壊すモノであると理解していたから。
残りの腕も脚もくれてやろう。だがなんとしてでもこの崩壊からは逃げなければならない。
片翼を遮二無二に動かして、全力必死に飛翔しようと藻掻くナタニエルの首が掴まれ、あれだけ忌避していた『崩壊』の圏域へと強引に連れ去られる。
それを行ったのは、もはや脅威と定めることすら不必要と断じていたはずの者。最強だったはずの存在。
「ふ、ざ、…けるな。―――
「…ん?久々だな、私を人間扱いしてくれるものは」
敵への憎悪も敵意も浅く、なんならその怨嗟に満ちた絶叫に喜々すら滲ませて。
日向日和は大天使ごと死滅を確定された崩壊の只中へと突き進んだ。
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