創造 VS 鍛造
『これは世界を守る戦い。みんなが生きる、この世界を救う行い』
曇天が空の光を奪う戦場で、陽光よりなお輝く銀が照らす。
敵の勢いが増すであろうと想定されたダモクレス一射目の先。二射目に至るまでの活路を開く役割と明かす手札も決まっていた。
『これは人の道。外道を散らす天の道。高潔な勇者達と共に征く、私の使命。であるならば―――』
エヴレナの輝きが戦場を駆る全ての戦士達に波及していく。暖かな光が、身体の奥底から不屈の闘志と力を与えてくれる。
『真銀竜が希う。お願い、わたしと一緒に絶対の勝利を!』
おそらくこの世界における発動条件は対天使、対神、そして対暗黒竜。
過去・現在・未来全ての時間軸にて『星を滅ぼす根源的な現象や存在』に対し条件を適用させる神竜の〝
この戦場に在る全戦力は〝真銀の眷属〟として全能力を飛躍的に上昇させる。
そして同時にエヴレナの昇華された〝秩序の
真銀竜の恩恵を重ね掛けした竜種の力は単騎で下級天使の群れを薄紙を破るように突き抜けて行った。
『桔梗』の飛竜達でさえそれほどの力を持つに至るのだ。当然のことながら、上位竜種ともなればその強化は底知れない。
『ォォおおおオオオオ!!!』
特に、金色の雷は顕著だった。
瞬きの内に視界の天使が灰塵と化す。その背に乗るアルは出番が来ないことを不満気にしていた。
第二射までの行程は竜種で切り開く。
流星のように、あるいは突風のように、あるいは稲妻のように。
『世界の敵』を限定とした竜の猛攻はフロンティア世界全体から見ても類を見ない一方的なものとなっていた。
無論、それをただ眺めているだけの大天使でもない。
「鬱陶しい、小蠅共めが」
創造の天使ナタニエルが、その手に握る槌を振り上げる。
たった一挙動で彼女の周囲に数えきれないほどの武器が出現した。滞空したままのそれらが、降ろす槌の動きに連動して一斉に射出される。
地上からも兵軍の魔術師や射手がそれぞれに攻撃を開始する。普段の性能であれば届かないはずの魔術も弓矢も、真銀の恩恵を受けた今であれば届かせられる。
地上からの援護に加え、驚異的な機動力で躱す竜達。それでも降りしきる武器の物量では竜の体躯では避け続けるのにも限度があった。
「まだまだ!」
そこをカルマータ率いる救世獣達がカバーする。命無き機械兵だからこそ容赦なく使い捨てに出来る。壁として、盾として、それらが墜ちる武器の射線上へと割り込んだ。
武器の一斉掃射にて我への被弾無し。忌々し気に舌打ちするナタニエルへ向け、雷撃のブレスが放たれた。
「この程度…」
寄せ集めた刀剣で即席の盾を作りブレスを凌いだナタニエルがさらなる武装を展開する。今度は竜への特効を持つ剣。貫通力重視の大剣の群れ。
下級天使ごと射貫くつもりで再度一斉掃射の構えを取ったナタニエルが、ふと視線の先にいる雷竜の背に意識が向く。
誰もいなかった。あの雷電纏う砲塔を創り上げた男が、どこにも。
「よォ」
「!」
わざわざ声を掛けて、妖魔が頭上から剣を振り落とし、それを愛用の槌で受け止める。
「面白いことするじゃねェか、もっと見せろよ。俺も武器造りにはそれなりに自信あってな、精度比べと行こうや!」
「…武器?武器だと…?」
ブレス直後に跳躍してナタニエルの視界外から攻撃を仕掛けてきたらしいアルがやや興奮した面持ちで言うと、大天使は静かに疑問を吐露した。
「その棒切れの何が武器なのか。武器とは…私の造った物のことだ」
一払いでアルが握っていた剣は砕かれ、勢いのままに巨人の頭へと着地したアルへ槌が向けられる。
「お前達の扱う玩具とは何もかもが違う。質も、量もな」
「ハッ!」
ナタニエル周囲に現れる武器の数々。鼻で笑って、アルは同じように掌をナタニエルへと向ける。
そして握り込んだ直後、射出寸前であったいくつもの刀剣が破砕した。
「…なんだと?」
現象の正体は死角より飛んできた同数の剣。最初の掃射で壁になって砕け散った救世獣の躯体から造り上げたアルの武装だ。
それがナタニエルの武器に横合いから突っ込み、共に壊れて落ちていく。
武装の遠隔創造・操作はアルの能力では通常不可能だが、世界の敵を前にした〝真銀の眷属〟としての強化が局所的に能力適用範囲の拡張を兼ねていた。
つまり今、アルは創造の天使が持つ権能に酷似した性能を有している。
「悪ィ聞こえなかった。もっかい言ってみてくれよ」
アルはビーコンを所持していない。巨人の頭部には別の誰かが到達する必要がある。
だからこそ、彼は普段よりも殊更に強調を意識した嗤い方で大天使に中指を立てる。
「誰の何がなんだって?オモチャみてェなハンマー持ってるだけの女神のパシリ風情がフカすじゃねェかよ、あァ!?」
「―――殺す」
これで完全に大天使の標的は確定された。
殺意が交差し、数え切れないほどの武装が互いの命を奪う合う為の弾となって飛び交う。
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