小人が巨人を倒すには (後編)


「ふうむ。ではダモクレスを解放しましょう」


 機械系最強の高性能アンドロイドは、事情を受けて即座にそう返した。

「ダモクレス…?」

「巨大制止衛星にして、そこから放たれるレーザー砲のことも指します。最大出力は星を軽くぶっ壊すスターライトブレイカークラスになりますが」

「えっ」

 思わず唖然とした俺に、シャザラックは安心させるようにふっと微笑む。

「ご安心を。もちろんそんなことにはさせませんし、そんな拡散させた威力ではむしろあの巨体を討つには火力が足りなくなってしまいます」

「衛星砲を集束させてあの巨人―――ヴァリスというそうですが、それだけに絞って落とすということですか」

 いち早く理解を示したヴェリテに首肯し、シャザラックが指先の動きで投影モニターをひとつ展開する。そこには簡易的なエリア8の図とその中央に立つ巨人ヴァリス、さらにはその上空から狙う衛星の形が映し出されている。

「先程ヴェリテ様が仰られていたように、ダモクレスは極めて強力なレーザー砲であります。ですが、あのレベルの巨体ともなればただ無造作に撃って倒すというのも無理難題。そこで」

 ピコン!とヴァリスの頭頂部にアイコンが灯る。シャザラックがこれにポインターを合わせ、

「巨人をピンポイントで狙う為のビーコンを設置する必要があります。これを用いても計算上一撃では止められませんが」

「えー!何回もやんなきゃなの?」

 夕陽の頭の上でロマンティカがぶーたれるのにも嫌な顔ひとつせず、シャザラックは指を三本立てて見せる。

「はい。限界まで絞ったダモクレスの威力と神造巨人の耐久性を加味して演算した結果、三度をもってこの巨人は沈黙します」

「やっぱ一筋縄じゃいかないか…」

「てゆーかさ」

 三発分の衛星レーザーをどう当てたものかと今から考え始めた俺の背後で、着席したまま机にべたりと上体を預けた状態でトゥルーヤが挙手する。

「そんなに強力な兵器があるんなら、それで竜王とかを吹っ飛ばす方が先じゃない?」

「竜王には真新しい武器は通用しねェよ、撃つだけ無駄だ」

 アルが即座に提案を断ち、そこへヴェリテが新たな情報と共に捕捉を入れる。

「加えて言えば日和が〝視た〟という超巨大な竜種……ブレイズノアの件を鑑みるに、おそらく二体目の『厄竜化』した祖竜…テラストギアラである可能性が高いです。であれば生半な攻撃は終わり、です」

「喰う…とは?」

「その話も後ほど、兵軍全体に共有しておきましょう」

 話の本題が逸れることを懸念してか、ヴェリテはひとまずその祖竜の話は後回しにしてシャザラックへと視線を送った。

「ビーコンの作成は私の方で行います。一度使うとレーザーに巻き込まれて消失してしまうので三つ、いえ予備も含めて五つほど作りましょう」

「何から何まで悪いな…時間はどれほど必要だ?」

「六百秒ほど頂ければ」

「はっや!?」

「高性能ですので。どややぁ」

 再度胸を張ったシャザラックが、ふと真顔に戻って巨人対策に関する別の問題を指摘する。

「ダモクレスへのアクセスと承認に関してはこちらで全て行いますが、巨人を取り巻く無数の天使と『創造の天使』なる上位存在に関してはノータッチです。その辺り、練っておいた方がよろしいかと」

「うーん。確かに…」

「また物量差問題か…」

「少数精鋭は言い方変えれば人員不足ということですからね…」

 シャザラックのもっともな助言に、俺の左右からディアンとヴェリテも腕を組んで唸り始める。アルは全然考えてる素振りもなく白埜とあやとりなんか始めていた。どうせここの面子だけでゴリ押すつもりでいるのだろう。脳筋はこれだから…。


「兵軍の損耗も馬鹿にならないしな」

「元帥率いる第一中隊もあちらに掛かり切りで動けないでしょう。無傷の第二中隊は相変わらず音信不通の『FFXX』と共に抱え落ち状態です」

「一番兵力ありそうなのに何してんだ。第三も第四も既に任務付与されてるし動かせるのってあとどこだよ?」

「前回の時空戦役で助太刀に参じてくれた騎士団も此度は反抗勢力の鎮圧に差し出すと聞いた。借り受けるのは無理だろうな」

「エルフの人たちはまたセントラルに戻ったんだっけ?確か『森人』とかいうグループ」

 俺、ヴェリテ、ディアン、シュライティア、エヴレナが円陣を組むように顔を見合わせながら現状の兵力確認を行う。

「最悪セントラルで対策本部立てまくってる『澤瀉』も引っ張ってくるしかなさそうだな。シュライティア、『桔梗』の竜達も総動員させてくれ」

「承知した。すぐに招集を掛けよう」

「盟約通り『森人エルフ』にも出張ってもらおう。世界の危機だ」

「では連絡は私が」

 シュライティアとヴェリテが部屋から出て行き、ひとまずの出せるカードはこれで全て切った。

 だが。

「あー……あの巨人の内部に収容されてるっていう下級天使?ってのは目算でどのくらいいるんだっけ?エヴレナ」

「数百万って言ってた……」

「やべぇ、死ぬほど足りねぇ」

 一人当たり何体担当すればいいんだ?計算しようとするだけで頭が沸騰しそうだ。

「人手不足の話してる?」

 やる気があるのか無いのかよくわからない体勢で机に突っ伏していたトゥルーヤがむくりと起き上がる。このタイミングで話に割り込んできたということはもしや。

「何かアテがあるのか?」

「アテっていうか、一応僕死霊術師の一族出なんで、死んだ魂かき集めて受肉させれば一時的だけど戦力にできるよ。マックスで百体くらいだけど」

「うぅーーーん倫理モラル的にすげぇ攻めづらいとこで来たなぁああ」

 これ採用するのはどうなんだろう。俺の世界では結構御法度だけど、そんな青臭いこと言ってたらこの戦争間違いなく負ける。

「オイ…ちょっと待てトゥルーヤ」

 考え込んだ隙に、アルがあやとりに両手が塞がったままの状態で振り返る。また喧嘩でも始まるのかと思いヒヤリとするが、どうもこの真剣な表情からしてそうではないらしい。

 急にどうした?

「魂の受肉っつってたが、そりゃ絶対生身の肉体じゃねェと駄目か?例えばこの世界で稀にいる、機械人間みてェな感じで造り物の器でも」

「え?うぅん、どうだろう。僕の世界ではやったことない案だけど…できなくは、ないかな…?」

「シャザラァック!!」

「はい?」

 黙して作業に集中していたシャザラックを熱を帯びた声でアルが呼ぶ。既にその場で素材を使ってビーコンらしきものを二つ完成させていた。高性能が過ぎるだろ。

「お前あのカッケェ飛行機作ったんだよな?なら巨大な人型兵器とかも作れんじゃねェの!?高性能だもんなァ!」

「ふふん、無論です。ですがお金は掛かりますよ?」

「セントラル行政区にツケとけ!急いで作ってくれや百機!!」

「えっオイお前まさか…!」

 ノールックであやとりの富士山を作ったアルががたりと倒して勢いよく立ち上がる。

「全然興味ねェ話だったがこうなると別だぜ夕陽!男のロマン、スーパーロボット大戦始まるぞオラァ!!」

 喜々として声を上げるアルに、俺はただ痛み出したこめかみを押さえ、隣に座っていた幸はひたすらに頭を撫でて労わってくれていた。




     『メモ(information)』


 ・『暴竜テラストギアラ』の詳細情報を兵軍全体に共有。


 ・『黒抗兵軍遊撃中隊「桔梗」』及び『黒抗兵軍後衛支援中隊「森人」』、緊急招集。


 ・『黒抗兵軍中央参謀情報管理本部「澤瀉」』、要請に応じ人員編成開始。


 

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