チーム・GIANTKILLING


「え、カルマータから通信?」


 準備を整え、いよいよ〝成就〟の概念体ことウィッシュ=シューティングスターを救出に行かんとした時、夕陽達は戦友からの通信連絡を受け取った。

 正しくはセントラルに編成してある黒抗兵軍中央参謀情報管理本部『澤瀉おもだか』を介して送られてきた情報を米津玄公斎が受け取った形である。

 それによれば、事はエリア8で起きたものだという。

「うむ。こちらでも確認した。天を衝くほどの超巨大な人型兵器がセントラルへ向け動き出しているとな」

「こちらがその映像になります」

 玄公斎に視線で促された冷泉雪都が、魔術を用いたモニターを壁面に投影させると、そこには高い山々と、それらとは比較にならない大きさの『何か』の脚部らしきものが映っていた。

 そして大規模に破壊される山と雲海の只中に、飛び回りながら攻防を展開する見覚えのある魔女姿もかろうじて確認できた。

「……確かにカルマータですね。というか」

「何故あんな場所に…?」

「あの魔女の居住区はエリア7だろ。何してんだ」

 目を凝らしてモニターを覗き込んだ夕陽の上から覆い被さるようにヴェリテ、アルが続けて疑問を口にする。

「そこまでは聞いとらんが、何か事情があってのことなんじゃろう」

 リアルタイムで送られてきているらしい映像を流したまま、玄公斎は困ったように座したまま腕を組んだ。

「どう考えても女神の刺客によるものじゃが、皆も承知の通り今の戦力ではそこに割けるだけの人員を割り振れぬ。新たに加入してもらった傭兵団も別の方面に当てる予定じゃしの」

「うーん。なるほど…」

 言葉や態度とは裏腹に、こちらに求めてきていることは夕陽も察している。

 少数精鋭でこれまでことを成してきたこちらの陣営は遊撃という面ではどこよりも機動力に秀でている。少なくとも、軍という形で良くも悪くも一個の塊として動く彼らの陣営よりは小回りが利く。

 確定された目的を即座に変更して行動に反映させるのも容易ではある。

「日和さん!」

 だが懸念はいくつかある。それを確認する為に、夕陽はモニターから一番遠い位置の席で映像には目もくれずに茶で一息ついていた師を呼ぶ。

 問うより先に答えは返って来た。

「今すぐにどうこうなるほど〝成就〟に掛けた保険は柔くない。サブイベントで寄り道する程度の時間はあるよ」

「いや全然サブ扱いではない事態なんですが……」

 おそらく見なくても〝千里眼〟でいるのであろう日向日和は、規格外の巨躯を誇る異質な敵に対しても普段の態度を崩さない。そもそも彼女にとって自らの世界とは無関係な危機などには興味も湧かないのかもしれないが。

「よしわかりました、俺達で行きます!」

 ともあれ太鼓判は押してもらった。夕陽にとっても、かの『廃都時空戦役』で共に戦った魔女の救援要請は見過ごせるものではない。

 即断即決で意思を固めた夕陽に、予想の範疇ではあったものの玄公斎はひとつ頷いて返す。

「多くが地下探索を終えた者達ばかりの中ですまないとは思うが、頼む。こちらでも対巨人において手を貸せる人員を出来る限りかき集めてみよう」

「お願いします。今度はオルロージュより規模のデカい相手なので」


 夕陽が玄公斎と話している間、既に他のメンバーは最前列で聞いていたアルとヴェリテを筆頭に動き出していた。

「おっら解散解散!もっかい装備改め直せー次の戦場はミナレットスカイだってよー」

「対竜の装備は一旦ホテルに残置で構いません。それより以前の時空竜同様、怪獣を相手にするつもりで武装を整えるように」

「えーせっかく新しくつくった毒草鱗粉でりゅーおーにぎゃふん!って言わせてやろうと思ってたのにぃー!」

「レディ、残念だが流石に竜王には効かぬだろうと思うが」

「刻印術のレパートリーも考え直した方がいいなこりゃ。ガッツリ竜殺しで固めてんだぞ今」

「威力重視で刻み直そうかディアン。ほらとっとと部屋に戻った戻った!」

「…………ウィッシュちゃん」


 それぞれ(特にエレミア)が新たな行動指針に対し複雑な表情を浮かべつつも、結果的にそれらの障害を取り除いていくことが勝利へ繋がると知っているからか、解散は流れるようにあっという間だった。

「…先に」

 全員が部屋を離れる前に、ふと立ち上がった日和が呟きのようでその場の全員の耳に届く不思議な声音で言う。

「まだ言っていなかった情報だけ、明かしておこう。竜王の居所に関して」

 一瞬で空気が凍る。皆がその話に耳を傾ける。

 僅かではあるが聞いていた情報。竜王はブレイズノアとは異なるもう一体の祖竜、その広大な竜化形態の内部に居城を敷いていると。

 彼女の常識外の索敵範囲を誇る〝千里眼〟を用いてもようやく最近になって見つけ出したというその所在。

 者によっては息すら止めて次の一言を待っている中、日和は世間話のように、間を持たせることもなくあっさりと言ってのけた。


だ」


 その一言で、日向日和が情報を出し渋っていたわけではないことを察する。むしろ、ここまで秘匿してきた理由もはっきりした。

 この場の誰しもがこの情報を他言無用のものとして言外に共有する。

 もしこの情報が洩れればフロンティア世界で人が栄える最大都市は瞬く間に恐慌状態に陥る。それを見た竜王が何か〝絶望〟の一手を早めないとも限らない。

 思えば道理ではある。竜王はこの世界を元の竜達が繁栄を極めていた時代に戻そうと画策しているのだから、現在もっとも数多く蔓延っている抹殺対象が集中しているそこを狙わないわけがない。

 リアではない女神がじわじわと真綿で首を絞めるように四方から刺客を放っているのに対し、竜王はそんなまどろっこしい真似はしない。そういう意味では、女神よりもより深く厄介なまでに、人間という種族を脅威として見ている。

 今一度、焦燥に焼かれる思いに身を引き締める一員。

 世界の危機、全てに決着をつける時は遠くない。いや、遠くては間に合わない。

 目下、彼らは女神の放った巨人を屠る為のチームを招集編成する。

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