報告とこれからに備えて


「戻ったか。無事でなによりじゃ」

「これが無事に見えんのかよクソジジィ!!いいからコイツらどうにかしやがれ!」


 ホテルの執務室にて地下探索組の総員が生きて帰ったことを朗らかな表情で称える米津玄公斎に対し、鼻息荒くアルは猛抗議する。そんな彼を含む探索組全員共が後ろ手に縛りあげられた状態であった。周囲には重武装した兵隊の姿もある。

「んだコレ!地上に向かう途中で変な人工物が壁ブチ抜いてるの見つけて中に入り込んでみたらこれかよ!皆殺しにしてやったってよかったんだぞ!」

 古代都市から少し上層へ昇った頃、明らかに人の手で造られたらしき建造物の一端を見つけた一同は、(多少強引に)入り口を開けて中へと入った。そこで見つけた貨物エレベーターを用いて一気に地上まで昇った直後に兵隊に囲まれた。

 どうやらどこかの軍事施設だと気付いた後、必死な弁明も暖簾に腕押しで連行された先がこのホテルだった。そこでどう話が届いたのか元帥閣下の私室に直接連れてくるよう言われた兵達に引っ張られて到着したのがたった今のこと。

 戦闘に秀でた者達であればあの程度の兵を捻じ伏せることは容易かったが、行先がホテルとわかるやヴェリテとシュライティアに半ば押さえ付けられる形でアルも渋々縛られたままおとなしくしていた。

「げ、元帥閣下!それではこの者達は本当に…」

「だから言うたじゃろうに、この者らは食客にして盟友。この世界で共に戦う陣営の戦力じゃと。それとも何か、ワシの話が虚偽だと?」

「ひっ…い、いえ失礼しました!!」

 ここまでの連行を手引きした兵達の隊長らしき男が米津元帥に冷えた瞳を向けられ、慌てた調子で部下達に縄を解かせてあっという間に部屋から出て行く。


「ったく…ひでェ目に遭ったぜ」

「いやはやまったく」

「また異世界で捕まるなんて思わなかったよ……」

「そういえばエヴレナ、貴女は捕縛されたの二度目でしたね」

「……神に捧げるこの身が不当とはいえ公的機関に捕まるなど……リア様はこんな穢れた私を赦してくださるでしょうか……ブツブツ……」

「だいじょぶ!かみさまってそんな、あれ、あの…そう!な人じゃないでしょ!だからだいじょーぶ!」

なロマンティカ。カミはそんな絶滅した陸生脊椎動物みたいな存在じゃねー」

「うう……こわかった」

「もう平気だよトラン。ここにいるのはみんないい人たちだからね」

 固まった手首の関節をプラプラと振るいながら皆が思い思いに不平不満を口にする中、まずはと前に出たエヴレナが広く大きい書斎机を挟んで椅子に座る玄公斎と向かい合う。

 そして机上に長大な刃を持つ剣をそっと置いた。

「米津のおじいちゃん。任務達成!神器持ってきました!」

「うむ、ご苦労であった。相当に苦しい戦いだったようじゃな」

 無傷が一人もいない探索組の全員を見回し、玄公斎が深く頷く。次いで机に置かれた不思議な雰囲気を放つ神竜の剣を見下ろす。

「して、これはどう扱ったものか…。頼んでおいてなんじゃが、扱いに困る業物じゃのう」

「使い手は選ぶと思うけど、ちゃんと使えればすっごい力になると思うよ。どう運用するかはおじいちゃんにお任せしまーす」

 唯一ノーリスクで剣を振るうことが出来るエヴレナも、たいした執着も無しに神器を兵軍の共有兵器として差し出した。今後はこれに関しても話し合いの場を設ける必要があるだろう。

「心得た。まずは風呂に入って身体の疲れと汚れを落としてきなさい。一昼夜地下に籠っていたのだから仕方ないが、お主ら少し臭うぞ?」

「だろうな」

「じゃあお風呂へ行きましょうか。…なんだかデジャヴがすごいですが」

「もう覗くなよシャインフリート」

発案者ディアンさんにだけは言われたくないんですけど!?」

 連戦に次ぐ連戦で疲労も困憊のはずだが、無事に任務を終えた安心感と達成感からか皆のテンションは高い。

「ああ、そうじゃった。アル」

「あん?」

 ぞろぞろと退室していく途中、呼び止められたアルが振り返る。

「風呂を終えたら少し付き合え」

「なんだよ酒でも振る舞ってくれんのか?」

「それは夕餉に際にでもな。そうではなく」

 立ち上がった玄公斎が、片手を上下に軽く振るう。そのモーションは槌を振り下ろして鉄を打つ鍛冶師のようだった。

 一瞬で期待が霧散し嫌な予感に表情が渋くなっていくアルへ、とどめの一言を何の悪気も無しに放つ。

鍛造しごとを頼むぞ、鍛冶屋アル

「…………、へっ」

 真顔で数秒、そして最後には顔を伏せて短く笑い、


「どういう神経してんだクッソジジィ天寿の前にここで殺してやろうかァ!!」

「戦争じゃぞ小僧いいからとっとと風呂行って武具を造らんかぁ!!」


「っ!!?」

 最後尾で部屋を出たトランだけが、執務室で始まった大喧嘩のゴングを聞き取って全身の毛を逆立て驚いていた。

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