覚醒せし血統
石棺の内に納まっていたそれに触れた途端、エヴレナが不自然に硬直したのは両名共に察知していた。
それでも様子を見に行くわけにもいかない。ヴェリテはメティエールを、シュライティアはティマリアを全力で牽制し押さえつけている真っ最中。意識を割けば一気に突破される。
だがそうでなくとも死に物狂いで攻め続ける竜王陣営の力は尋常ではない。火事場の馬鹿力によるものなのか、ヴェリテでさえ深く構えておかなければ一撃の下に弾き飛ばされそうになるほど。
(不味いな)
(これ以上は、…いえ)
あと数手の先に防衛網を抜けられる予感に焦りを覚えたヴェリテが、背後から急速に膨れ上がる気配の主にそっと表情を綻ばせる。
石棺を中心に銀色の輝煌がドーム内を照らし出し、撒き散らされた輝きはやがて一振りの剣へと集束される。
そうして、長大な剣を片腕一本で持ち上げたエヴレナが石棺の据えられた祭壇から降りる。
「…ありがと、みんな」
「「っ!」」
ふわりと微笑んだエヴレナがそう仲間の奮闘に謝辞を述べた時、ヴェリテとシュライティアは反射的に片膝をついて頭を垂れていた。すぐそばに気を抜いていてはならない敵が二体もいるという状況下で、それはほとんど本能に突き動かされた挙動であったとも言える。
誰よりも自身の行動に驚く二人の隙を、しかし敵の竜達は襲うことができなかった。
「……うぅっ…」
「これ、は…!」
まるで金縛りにでも遭ったかのように身体を微痙攣させている状態。加えて自分達の本能的反射的な行動を合わせて、ある存在の力が脳裏にちらつく。
暗黒竜王、エッツェルの
あの圧倒的な存在感と重なるオーラが今のエヴレナにはあった。
それでも身体が抵抗を覚えないのは神竜のカリスマが支配ではなく共生を体現した秩序の力であるからか。逆に、秩序に反する行動を取っていた竜王陣営の竜種は不可視の制限を受けているように見受けられた。
神器によってなんらかの恩恵を得たらしきエヴレナの背後、亀裂の入った空間から三人の仲間が現れる。
「ん。あっちの二人はまだか」
「そのようですね。それと」
「…レナ?」
もう片方の『ネガ』を請け負った仲間がまだ帰来していないことを確認したアルと、同意の頷きを返すクラリッサ。肩に乗るロマンティカは結界に入る前と何かが変わったエヴレナを不思議そうに見つめていた。
振り返り、その三人にも同じように穏やかな笑みを向ける。
「おかえり。神器、とったよ」
「…みてェだな。おめっとさん」
結界から戻った三人もエヴレナの雰囲気に忠誠心のようなものがくすぐられたが、竜種ほどの急激な作用は無かった。
そんな会話をしていると、重なる二つの咆哮が建物全体を揺るがす。
竜王への忠誠と竜種としての意地で強引に精神的な拘束を振り払ったティマリアとメティエールがエヴレナを睨み上げる。
「神器ッ!」
「破壊する…!!」
今にも飛び掛からんとしていた敵の勢いを止めようと再び雷竜と風刃竜が武器を振り被る。
それらの行動を全て置き去りにする、不可思議な風切り音が鳴り渡り、
「―――え?」
「ごめんね―――」
瞬く内に間合いを詰めたエヴレナが疫毒竜の懐から剣を振り上げる。
「メティ」
火刑竜の呼び声すら、その一閃には間に合わなかった。
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