VS 火刑竜ティマリア (後編)
ロックダウンとの戦闘でもアルは似たような戦況を作り出した。ただし、あの時は比較的短時間であったこと、相手が人間だったことで成立していた勝利だ。
相手は火炎の只中にあっても無傷でいられる火竜。対してこちらは当然、火の中で生きていられる生物ではない。
視界が少しぼやける。負傷によるものか、酸欠によるものかはわからない。
言えることは、これ以上長引けば
地面から絶えず突き出でる炎杭を直観で回避しつつ、頭上から飛んでくる乙女の形をした焔を斬り捨てる。
機動性重視でそれぞれの手に握る短剣〝
(切り開くッ!!)
踏み砕いた地面から突出する刀剣に一文字を刻み、爪先で器用に柄を蹴り上げる。
原語は
「〝
タイミングを見定め、炎の猛攻が肌を焼く寸前で後方に振り被った右足で刀を蹴り抜く。
「〝
そのルーンに込められた意は『凍結』、そして『停滞』。
回転する刃は氷の道を作りながらもティマリア目掛けて猛進し、
『その程度!』
大きく吸った息をブレスとして吐き出す。全てを焼き尽くす炎熱は氷の刀を瞬間で蒸発させた。即座に次撃のブレスを蓄え、水氷で出来た道の先へ照準する。意表は突かれたが、それまでだ。これ以上何か仕掛けさせるつもりはない。
『これで…、っ!?』
最大威力のブレスを吐き出しかけて、燃やすべき対象が視界から消えていることに驚愕を露わにする。
いない。氷の道のどこにも。
(どこへ…!)
全感覚に頼り行方を追うが、姿の代わりに現れたのは小振りの短剣二つ。それぞれが別方向から炎を引き裂いて飛来する。
『オオォ!!』
どちらも竜特効の乗った武器。火炎弾と炎杭で確実に撃ち落とす。
「〝
既にして大広間はその大半を炎に埋め尽くされていた。炎壁の障害もあって、この領域で焦熱から逃れる術はない。
だからこその活路だと考えていた。水と氷で紡いだ生命線。一撃を賭ける進路。
使わずに来るとは思っていなかった。
(馬鹿な、炎の中から!)
強き竜種は見下していた。過少に評価していた。
竜以外の劣等種。そんな者が己の命をあえて削るような強行、凶行に出るなど夢にも思わなかったのだ。
氷刀、短剣の投擲によって意図的に誘導された意識の外。ティマリアの真後ろからその声は響いた。
ゆらりと。
肌を焼き焦がす火炎を振り払うこともなく、ただ焼かれるままに身を任せ、まるで気にも留めないように妖魔は明鏡止水の精神で両手に握る大剣を高く掲げる。
「〝
『気が触れているのか貴様はッ!!』
生存本能に逆らう自殺行為。今まさに焼死に近づく妖魔は強暴に灯る意志の光を滾らせて猛り笑う。
五つの
強烈な爆裂に広間全体が爆ぜて沈む。大小様々な瓦礫が落下し自身で展開した火炎が爆風で吹き消されるほどの威力。
ティマリアは愕然とする。
『なん、だと』
その直撃を受けたはずの人影はまだ、剣を手放してはいなかった。
煙の先にいてもわかる眼光は火竜以外の一切を見ていない。
怖気が走る。竜の巨体が一歩退いていたことをティマリアは自覚できなかった。
そして切っ先が墜ちる。
「〝
ーーーーー
黄金の伝説に出典を持つ聖人の剣を模した一撃。それは確かな手応えと共に大地を抉り大広間を完全に破壊するだけに留まらず、古代都市へと続く大扉を粉微塵に打ち砕き都市内部にまで余波を広げた。
「ハァ、…はぁ…はあー。……ァ、ごほ!」
戦闘の残り火に囲まれて、全身から煙を引いて歩くアルがここでようやく古代都市に一歩踏み入れる。
全身に酷い火傷を負ったまま顔を上げる。喉が焼けてしまって荒い息遣いと吐血の咳しか出なかった。
どこか他人事のように自分の状態を分析して、ふうと息を吐く。
迫る死期を感じていた。
(…。まじィな、死ぬぞ)
それでも足は止まらない。
火竜との戦闘を終えて、アルは生物の気配が密集している都市中央へと黙々と歩を進めた。
『メモ(information)』
・『妖魔アル』損傷甚大。〝
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