VS 『園芸』のスコップ・スコーン


「エヴレナ、シャインフリート。竜化して飛べ!」


 巨大なウツボカズラのような形をした植物が繰り出す鞭のような蔓草を斬り捨て、アルが小太刀と短剣でそれぞれ応戦していたエヴレナとシャインフリートに命じる。

「種を弾みてェに飛ばすヤツはいるが、基本的に連中は空は飛べないらしい。お前らは空中からデカい的に絞って攻撃しろ!」

『いいけど、それならアル達も!』

「俺は地上こっちでいい。その方が都合いいんでな」

 竜化した自身にディアンとクラリッサを乗せたエヴレナに返し、アルが大きく地面を蹴りつける。

 途端に、彼の四方から別々の刀剣が突き出た。

 結界内であっても地面、そして地中の鉱物が存在するとわかった以上、アルにとっての戦場は地に足を付けられるここが最適だ。

「どんどん増えやがる。ブレスで応戦しろ。ディアン!空から斬撃の雨を降らせてやれ!」

「まだ先も長いってのにこんなド初っ端から魔力を使わせんなよ!」

「私も魔法で敵を倒します!」

 二頭の竜が飛翔し、空へと昇る烈風を背に受けアル達は各々の武器を手に手近な食人植物へ飛び掛かる。

「さして強かねェ。斬れば死ぬ」

「ですが数が多い。シュライティア」

「承知した」

 眼前の植物を叩き潰し斬り裂いた後、アルを間に挟んで背中合わせとなった雷竜と風刃竜の咆哮が殺風景な景色の果てまでを突き進んだ。

 芝生ごと地面を抉った二つのブレスが相当数の食人植物を滅ぼしたが、そのすぐ後には抉れた大地に浸食した芝生から新たに植物が起き上がる。

「キリが無いですね…。全て倒さねばならないのなら、骨ですよ」

「オイ、クソウサギ。園芸のなんちゃらっつってたな。ありゃなんだ」

 空からの支援攻撃で植物の足が止まっている間に、いつの間にか足元にいた白ウサギを掴み上げてアルが詰問する。

 まるで怯えた様子もなく、ウサギは淡々と質問に対する解答を示した。

『『園芸』のスコップ・スコーン。浸透の性質を宿した強気な寂しがりや。たくさんたくさん、遊んであげよう』

「ふざけろ。あの植物全部がそのスコップスコーンだってのか。遊び相手多すぎるわ」

『あれは『園芸』の使い魔。スコップ・スコーンから這い出るもの』

 話す合間にも植物は増え続ける。空からの攻撃と竜二体のブレスでも数は減り切らない。

 アルは白ウサギとの問答で手掛かりを得た。

、か。ならテメェ、本体はやっぱ」

『…………』

 白ウサギは応じない。問いと判断されなかったのか、それとも答えたくなかったのか。

 どちらにせよどうでもいい。ウサギを乱暴に放り投げ、アルは生み出したばかりの刀剣を全て自壊させる。

 代わりに、新たな剣を二本両手に鍛造し、噛んだ親指から垂れる血で刃に文字を書く。

「アル?」

「大体わかった。下がってろ」

 描いた血文字は赤熱する剣身に蒸発し、抽出された効力だけが剣に宿る。

「この結界はネガとやらが強制的にエンカウントさせる逃げ場無しの戦域。出るにはネガを倒すしかない」

 理屈も理論も判明しないが、どうせ異世界の何某なのは間違いない。今更それの不思議を理解しようとも思わない。

 条件と性質だけわかればいい。少なくとも対ネガ戦は『勝たなくてはならない』もので、『逃げられない』ものだ。

 そしておそらく、その『本体』はネガの性質によってそれぞれ違う。

 今回のネガは足元に広がるもの。

 二つの剣を振り上げ、地に叩きつける。

猛り火に狂えウル・ケンスズ。〝劫衝炎剣レーヴァテイン〟」

 〝術付ルーイン〟の付与効果を得た焔の剣撃は切っ先が地面に触れた瞬間から大地を舐めるように大火を奔らせ、食人植物の駆逐をそっちのけで芝生を焼き払っていく。

 炎の絨毯が地平まで広がっていき、やがて地を侵していた芝生が全て灰になった頃。

 空間全域が、軋む悲鳴のような音を上げた。




     ーーーーー

 一度の瞬きの内に、九名は元いたセントラル地下の薄闇の中に立っていた。

「ただでさえ出遅れてんだ、とっとと行くぞ」

 周囲を見回したり依然武器を構えたまま警戒態勢を解こうとしなかったりした仲間達に告げ、アルは元の空間に戻ったことへの感慨も皆無に先へ歩き始める。

 たった一度の交戦ではあったが、これの厄介さは嫌というほどに理解した。

 まず第一に、出会ったが最後、強引に結界内へ吞み込まれること。

 これに遭遇してしまえば、倒すまでは結界を出られない。その分タイムロスは大きくなる。既に先行された竜王の刺客に対しこれでは先んじて神器を入手するどころか追いつくことさえ難しくなってしまう。

 第二に、ネガが結界に取り込む数の問題。

 今回はたまたま一つ所に全員が固まっていた為、なんとか全員でネガ一体を打倒することが出来た。アルの炎剣とて、芝生を燃やし尽くす為の火力を溜め込むとあったらば一人では出来なかっただろう。

 ネガが最大でどれだけの敵を取り込めるのかはわからない。だが最悪を想定した場合一名。それもランダムでネガが選定した者との一対一を強いられる可能性がある。

「クソウサギ、ネガはあと何体いる?」

『…………』

 無言。

 めっふぃなる白ウサギは遭遇時におけるネガの情報は明かすが、それ以外に関しては基本的に応答しないことが多い。肝心なところで役に立たないウサギであった。あるいは、意図的にそういったシステムを組まれているのかもしれないが。

(だりィな。これじゃ竜共に先を越されちまう。……、いや)

 アルは自己の考えを一部否定する。

 この厄介さは、もしかしたらこちら側だけのものではないかもしれない。

 同じように地下へ潜った竜種達にもこのネガの完全無作為アトランダムが通用するのであれば、足踏みしているのは一方的とは限らない。

 とはいえ急がない理由にはならず。

 『園芸』のネガを相手に労した時間を取り戻すように、九名は足早に地下のさらに先を急ぐ。

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