救世の終わり
赤い瞳に映る無数のターゲット。
胴体着陸の際にセンサー類とシステムの一部がダウンした飛行船には既に砲撃時の自動ロックオン機能は落ちていた。
だがこれを全て
それは神にも等しい荒唐無稽な技術。神に非ずとも、このアンドロイドは神に比する力を誇る。こと、機械系においては。
シャザラックのブラックダウンによる
異次元じみた空間認識能力により、幾重ものビームと砲弾が全弾命中し歯車を五十三、撃ち落とす。
『―――何故だ』
彼の最大にして最強の技はこうした多面的な攻防に極めて優れている。かつて国に尽くしてきたお歴々の力を呼び出せば容易に捻じ伏せることが出来る。
だができない理由がひとつ。やらない理由もまたひとつ。
負担が大きすぎる。ようやく条件を満たし元の身体に戻れたというのに、すぐさまあの少年状態をまた強いられるのは厄介過ぎた。この先のことを考えても、それだけは避けたい。使うにしても後のことを考える必要の無い最終決戦時が無難な線であろう。
そして、やらない理由は単純。
信じているからだ。
彼を、彼女を、あの少年を、そこな少女を。
新たなる世代を、進みゆく時代を。
老いた瞳は今も青臭く輝いている。
名刀天涙は活き活きと振るわれることに喜びを覚えているかのように一閃のたびに煌めきを溢す。
ひとり、苛烈な戦場の中で踊るように刃を舞わせる元帥閣下、米津玄公斎。
その背には羽衣を纏う天女の姿が幻視されていた。
今を真っ当にいきる人間達の中では間違いなく最高齢の老兵が数十と迫る獣と鉄塊を斬り裂いた。
『何故だ。何故だ』
『創造』が無数の武装を展開する。
剣、槍、斧、刀、弓、銃。魔法はその情念に従い魔力の続く限り兵装を生み出し放ち続ける。
「ここで負けてちゃ、私は胸を張って私であることを誇れない。そうでしょ、あなたも!」
「―――とーぜん」
無数の兵装が舞い飛ぶ中を、救世竜の脚部を駆けて這い上がってくる高月あやかがにんまりと笑んで答える。
魔法が焼き切れていようと、彼女はその本来が埒外の存在。持ち前の天性の肉体をもって跳び上がる。
「手を伸ばせば届くんなら、伸ばす。そんで俺様の手は、どこまでだって伸びる!!」
『増幅』はもちろん使っていない。けれどその拳は銅鉄を砕き、その足は一度だって止まらない。
ヒーローは決して屈さない。その雄姿を見て、魔力が枯渇しかけている大道寺真由美も同じように笑う。
『なんだ、これは。何故笑う。何故信じられる。何故。どうして諦めない?なんで抗える?』
「まだ、わからないのかい」
筋肉と血管が切れた。頭の上で妖精が怒鳴る。体の奥で童女が案ずる。
日向夕陽の心はまだ死んでいない。少しでも目先の勝利に貢献せんと刻印の光る素手で歯車を止める。
同じく地上から伸びるは赤熱した穂先。赤い稲光を引き連れて二十、いくつもの攻撃を貫通させながら空へと昇る。
妖魔が最後の力を振り絞って練り上げた〝
そして。
「あんたが見誤った全てのツケだ。わからないはずがない。わかっていたはずだよ。あんたの能力が全て解放されたのは、悪竜王の呪詛から解き放たれたのは、この大戦であんた自身がそれを認めたからさね」
渾身の、しかしたった四度の攻撃しか受けていないはずの救世竜はボロボロだった。剥がれた外殻が瓦礫のように地表へ落ちていく中で、ゆっくりと降下してきた大魔女が竜の正面で浮遊する。
その手には二つの鏡があった。
「世界の見方を間違えた。言葉の定義を履き違えた。そのくせ、あんたは心の一番奥底でそれをきちんと認めていた。だから負けたのさ」
『カル、マータ…ァァあああああああ!!』
キン、キン、と。
それはまるで高速で何かが横切った飛来音を立て続けに聞いているよう。
向かい合う鏡は互いに互いを反射し、その都度速度と威力を上乗せしている。相互に行き来するその力が、瞬く間に音を置き去りにし光の速度にすら至る。
全ての性質を乗せ、自身が設計した人造竜の装甲を撃ち抜くことだけを考え抜いた対時空竜術式の最終技。
銘は無く、名は持たない。子を葬る一撃にこれみよがしに名前を付ける親がどこにいるというのか。
「親子喧嘩もここまでだ。多くに手を借りた、多くの犠牲を払った戦だよ。だからこそ、あんたの命は身内で奪う」
悲鳴のような怒号。形振り構わず、自身の再生すら後回しにして、全ての力を大魔女へと放つ。
だが届かない。武器が魔法が、砲撃が斬撃が打撃が、その悉くを許さない。
『……ッッ!!!』
悲しそうに笑う、複雑な表情を浮かべて。
カルマータは二つの鏡を消し去る。
後に残るのは延々と倍返しを繰り返し続けていた最大魔術の最大火力。
一切の行動を上回り、光の矢はオルロージュの胸を突き破り、胸部に彫られていた時計盤を砕き割る。
「恨め、憎め、この創造主を。私は
今度こそ内部の人造心臓を破壊し、時針と分針は動きを止める。
巨体を崩壊させながら、救世竜オルロージュはゆっくりと地へと倒れゆく。
その様子を見上げ、あるいは見下ろし。
打倒人造竜の為に集った数々の勢力戦力の者達。連合軍の総勢が勝鬨を上げた。
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