隕撃拳砕 / 第三段階、決行
他の一切何においても止めねばならない。
オルロージュはそれを察した。指揮官機たる八体の『救世獣』の内三つが破壊された状況でも、その巨大な瞳は空から飛来する高月あやかのみを捉えて離さない。
あやか目掛けて飛来する歯車と時の矢は、その悉くが必ず何かに阻まれる。修道女の放つビームが、刻印の印された剣を振るう少年の斬撃が、あるいは竜種のブレスが、彼女の落ちる先を確保し続ける。
(撃ち落とせない…!〝無常〟はどうした?時の干渉が何故通らない!?)
時空竜としての権能を全て指向してもまるで通らない。高月あやかの周辺を膜のようにカルマータの対時空竜術式である〝
「リロード・リロード・マキシマム・クラッシュ・エンハンス」
拳が燃える。ヒーローの拳が隕石のような圧力と波動を伴って落ちてくる。
もはやなりふりは構っていられない。ここまで一歩たりとて動くことのなかった己が巨体を駆動させて下がろうとする……が。
「戦士が練り上げた渾身を受けずして下がるのは如何なものかのう?その浅い意地、『醜い』のではないか?」
足が動かない。踝までを凍てつかせた老兵の抜刀が回避を阻んでいた。
『こ、の…枯れ骨が!』
「その老いぼれを見下ろしている場合か?ようく見晒せ、実に美しき隕鉄の如き在り様を」
眼下の軍人に意識を奪われたのが致命打となった。
煌々と空を照らす赫灼の墜落。米津元帥はすぐさま時空竜周辺で戦闘を行っていた部隊を引き下がらせる。
少女の小さな拳に、一体どれだけの魔法が重なっているのか。闘気と魔力を帯びた拳の威容は蒼天を覆う拳骨として多くの者を錯覚させた。
自由落下に任せていた身体がついに時空竜の頭部へと到達する。
握り締め、瞳を見開き、魔法の隕石はついに墜ちる。
「リロード・ガイアブレイカー……―――メテオインパクトッッ!!!!」
ーーーーー
「うぉ、っとおおお!?」
「なんだこりゃあ!!」
「誰が何した!?」
その世界を知る者は『神の杖』の存在を信じたであろうほどの衝撃力が時空竜の身体を伝い大地を引き裂く。地上で『救世獣』と交戦していた部隊の兵達は赤く染まった紅蓮の空に終末を視た。
だがまだ終わらない。
(やべ。これは、……継戦無理っす)
焼けた腕から煙を引きながら、頭部から亀裂を奔らせる時空竜の真横を落ちていく高月あやかが悟る。
通常ありえない、『固有魔法』の
しかしあやかの顔には一抹の不安すらも無かった。ただ満足した表情で、落ちる。
任せていける仲間が、後を託せる友がいることを頼もしく感じながら、親指を立てた拳を突き出すあやかの高笑いが徐々に小さく遠のいていった。
ーーーーー
オルロージュの咆哮が響き渡る。
ブレスではなく、純然たる苦痛の悲鳴。人造とて通う血もあるのか、鮮血を噴き出しながら天を仰ぐ時空竜の巨躯を滑り駆け降りる二人がいた。
「
「幸!〝倍加〟全能力三千倍で固定!〝干渉〟高出力で維持頼む!ティカ、惜しみなく薬効鱗粉流し込め!!」
黄金色の火焔に燃える右腕に神鉄を握るアルと、刻印に光る両腕で神刀を担う夕陽。
互いに巨大な竜を挟んで背面と前面から、自傷もお構いなしに威力を蓄えていく。
「合わせろ夕陽!!なんならこれで仕留めっぞォ!!」
「乗った!!三撃で討ち取る!!!」
『六度の攻撃以内に敵を討つ』のが今作戦最終目標にして時空竜撃破条件にして第三段階の概要である。
つまり、仕留められるのであれば六撃に拘る必要性は無いということ。
両名共に死ぬ気でこの戦を終わらせる気概を見せ、自分の手番で終決を狙っていた。
「…?―――!?」
無数の飛竜とそれに騎乗する兵士達、縦横無尽に飛び回る歯車と飛行型『救世獣』との空戦で荒れに荒れた空を飛び回る雷竜ヴェリテの背にて、時空竜を討つ術式の準備を進めていた大魔女カルマータはその異常にいち早く勘付いた。
『…ぉお、オオオオ。きこ、聞こえる。互いを、想い合う、声が。これはなんだ、善きもの…清き心……?そんな、ものが―――何故』
(急速に性能が上がった……いや上がり続けている!不味いこれはっ!!)
血を流し虚空を見据えるオルロージュに危機感を覚える。カルマータはこれを知っている。何よりもその為に、彼女らはこの人造竜を手掛けたのだから。
「ヴェリテ!あの二人のもとへ急行しとくれ!一度オルロージュから距離を取る!」
『今更何を!?ここまで来て退くつもりですか!』
「違う!!」
曲りなりにもこれは戦争。その形を取って争っている以上はありえない事態だと信じていた。
しかし最悪の事態は訪れた。この戦争における、自陣営の絆と信頼が裏目に出た。
「封印の枷が完全に解かれた!今のあいつは―――救世竜オルロージュだ!!」
ーーーーー
「あ?」
「なんだ…と」
今まさに放たれんとした最大奥義を前に爆光を押さえ込んでいたアルと夕陽の身体を貫通して、銅色の矢が何本も突き刺さっている。
見えなかった。不可視ではない、速過ぎて目で追えなかった。
オルロージュが実行できる最大加速を遥かに上回る時間操作。予想外の加速に対応が遅れた。
血を吐く。どうにか身をよじって急所だけは避けたが、一番の問題はそこにない。
(クソ、これはやばい)
〝時間の矢〟は当たった対象の『魂の時間』を止める術式が込められている。生物であればその物理的な威力の前にこの術式によって死に至る。
夕陽はこれをなんとか防ぐことに成功する。両腕に刻み込まれた数ある刻印術の中には、リートがこっそり仕込んだ
だから夕陽は自分の損傷を視野に入れない。そんなものより、今はオルロージュを挟んだ対面にいるはずの妖魔の方が危険なのだ。
「アル!!」
「――――――」
彼には、この術式を防ぐ手立てが何一つとして、無い。
「……ね。おねがい、しようか」
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