リベンジ・インパクト


「ガハハハハハ!!」

「ヒャハハハハハハッ!!」


 飛行船及び竜種の主戦力がオルロージュの喉元まで距離を縮めブレスを封じた頃、地上でもちょうど大軍同士の衝突が始まっていた。

 中でも先陣を切る二つの部隊は異様なまでに猛威を振るう。言うまでもなく戦を生き甲斐とする狂人のみで構成された『天兵団』の面々と、長曾根要をバッドデイの車両に預けた後にすぐさま転進して最前線に追いついたリヒテナウアー率いる『イル・アザンティア』の騎兵隊である。

 そのやや後方を追随する正規兵の軍団を統制するのは指揮能力に秀でた鹿島綾乃、墨崎智香、マルシャンスらを筆頭とした各部隊長。


「陣形『釣瓶』!弓兵構えぇ!」

「しかと聴きなさい!!!」


 綾乃の号令に従い迅速に陣を敷いた王国射手部隊とエルフの一団、そしてマルシャンスの激励の布告プロパガンダ・ブレスによって士気の高揚と強化を付与され放たれた矢の雨が『救世獣』を襲う。

 無論その程度では無数に蔓延る獣の総軍は止められない。だが矢の雨に晒された中で、を炙り出すことは可能だ。

(―――見つけた)

 ひときわ頑丈で、他よりも一回り大きな山羊型の機械獣を弓兵故の高い視力でマルシャンスが捉え、即座に大弓に矢を番える。その矢は、奇妙なことに真っ赤な塗装が施されていた。

 射った矢は狙い通りに山羊の右目に突き刺さった。目視で確認し、声を張る。

個体識別マーキングできたわよ!他に構わずアレを最優先で撃破!」

 まずやるべきは当初の作戦通り、敵の指揮系統・通信網を破壊すること。竜種の特性を直接引き継いでいる時空竜直系の『救世獣』は特別性だ。耐久性もさることながら、その特異性は見る者が視れば看破することが出来る。

 例えばこの場には、それを可能とする者が二名いた。


「十時の方向。あれだ、あの一匹だけ動いていない犬型……ああいや、いい。私が直接仕留めよう、援護を頼む」

 青と黄の発光を瞳に纏わせ、視界に映る一面の鈍色の中から彼女にだけ解る異質な性質を見抜く。智香は迫る獣達を前にゆっくりと大剣を背から抜き、その切っ先を真上に向け眼前に掲げた。

 彼女の世界における儀礼の一種だが、他の者から見れば多勢を前に無防備を晒す自殺行為にしか映らない。

 兵士騎士の多くが彼女の盾になるべく我が身を惜しまず割り込もうと走り出すも時既に遅く、機械の爪牙が智香の柔肌へ吸い込まれ―――そして瞬きの内に機械は粉々に薙ぎ払われた。

「…どうした?早く援護をしてくれ。道さえ開ければ、あとは私が叩き潰す」

 まるで鈍器のように振り回し『斬る』ではなく『砕く』用途で扱う大剣を担ぎ、智香は出遅れた兵士達を不思議そうに振り返る。

 結果として犬型タイプ・ドッグの指揮官機を破壊することに成功するが、その露払いに前進した多くの者は「これ俺達いるか…?」と終始首を傾げていた。


「あっアレだ!あれだよシャインフリート君!あの飛んでるやつ!」

『いや全部飛んでるよね!?もうちょっとわかるように示して!』

 空を飛ぶ小さな竜が光弾で鳥型の『救世獣』を撃ち落とす最中、その背に乗った大道寺真由美は片目でフィールドスコープを覗きながらキョロキョロと空中戦場を見回していた。

 やがて大きな声で目標を見つけ仔竜に喜々として報告するが、〝遠夢見鏡ワールドヘッジ〟を介した特殊な視覚を持たない彼には何がなんだかわからないでいる。

 『救世獣』のシステムを解明した彼女の能力は、そのまま組成情報ごと指揮官機を判別できるほどの精緻さを誇っていた。それ故に今作戦において空の二種への対応は彼女と、彼女の足として浄光竜シャインフリートが名乗りを上げた。

「うーんそっか。なら私もマルシャンスさんみたいにマーキングしないとだ」

 フィールドスコープを目に当てているのとは逆の手の内に『創造』で赤い矢を生み出して握る。弓術にはさほど覚えはないが、その気になれば経験ごと『創造』してしまえばいい。


 飛び道具の物量による炙り出し。墨崎智香と大道寺真由美の能力による特定。

 指揮官機八種の撃破は、遅々とではあるが着々に成し遂げられつつある。




     ーーーーー


 飛び出す。跳び下りる。

 百数騎に減った飛竜が全騎飛び立ち、飛行船は地上へと意図的に落ちていく。そんな騒ぎの中を、最高高度のタイミングを見計らって彼女は飛んだ。

 自由落下する彼女を補佐するように、雷竜と真銀竜、その二頭に乗る者達が飛び回る。

 ここから先、一切の魔法は使わない。

 利き腕に宿る窮極の一撃を見舞うまでは。

 恨みがある。借りがある。

 彼女は知る由もないことだが、時空竜オルロージュが自身が封印されるに至ったトラウマを抱える能力を躊躇なく彼女に向けて放ったのは、それだけ脅威を認めていたからに他ならない。

 使わなければ殺されると、そう判断させたからこその〝メビウスの輪〟発動だったのだ。

 それを彼女は知らなかったし、唯一その事情を知っていたであろうカルマータは話さなかったし、そもそも知っていたとしても知ったことではない。

 止められたのだ。停められたのだ。

 自身最強の一打を、最高最大の好機を。

 だから今度こそ仕損じてはならない。

 高月あやかは、あえて高らかに笑う。


「はははっ!行くぜ、リベンジマッチだ!!」


 作戦の第三段階は同時並行的に行われる。

 『六撃必滅』のファーストアタックは極大の暴力。魔法少女の拳が時空の針をひとつ、進めに掛かる。

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