初手、時空の息吹を越えて (後編)
「『
「落下中の
「時空竜、周囲の『救世獣』を攻撃開始!時針のチャージ完了しました、…当初の演算結果より五秒早いです!」
「回収中の
予測を超えた速度でリチャージを終えたオルロージュが再度その咆哮を撃ち出す。アンチマギアを甲板まで引き上げ砲身に詰め直す時間は無い。
「やはりか。悔しいがこれも想定内よ!」
時を操るオルロージュの性質上、こちらの計算が合わないだろうことは予想していた。いくらでも時の加速が可能な以上、リチャージにおいても最悪のケースは考えておいた。
彼女は、その為に甲板に立っているのだから。
「頼むぞ真由美君!次弾凌いでくれ!」
「承知しました。―――『
一歩。増幅された距離は甲板を跳び越え飛行船の遥か前方までの移動を可能にした。
途端、時空竜のブレスが迫り来る。
真由美はアンチマギアほど戦闘に熟達していない、発動タイミングを正確に測れはしない。だが、この軌道に来るとわかっていればあとは待ち構えるのみだ。
「借ります。『
自身を中心に広がる異能無効化のフィールドが、触れた瞬間にブレスの威力を勢いごと消し去る。
(ひとまず仕事はした…よね。あとは予定通り、回収したアンチマギアさんが三射目までにもう一度飛んでくれれば……、あれ?)
空を落ちる真由美が飛竜の回収待ちの間にこの後の流れを反芻していた時、強大な閃光が目を焼いた。
(うそ)
「二射目相殺!三射目、来ますっ!?」
「馬鹿な、さらにリチャージが早まった…!!」
「砲弾再装填間に合いません!来ます!」
トップスピードを維持したまま突っ込む飛行船に対し、アンチマギアを回収した飛竜の速度ではまだ追いつけていない。
信じられない回転率で『救世獣』を破壊した時空竜が三発目のブレスを放つ。
既に互いの距離は相当に詰まってきている。比例して放出されるブレスが到達するまでの時間も早まる。
もはや苦肉の判断とされている回避の一手すらも間に合わない。
蒼穹を貫く破滅の一撃を前に、空を舞う全ての戦力が同時に動いた。
「クソったれが!シュライティア前に出ろ!かますぞ!!」
「ヴェリテ、ブレスと船の間に割り込め!こんなとこで終わってたまるか!」
アル・夕陽がそれぞれ騎乗する竜へ指示を出す。当初最先頭でブレスを全弾防ぐ魂胆で飛行船の後方をぴったり追随していた竜達が変則的な動きで迅速に前へ出る。
だが、指示を出した彼らに出番は譲らなかった。
『アル殿はお控えを!シスターやれるな!?』
「ええ存分に!我が祈り、我が信仰の真価をば、いざ至高天まで届かせましょう!!」
『夕陽もです!「六撃」の候補は誰一人この場で力を使ってはなりません!』
「っ…!」
「では、…私も駄目かい」
「しかしこれでは…」
背から乗り出したアルを諫め、代わりにその背後に座っていたエレミアが立ち上がり聖別された武具の全てに魔力を通わす。
ヴェリテの方も同様に、主戦力として乗っていた夕陽・カルマータ・雪都の力は頼れない。その三名を押し退けて、剣を抜いた少年がヴェリテの頭上に飛び移る。
「俺、だな」
「ひゅー。いいとこもらっちゃったねーディアン」
構える片手剣の表面が淡く光る。励起された刻印術から特大の斬撃が練り上げられ始めた。
「ディアン!……頼む!!」
「よく見とけ夕陽、刻印術は正しく使えばなんだって出来るってのをな」
「(…ディアン、言わずともわかるだろうけれど。ぼくは…ただのか弱いカナリアは、
「(わかってる。黙って見てろ)」
シュライティアとヴェリテの間、さらに二頭の小柄な竜が割り込む。
ひとつ。白銀に煌めく竜の左右からはそれぞれ三張りずつ大弓が展開された。
『ちょっと想定外だけど、やるしかないよね!』
「そうだねっ。船長さんも真由美ちゃんもきっちり仕事してくれたんだから!どこまで通じるかわからないけど、やろう!!」
浄化の力を持つ竜と女神。共にその性能は邪なるを討つ為にある。
最大出力の展開に真銀竜と女神の周囲からは爆発的な白光が広がる。
そしてもうひとつの仔竜。
(やるしかない、やるしかないんだ!!みんながそうだ、必死に頑張ってる!グリムガルデ、僕は……僕は君に恥じない
飛行船から飛び出して竜化したシャインフリートが、圧倒的に足りない戦闘経験を意地と信念で補う。
四頭の竜、三人の戦士が一斉に己が最大火力を振り放つ。当然、背後からは間隙を縫って飛行船の砲撃が火を噴き、甲板に座るモンセーもなけなしの力を振り絞って〝ザナームの一等星〟を発動させていた。
その全てが奇跡的に融合、あるいは威力を後押しする形で絡み合い、時空竜のブレスと真正面から衝突する。
十数秒の拮抗の後、まるで限界まで膨らませた風船に針を刺したような爆裂と爆風を伴って双方の火力は同時に霧散した。
出せるだけの威力を総動員して、かろうじてエリア一つを滅ぼすほどのブレスに抗し切ることに成功する。
そうして眼前、直立する時空竜オルロージュの姿が彼らの視界いっぱいに現れた。
到達。この間合いであればおいそれとブレスはもう撃てない。
加えて、ブレスを撃たせる余裕など、ここから先は与えない。
「第二段階じゃ!八つの指揮官機を叩け!じきに地上部隊も合流する!出せる全ての戦力を投下、動ける飛竜に乗って歯車と飛行型の『救世獣』を撃ち墜とせ!!飛竜の出撃を確認後、この船は地上へ胴体着陸を敢行する。残る戦力はワシと共に出るぞ!!」
「「「応!!」」」
どれか一つの勢力だけでは到底不可能であった、ブレスの猛威は突破した。
あとは『六撃』を決める者達に決着を委ね、そこに至る全ての障害を必ず跳ね除ける。
廃都時空戦役、その最終盤。
血風乱れる総力戦が始まろうとしていた。
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