四撃決殺
「随分と粘ったようだね、あの軍人は!」
多くの歯車と矢を避けながら、大魔女カルマータはオルロージュの首に下がる時計の針を確認して感嘆の声を上げると共に印を組んで魔法を組み上げた。
途端、その場にいた味方全員の頭上に、天使の輪のように小型の魔法陣が浮かび上がる。
カルマータが時空竜の一部感覚を同期したものを応用させた、認識共有の魔法。魔女を除く全員の脳内へ一瞬にして大量の情報が雪崩れ込む。
時空竜の性能、能力、権能の全て。常人であれば一秒の内に注ぎ込まれた情報量に対処しきれずパニックを起こすほどだが、今更この程度で異常を来すような者はどこにもいなかった。
時計のギミックを理解して真っ先に舌打ちしたのはここまで単身で戦ってきていた軍人鐵之助。その情報を得ていたのならば、また戦い方も変わっていただろうに。
現状ネックレス型の時計が刻む分針の位置は『4』。
あと四度の攻撃をオルロージュが受けることで〝
だが、やるべきことは変わらない。
(四撃だ)
認識共有の魔法は思念による相互通信機能も有する。即座に攻略を切り替えた六名が言葉を用いずして倒し方を定める。
各人が自身の動きを理解し散開した。
カルマータと遥加が中・遠距離から歯車と矢を破壊し、残りが懐へと潜り込む。
手番は示し合わせずとも決まっていた。
「おォらッ!!」
初手。最長継戦時間を持つ鐵之助のパイルバンカーが炸裂する。重ねた負傷から溜まったガンアベンジャーの累積値は最大上限の百倍を維持している。
「ふっ!!」
浮き上がったオルロージュへと追撃で迫るは両腕から刻印の光を放つ夕陽の一閃。もはやその斬撃は余波ですら周囲に帯同する歯車や獣すらも薙ぎ払うほどの威力へと昇華されていた。
分針がふたつ、戻る。
二撃分の猶予を以て鍛え上げた爆炎の剣を構え、着地の瞬間を狩りにアルが跳んだ。
馬鹿正直に真正面からの袈裟斬り。負傷箇所を押さえて片手を上げるオルロージュの時間操作が剣の動きを鈍らせるも、
「〝
対時空竜の術式を貯蔵していたカルマータの援護により解除。時間操作の能力を自前の魔法によって乱し霧散させる。
始めからこの展開を予期していたかのように、アルは揺らぐことなき振り落としで人化状態の胴へ爆撃を見舞う。
「…ード、リロード」
吹き飛ぶ先、これこそ予定調和。
連携の最終地点は一歩も動かず増幅を続けていた魔法使いの致命圏内。
拳の届くこの狭域こそが確殺の間合い。
「リロード、リロード。…マキシマムっ」
カッと見開いた目が猛禽類のように鋭く光り、渾身の一撃をタイミングジャストでその胸部へと叩き込む。
ただの純粋な、直線的な殴打。さりとて魔法による無限の強化を施されたパンチは常識の範疇に囚われない。
「インパクトォ!!!」
おそらくこの世界で他にはいないであろう、素手で竜種を貫く埒外のストレートが繰り出された。
ーーーーー
『廃都時空戦役』。
異界異国の連合勢力による時空竜オルロージュの討伐戦争。
連合兵数二千弱に対し、敵方の総数は推定十五万。
この致命的な戦力差において真っ当な策で付け入る隙は無く、連合は戦力の大半を敵を誘い出す囮として動かすことで僅かな時間、オルロージュへの突破口を開いた。
時空竜のもとまで辿り着いた精鋭は六名。
その極めて高く厄介な性能に苦戦しながらも、六名は時を司る人造竜の性質を潜り抜けた先、針の孔を通すが如き可能性へ全力を賭した。
誰しもが完璧な役目を果たし、最善最適な行動を完遂し続けた。
そして時空竜の命を砕く決死行の結果は。
―――失敗に、終わる。
この一戦は敗走の記録として後の史にも刻まれた。
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