集え、時の竜を降す者達(後編)
通信を閉じ、冷泉雪都は会議時から張りっぱなしだった背筋をほんの少しだけ曲げる。
(さて。元帥はしばらく戻られない。そもそも
「雪都さん!…あ、いえ失礼しました」
やや大きな音を立てて通信を行っていた部屋への扉を開け、長曾根要が早足で入室する。魔術式のモニターが展開していたことで会議中だったことを知り、すぐさまピシッと両足を揃え軍人の立ち居振る舞いに直す。
だが既に会議は済み、モニターにも砂嵐が流れているのみ。安心させるように雪都は入り口付近に立つ要へ微笑みかける。
「いえ、構いませんよ。それより要さん、招集をお願いします」
「招集……です、か?」
手元にはないが、編成表は頭に入っている。それらを思い起こしながら、
「『金蓮』、『薄雪』、『連翹』。使えるのなら『薫衣』も。それから通信端末から『桔梗』も駆り出してください。これだけの人員輸送ともなると陸路では到底遅い。風刃竜が集めた飛竜群を利用しましょう」
「…そんな大軍を率いて、一体何を…?」
「竜を墜とします」
ただそれだけで大半の事情を把握していた要は理解した。表情を引き締め、敬礼する。
「直ちに編成完了させます。出立時期を」
「万全の支度を整え次第、すぐに」
「了解しました」
優秀な部下の実直な態度に頷いてから、雪都は先程の要の様子を思い出した。
「そういえば要さん。私に何か用事があったのでは?」
「あっ。……そうでした」
要自身も雪都の命令を第一に優先していた為失念していたようだ。指摘にやや頬を赤らめつつも、要は座る雪都の前まで駆け寄ると気まずそうに一枚の紙を差し出す。
「本国からの通達がありました。その……増援を、送ると」
「…………」
その表情に何かとてつもなく嫌な予感を覚えつつも、受け取らないわけにはいかない文書に目を通す。
「…………、はぁ」
短い溜息のあと、その顔が渋いものに変わる。ちょうど、今の要と同じような表情だった。
二度と見ることはないと思っていた部隊名。事実、その隊はかつての悪行三昧から既に解体処分を受けているはずのものだった。
名を『第1天兵団』。規模としては一個大隊相当八百人。
ただし、殺し合いを好み戦場を死に場所に望む狂った八百人だ。
「頼もしい
「は、はい。……あの雪都さん。私も、地獄にお付き合いしますので」
「ええ。お願いしますとも」
ホテルの防衛に何割か残すとしても、その数は二千に届く数とはなった。その割合を多く占めるのが件の『天兵団』であるのがなんとも気掛かりだが。
米津ホテルより、本場仕込みの軍隊が西へと向かう。
「ああ、それから
『メモ(Information)』
・王国騎士中隊『金蓮』
・王国歩兵中隊『薄雪』
・王国射手中隊『連翹』
・独立翼人中隊『薫衣』
・『第1天兵団』
・『黒抗兵軍後衛支援中隊「森人」』
・『黒抗兵軍遊撃中隊「桔梗」』
・上記の部隊及び『冷泉雪都』、『長曾根要』、『モンセー・ライプニッツ』。『エリア7 : 不滅のメガロポリス』へ向け部隊編成の後、出立。
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