【廃都時空戦役】編

集え、時の竜を降す者達(前編)


『じゃあ結局「完全者」共はやっぱこっちにいるわけか』

「そうなるな」

 もはやお馴染みとなりつつある雷竜による飛翔移動の最中、俺は取り出した水晶型の通信端末でアルと交信していた。

 ひとまずは大森林で起きた事を要約し、そこで得た情報を共有する。それを受けても、アルの反応は小さかった。やはり予感はあったのだろうか。

「エルフからも言質を取った。『完全者』が女神リアとは別口の神性による影響を受けているのはほぼ確定だ」

『承知だ。まァ俺にとっちゃそんなことどうでもいいんだけどな。それより』

『まったくどうでもよくありませんが。そこの方!やはり今この世界にはいるのですね!?女神リア様に愚かしくも反抗せんとする背信者共が!!抹殺です滅殺です今すぐに発ちましょう行きますよ皆さん!』

『夕陽殿、「完全者」とやらを撃破したとか。どの程度の強さだったかお聞きしたく。強者ですか。如何ほどの強さであったのですか。詳しくお話頂きたい』

『なにこれー!ガラスの球から声がするよ?すごいねすごーい貸して貸して!わたしもおはなししたい。もしもーしっ!』

『うるせェぞボケ共が引っ込んでろ斬り刻むぞオラァ!!』

「……そっちは、随分賑やかだな」

 水晶越しでも耳がキンキンするほどに、向こう側は大騒ぎになっていた。唯一話していないのが無口な白埜くらいだ。

 知らない声の二名に関しても報告は受けている。シスター・エレミアにウィッシュ・シューティングスター。神の尖兵を討つ為にメガロポリスを訪れたのだとか(ウィッシュについてはまったくの不明だが)。

 数分ほど騒ぎの声々は続いていたが、最終的にはアルが全員蹴散らして遠ざけたようだ。少し息を荒げたアルの声だけが戻ってくる。

『とにかく!…こっちはこっちでうまくやる。どうも俺達以外にもこの土地に来てる連中がいるみてェだが、それもまァ敵じゃなければ適当に対応しとくさ』

「わかった。俺達も行った方がいいか?」

『むしろ来んな。殺し合いの取り分が減る』

 なんだ殺し合いの取り分て。相変わらずやべぇヤツだ。

『お前らはその時空竜?とかいうのをとっちめろ。こっちも済んだら合流する。幸い、距離はそんなに離れてなさそうだからな』

 どちらもエリアとしては同じメガロポリス内であると予測される。双方に何かあった場合はすぐに駆け付けることが出来るだろう。

「気をつけろよ。戦ってみてわかったが、『完全者』達は普通じゃない」

『それくらいじゃなきゃ面白くねェわな』

 実に愉しそうにそう返して、アルは通信を切った。あの男に限って油断慢心は無いとは思うが、それでも心配なことは変わらない。

「大丈夫かねえ…」

『信じるしかありませんね。こちらも気を揉んでいる暇はありませんから』

 俺の呟きを拾い受け答えるヴェリテの様子にも、少しだけだが緊張の色があった。彼女はその『時空竜』というのが活動していた頃を知っている。それだけにより一層警戒しているのだろう。

 通信している間に、もう景色は移り変わり廃都の姿が広がってくる。

 死した都市。もはや異形しか徘徊していないその上空を飛び回りヴェリテは気配を辿るようにゆっくりと方向を変えていく。その先は都市外殻部。

「そっちにいるのか?」

『うーん……そんな感じはするのですが。エヴレナ、何か感じませんか?』

『ぜんぜんわかんない!そもそもオルロージュって人が作った竜なんでしょ?いくらなんでも同胞を探すのとはわけが違うよ』

 右隣を飛ぶエヴレナもきょろきょろと眼下を見回しているが、件の竜は影も形も見当たらない。話によれば相当な大きさらしいが…。

『…………』

「ねータっくんもだいじょうぶ?痛かったら無理しなくていいんだよ?」

 ティカが気遣うのは左隣を悠々と飛ぶ東洋風の竜。先のロドルフォ自爆の際に身を呈して俺達を守ってくれた式神だ。

 あの自爆を防いだせいでその口元には大きな裂傷と焼け跡が残ってしまったが、活動に影響はないらしい。一応対魔女戦から朝の出立までの間は聖域で身を休めてもらっていた。式神に体力や再生力というものが備わっているのかは不明だが。

「タっさん。率先して動いてくれるのはありがたいけどもうちょっと自分の身も大事にしてくれよ。日和さんの写し身なんだろ?痛みも共有してるんじゃないか?」

 使い魔や式神といった術式の運用は使い手との同調率が高ければ高いほどその性能を増す性質がある。〝憑依〟も、最深度に到達した際には俺の五感や痛覚も幸と接続されてしまう為、その辺りのことはよくわかる。

『……』

 もとより発声機能が無いのでわからないが、タっさんは俺達の言葉に僅かに首肯したように見えた。それがどういった意味を示すものなのかは、判断に困る。

 ただその眼球は絶えず動いて廃都を睥睨していた。

「…ふむ」

 確かに目は多い方がいい。俺も〝倍加〟で強化させた視力で地上を眺めてみる。が、朽ちた建築物や魔獣の姿は確認できても大きな竜などどこにもいない。

 と、

「うぉっ!?」

 大きく身を乗り出していた時、不意に襲われた衝撃にあわやヴェリテの背から落ちそうになる。

 見ればヴェリテの脇腹から黒煙が上がっていた。何かの攻撃を受けたようだ。

『西南西!!魔術の攻撃です!』

「馬鹿な、いつ撃った!?」

『うそ、直撃するまで誰にも感知できなかったってこと!?』

 攻撃を受けても冷静に発動方向を割り出したヴェリテの言葉を信じて西南西を向くと、そこにはありえないものがあった。


「……塔……?」

『それこそ、馬鹿な。そんなものがあれば、とっくに気付くはず…』

 廃都外殻部の只中に、突如として高くそびえる塔が出現していた。




「竜。妖精。霊体。…それに人間か。さて」

 尖塔の頂きに腰を降ろした女性が、遥か遠方からこちらへ向かってくる者達の存在を看破する。

 片手に持つ杖をコォンと突くと、彼女の周囲で幾何学模様の魔法陣が無数に展開された。

「少し。試させてもらうよ」

 直後にはその空中投影された魔法陣から全て違う種類の属性で構成された砲撃が放たれる。

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