次なる戦場へ
「エリア7…ですか」
翌朝。
俺達はあの地獄のような『話し合い』が行われていた会議室に再び足を運び、そこで最奥に座すエルフ族長の左右に分かれる形で円卓の席に腰を下ろしていた。
「はい。『完全者』なる者共はそのほとんどがメガロポリスに向かっていたことは確認済みです。その後、その者共が何をしているのかまでは分かりかねますが」
エリア7。『不滅のメガロポリス』。
兵軍の情報網より『不穏な気配を放つ建築物がある』というところから、アル達が向かった場所だ。
結果的に脅威度の高さで言えばこちらよりもあちら側の方が高かったということ。
まさかアルが頑なにエリア7に向かいたがっていたのは、これを察知していたからか?
(…あいつの異常な直観力ならありえない話ではないな。一応、あとで通信端末から連絡入れておくか)
「それについて、私からもひとつ」
ポケットの中にある小さな水晶型の通信端末に意識を向けていた時、ふとヴェリテが手を挙げて総員の注目を集める。
「昨夜感知した人造竜…オルロージュですが。おそらくはその付近一帯のどこかにいますよ。大まかな方向しか知覚できなかったので、必ずしもメガロポリスの何処かであるとは断言できませんが」
言って、手元からバラバラになった蟻のような形をした機械を卓上に放り捨てる。既に機能を停止したものかと思われたが、原型を失ってもなお、その蟻は元の形に戻ろうと修復再生を継続していた。
「かつての戦争で人の勢力が一部の竜種と手を組んで創り上げた『機械仕掛けの救世竜』。以前のままの潔癖症が治っていなければ、まず間違いなく現行世界において敵対するでしょうね」
指先ひとつで卓上にある蟻の残骸を小さな雷撃で粉々に撃ち砕き、ヴェリテは椅子の背もたれに大きく体を預ける。
「この大森林にも既に人造竜の眼・耳となりうる使い魔、『救世獣』が至る所に這い回っています。こちらの動きは逐一知られているでしょうね。この会議の場ですらも、あるいは」
ふうと溜息を吐き、背もたれに体を預けたまま大きく伸びをするヴェリテ。見るつもりがなくともその豊満な体が伸びをする挙動に合わせて前面に押し出されるのが視界に入ってしまう。
「っ!」
「ていっ!」
「いてぇ!?」
幸に頬をつねられティカに髪の毛を引き抜かれ、思わず情けない悲鳴が出てしまう。凄まじく理不尽な仕置きを受けた気分だ。
「大丈夫ですか?夕陽」
「いや…平気だ、平気。と、ともかくだ」
頬を擦り頭を押さえ、俺は結論を要約する。
「『完全者』をどうにかするにせよ、新しく現れた人造竜なる脅威に対応するにせよ、俺達の向かう先は決まったってことだ」
「ええ。戦場はエリア7。神の尖兵、それに人と竜の過ちを討つ。これが目下最優先の目標でしょう」
対竜王は世界規模の協力が不可欠だ。これが最終決戦になるのはほぼ間違いない。
となればそれ以外の要素は事前に排除しておく必要がある。悪竜王と人造竜、そして『完全者』はそれまでには片しておくべきだ。
とはいえ、これら全ても単一戦力でどうにかできるほど簡単ではない。
「俺達と、現地に先行しているアル達だけでは心許ない。各地に散開している兵軍を集めないと勝てないか」
「ですね。もっと言えば、異界からの来訪者の力添えも欲しいところではあります。この世界にも強き者達はいますが、手を貸してくれるかは要交渉でしょうし」
大森林の一件が片付いても落ち着ける暇は無さそうだ。時間を置けばそれだけそれぞれの勢力全てに有利になってしまう。人の陣営はあまりにも脆く弱い。
「…話はとりあえず纏まりそうですな。では我々は身支度が整い次第、セントラルへ向かいます。それで、よろしいのですよね?」
エインの言葉に頷く。新たに兵軍に加わってくれるエルフ達の編成はエリア0で参謀本部と対策本部を兼ねている総指揮の一軍に任せてある。ひとまず彼らには大森林を発ち中央へ向かってもらうことで話は固まっていた。
「…よし、出るぞ!次はエリア7だ。アル達の方も別件で忙しそうだが、その辺は現地でアドリブ利かせるしかない。何に置いてもまずは目に見える脅威から除けることからだ。行くぞ!」
「っ!!」
「はい。その意志のままに」
「いいよっ。
「仕方ないな~。ティカがいないとなんにもできないんだから、やったげるもんねーっ♪」
皆の同意を得て、俺達は同時に立ち上がる。
次なる戦場はエリア7・不滅のメガロポリス。
この世界に余計な干渉を及ぼす神が遣わした『完全者』、並びにこの世界へ無用な被害を及ぼそうとしている人造竜。
フロンティア防衛戦を開始する。
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