その真意を知るまでは
「よお。テメェ、夕陽んとこに付いてったのとは違うヤツだな」
白埜をシュライティアに任せて下がらせ、アルは無手のままで不用心に竜へと歩み寄る。
角に刻まれた文字が違う。ホテルから分かれるまで共にいたあの竜と外見は全く同じだが、あの竜には『タ』、眼前の竜には『ヨ』。別個体である判別はそれだけだが、おそらく間違いではない。
「日向日和。この世界ではまだ直接会ってねェが、もうガキじゃねェだろ?何をトチ狂って女子供に手ェ上げてんだ」
アルの知る日向日和は全知全能だった。何度かを同じ戦場で共に戦ったが、あの少女が一挙一動を仕損じたことがない。だから、アルはこの行動にも何か意味があってのことだと確信している。
女子供を殺すに足る理由が、確かにここにはあるのだろう。
竜の眼を通じて懐かしい知り合いの乱入を観た日向日和が何を思ったのかは計り知れないが、竜の動きはぴたりと止まっていた。
「お前が間違ったことをしてるとは思わねェ。なんかあるんだろ?あの二人には。だがそれをぼんやり目の前で見てるのもな、気持ちが悪ィんだよ」
ゴゴ、ズズ、と。
一定の距離を置いて立ち止まったアルの爪先からゆっくりと大地を震わせながら柄が形作られる。
「可笑しいだろ?笑っていいぜ。お前がガキだった頃の俺も、まァ手当たり次第に喧嘩吹っ掛けてたからなァ」
それは今でもそれほど変わりないが。背後で聞いていた白埜はひっそりと心の内で呟いたがもちろんアルには伝わらない。
足元からは完成した柄から白刃が生成され始めていた。
「でもな、それなりに俺も丸くなったぞ。大体白埜のせいだけどな。……睨むなよ冗談だっつの」
背中に突き刺さるジト目の視線に耐えかねてご機嫌取りも余念なく行いつつ、腰の位置まで到達した刀の生成を確認する。
「だからテメェに歯向かう。これ以上その二人を問答無用で殺すってんならな。正しいお前に、間違った行動で抗う。最低だろ?自覚はある」
反る刀身が切っ先まで地面から生えたところで柄を取り真横に引き抜く。無銘、なんの能力も付与していない、ただ頑丈なだけの日本刀。
片手で正眼に構える。
「だが、もしまだお前に人情が残ってんだとしたら。この一件、俺に譲れ」
あくまでも抵抗の意思は絶やさぬままに、アルはらしくもない提案をする。
「どうせ訊こうとしたってお前は答えないだろ。ならこっちで勝手に正答に行き着く。その果てで本当にお前の『正しい』が間違っていなかったんなら、その時は責任もって俺がカタをつけてやる。いいだろ?この二人なら俺だけでも勝てるぜ」
過信ではない。ほぼ無力の子供と、装飾品で戦闘能力を爆発的に上げられるらしきことを同じ系統の
「お前も今は親馬鹿らしいじゃねェか。あの兄貴共と同じになっちまったな。旭の大将もお前のことはよくよく可愛がってた。今のお前ならこれくらいの妥協は許容できるだろ、俺の顔にも免じてよ」
へらりと笑って、アルは握っていた作りたての刀を手から落とす。地面に浅く突き刺さり、再び無手となったアルへと竜は攻撃を加えない。
「任せろよ。一緒に神を殺した仲だろ?」
『…………』
ぐるりと。竜は巨体を翻して一瞬で空へと舞い上がり、やがて雲の中へと消えてしまう。
(…夕陽の言う通りだったな)
余裕が無い。万全の日向日和であれば、たとえ旧知の仲が敵に回ったとしても必要ならば躊躇いなく薙ぎ払いに掛かっていたはずだ。
アルと同様に丸くなった、と考えるよりも、アルは夕陽の感じていた意見の方に説得力を感じた。
あるいは、本当に信じてくれたか。任せろと言った妖魔の言葉を。
だとすれば、それはそれなりに、嬉しいものだが。
「さて」
反転し、白埜とシュライティアが立つ場所よりもさらに後方。片膝をついて負傷の手当てを行っていた修道女とその背に縋り付く少女の前で止まる。
「いきなりで勝手だが、助けてやった礼代わりにお前らの事情に首突っ込ませてもらうぞ。昔馴染みと約束しちまったもんでな」
何かがあるのだろう。この二人には。
竜王に関わるものか、あるいはそれとは全く異なるものか。
ともあれ分かるのはあの日向日和が放逐を許さなかったという脅威度の高さだけ。
ならばそれが分かるまでは見極めよう。
あの化物が内に秘めるその真意を知るまでは。
『メモ(Information)』
・『
・『妖魔アル』一行、『シスター・エレミア』らと合流。その動向を監視すると共にエリアの探索を開始。
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