『天啓2』・星の少女と女神の信徒
舗装された道路、無人の街。
いるのは人だったモノか、人無き街を我が物顔で闊歩する魔獣くらいのものか。
「……」
そんな廃れた街並みを、ぼんやりとした面持ちでぽてぽてと歩く少女が一人。
紺色の長髪を二つ結びのおさげで垂らし、その毛先は果たして140cmに届くかどうかといった少女の足首にまで及ぶほどに長く、空からの光を受けて艶めいている。
そんな彼女の瞳からは絶えず溢れる光の粒。歩く度に零れ落ちる光が髪に絡んでは消え、まるでその背中は常に瞬く星夜空のように風光明媚に煌めいて見えた。
「……?」
しかしそんなこの世に有り得ざるような神秘さを放つ少女に、人ならざるもの達は魅入られることも、尊ぶこともない。
ただ新鮮な肉を、餌を得る為だけに、腐乱死体は手を伸ばし、魔獣は牙を剥く。
一斉。共生の意思なく二種の害敵はたった一人の少女を求めて飛び掛かる。
「……、あ」
少女は臆せず、悲鳴を上げることもなく。ただ光溢れる瞳で見る。
猛烈な速度でタイヤを滑らせた一台の車が、眼前の死体や魔獣を轢き飛ばすのを。
後先まったく考えないドリフト停車でタイヤから焦げ臭い煙を立ち上らせ、運転席から現れた女性はこれみよがしに両手を組んで額を押し当てた。
「所有者亡きものとはいえ、無断使用に違いなく。申し訳ありません、沙汰は死した後に我が御神よりお受け致します」
手短に祈り、使い物にならなくなった自動車を背に修道服のシスターは病的に白い肌をした少女を見つける。
「あら…?」
「…こんにちはぁ!」
片手を勢いよく突き出し、少女は元気よく挨拶をする。
修道女は微笑み、膝を折って少女と視線を合わせた。
「ふふ。こんにちは、です。あなた、どうしてこんなところに?お父さんやお母さんは?」
ここは古代文明の跡地、数々の遺産を残す不滅のメガロポリス。先程の車も、この現地にて見つけ乗り込んだものだ。
もはや人間の定住叶わず、死したるゾンビと魔獣のみが徘徊する危険極まりない土地のはずだ。
護身の装備すら持たない少女一人が到達できる場所でも、ましてやその只中で生き抜ける環境でもない。
「わたし、ウィッシュ!ウィッシュ・シューティングスター!お姉ちゃんは?」
だというのに、少女───ウィッシュは何もかも意に介さず己の興味にのみ口を開く。
「私ですか?エレミアと申します。見ての通り、この世界を興せし偉大なる女神様に仕える信徒。その末席を汚す者です」
「ふーん?」
分かっているのかいないのか、こくこくと頷き、ウィッシュは先刻の挨拶の際に突き出した手をもう一度差し出す。
「エレミアお姉ちゃん。お友達に、なりましょ!」
「……ええ。もちろんです、ウィッシュちゃん」
その手を訝しむことなく、握る。
少しの間にあったのは違和感。
この少女には何かある。その存在自体に異質を感じる。
常に祈り続け女神という神性を身近に感じ続けてきたが故か、エレミアの感受性には常軌を逸したものが培われていた。
だからこそ手を取った。手を取れた。その異質に悪性を感じなかったから。
さらに足せば、シスター・エレミアの『天啓』にはウィッシュの異質は敵性として認識されなかった。かの女神はこの少女を『世界の敵』とはしていない。
であるならば、いくら狂気じみた信仰心を持つシスターといえども子供相手には素の温厚さと献身さを持つ修道女の面として尽くすのみだ。
少なくとも、少女を安全な場所に送り届けるまでは傍で守り抜く。
「さて。ウィッシュちゃん、少しだけ離れていてもらえますか。そうですね、そこの石垣の影にでも」
住宅地の仕切りに使われている石垣の方を指で示し、エレミアはウィッシュの頭を優しく撫でる。
「うん。…うん?」
「私も、私のお役目を成さねばならないのです。そのために」
視線を転じ、その紅い瞳が細まる。腰から抜いたクレイモアを握る手が自然と力む。
そう。これだ。
腹の底から湧いてくる殺意。出処不明の、臓腑を煮やす衝動。
この身に受けた『天啓』が示す、不倶戴天の敵。
「滅ぼす。我が身に代えても必ず滅す」
道路の先、見える複数の人影。それぞれ手には
人の器にして人を超越した者共。その内にある、この世界の女神ならざりし神性こそが憎悪の正体と確信した。
「至高の御神、その意思を代行し、
構える修道女の全身から吹き荒れる闘争心と暴威の波動が、指向性を持って人類を超えた『完全者』達へ突き刺さる。
『メモ(Information)』
・『シスター・エレミア』、『エリア7 不滅のメガロポリス マッドシティ』に現着。
・『シスター・エレミア』、『ウィッシュ・シューティングスター』と邂逅。
・『天啓』起動。『完全者』八体を女神の啓示に従い抹殺開始。
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