同じ志の下に、同じ空の下で
「そうか。行くんだね」
「はい。お世話になりました、本当に」
それぞれの向かう先を決め、俺達はホテルを後にする前に米津元帥へと挨拶に出向いた。
「またいつでも来てよ。僕……わしらは歓迎するから。…するでの!」
「米津さんもお気をつけて」
「転ばないようにねっシロ!」
「ちゃんと寝る前には歯を磨くんだよシロちゃん!」
「タマおねえちゃんを困らせんなよ
100%の善意で握手を交わした俺の背後で、純粋な庇護欲からロマンティカが、半分の悪戯心からエヴレナが、そして100%の悪意からアルがそれぞれ別れの言葉を返した。お前ら元帥が元に戻った時殺されても知らんぞ。
「ぐうぅ……!」
元帥も言い返せばいいのに語彙力も低下してしまったか、涙目で真ん丸の瞳を精一杯に細めて睨んで(いるつもりで)こちらを見上げた。
やめてくださいそのモーションは俺の父性にも突き刺さるので。子供欲しくなっちゃうじゃん。相手もいないのに。
というかそうではなく。
「…成り行きで兵軍を託すことになってしまいましたが、くれぐれも無理をしないでください。俺みたいな小僧が、貴方のような人にこんなことを言うのもおこがましいですが」
竜王は個で一軍を滅ぼすほどの力を持つ。半端な兵力では返り討ちだ。世界の命運を分ける一世一代の大決戦を起こすにしても、まだ不足は多い。
それが解らぬこの人ではない。それはもちろん知っている。
「うん。僕達だって君達よりよほど苛烈な時代を生きてきたんだ。進退決めかねるような事態にはならないしさせないとも」
答え、言動とは裏腹に無垢な笑顔を浮かべる少年(齢97歳)に安堵は出来なかった。
この人は、無茶をする人だ。無理を通す人だ。
究極的に考え続け最適解を捻出しても、どうにもならない最終的には身を削り命を使う人だ。必要とあらば、きっと躊躇いもなく。
だから怖くもある。
性格も考えも全く異なれど、この人からは日和さんと同じ気配がする。歴戦故に、一線を引いた覚悟を有する人。
だから、
「……いつかその時が来たら、必ず馳せ参じます。この世界の先を憂う、同じ志を持つ者として」
「楽しみにしてるよ。いやこんな言い方は不謹慎かな…まあいいか」
人差し指で頬を掻いて、米津少年はもう一度屈託なく笑う。
「腹を割って話した仲だ。次は肩を並べ、背中を合わせ、同じ空の下で共に戦おう。異なる日本で生きる同士よ」
戦場での再会を約束し、俺達は飛ぶ。
東方、西方。何が待つかもわからぬ先へ。
─────
「クハハ、なァんか賑やかな予感がするぜ。今が暴れ時かもしれねェな」
『仕える身として些か不遜ではあるが、我が意見も賛同にて。かの地、メガロポリスは何かが妙であることは間違いなく』
「……ほんとに、むちゃはやめてね」
三名、
「ユ〜ぅ〜!と、とばっ!とばされる!?」
「なにしてんだお前。こっちに入れ」
「…っ」
夕陽の髪を掴んで必死に強風に抗うロマンティカを、自身の胡座の内にすっぽり収まっている幸へと摘んで手渡す。
『貴女の小さな体躯ではこの飛翔は耐え難いでしょう。無理に来なくてもよかったのでは…』
「やだもんー!大人なティカを仲間はずれにしないでったら!」
着物の袖に避難し、ようやく高高度の烈風から難を逃れたロマンティカがヴェリテの懸念に反発する。仲間外れを嫌がって付いてくる辺りがもう子供っぽいとは思ったが口にはしない夕陽だった。
『狙撃かー。なんだかあの竜王のとことは関係なさそうだね?』
「だな。たぶん別件だろう」
東方シュヴァルトヴァルトへ向かう空路の最中。隣を飛ぶ白銀の竜の言葉に頷きを返す。
狙撃など竜種らしからぬ動きだ。おそらくは竜王案件とは別。あるとすれば日和の警告にあった女神リアではない神性による介入か。
いずれにせよ現地で調べてみないことにはわからない。
一行、無言で殿を付く式神の竜を含め六名。
『メモ(Information)』
・『米津元帥』一行に対し『真銀竜エヴレナ』の加護(神竜のカリスマ)を付与。
・『日向夕陽』、『座敷童子・幸』、『雷竜ヴェリテ』、『真銀竜エヴレナ』、『妖精レディ・ロマンティカ』、『陸式識勢・和御魂竜殻天将 《タ号》』の六名、『エリア3 シュヴァルトヴァルト』へ向け出立。
・『妖魔アル』、『幻獣白埜』、『風刃竜シュライティア』の三名、『エリア7 メガロポリス』へ向け出立。
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