合流の前に


『痛っ!アル貴方どんな掴み方してるんですか!?鱗剥げそうなんですけど!?』

「テメェがかっ飛ばしすぎてんだよ馬鹿雷竜!これ普通ならとっくに振り落とされてんぞクッソが!!」


 フロストマキアを後にして、竜化形態で空を飛ぶヴェリテとそれにしがみつくアルの口論は高空においても依然として変わらなかった。

 結局、五百を超える大軍勢はこの二人の手には負える規模ではなく、さりとてその戦力を放逐するわけにもいかず、急造の指揮官を据える必要があった。

 ちょうど、それに値する能力を持った少年を見つけたヴェリテの対応は実に早かった。


 …―――、

「貴方よい力を持っているようですね?助けてあげた恩をこの場で返して頂けると嬉しいのですが?」

「えっ。ん、えぇっ?どういう、ことなのかなこれは??」

「しかも我々は貴方達に屈辱を雪ぐ機会と明確な目標も示してあげようというのですよ?これはもうおとなしく言いなりになる他、選択肢はないのでは?もしあるのであれば是非ともこの雷竜ヴェリテにご提示願いたいところですが?」

「あ、いえ、その。……謹んでお請けさせて頂きます……」

「それでよいのです。賢き人の子よ」

「とんでもねェ恐怖政治だなオイ」

 ―――…、


「流石に同情したぜあれは」

『私とて一軍を率いて行軍していられるほど余裕があるわけではないのです。それは貴方も同じでしょう』


 ヴェリテの言い分には沈黙を返す。確かにアルはいい加減本当にあの娘を保護しに行かねばならないし、ヴェリテも大願を果たす為には地上をちんたら徒歩で進む大勢と行動を共にするわけにはいかない。

 あれこれ言ったが、正直理には叶っている。

「ま、いいか。ともあれようやく白埜の顔を拝めそうで……ん?」

 突風吹き荒ぶ中を片腕で雷竜にしがみ付いていたアルが、ふと肌に感じ取った気配に顔を向ける。

 正面。飛翔するヴェリテと同等かそれ以上の速度で飛来する何かがある。

「躱せヴェリテェ!!」

『もちろん!』

 同じく気配を感じ取っていたヴェリテがその身を翻す。あまりに勢いに危うく引き剥がされそうになったが、そこは根性で粘った。

 あわや正面衝突になり掛かったヴェリテが回避したのは、すれ違いざまに見た限りではおそらく、

「クソったれまた竜かよ!ヴェリテ!ヤツも知り合いか!?」

『風刃竜。面倒ですね、このタイミングで…っ』

 ポラリスの例に漏れず、その竜をヴェリテは知っていた。すれ違い、急旋回でUターンしてヴェリテの真横に並んだ緑色の竜が口を開く。

『先程の無礼を謝罪する。よもやこの空を貴殿らほどの豪傑が飛翔しているとは思わなんだ』

「…逃げ切れるか?」

「難しいかと。彼奴は大気の流れを自在に操る竜である故、純粋な速力で引き離すことはほぼ不可能です」

 ぴったり隣に並んで飛ぶ竜が何か言っているのを無視して、小声で話し合う。

 正しくは、雷竜としての力を全開にした雷速での飛翔であれば風刃竜を撒くことも出来よう。ただし、その場合は背に乗るアルが間違いなく振り落とされる。

 となれば選ぶ道は限定される。


『強き者とお見受けする。私と一戦、交えてはくれまいか』

「ぐぁダリィいいいい!!とっとと五体バラバラにして殺して埋めるぞヴェリテ!」

『いえ、それだと竜王エッツェルの傀儡にされる恐れがあるので、殺すのならきっちりと塵も残さず行いましょう』


 思わぬ空中戦。竜騎士よろしくヴェリテの背で立ち上がるアルと、並走する風刃竜シュライティアの大きな緑眼が強風の中で交差した。






   『メモ(Information)』


 ・『「♠」の〝10〟 シンイチロウ・ミブ』が追加されました。


 ・『シンイチロウ・ミブ』が黒抗兵軍の本隊を率いる指揮官に任命されました。


 ・『雷竜ヴェリテ』と『妖魔アル』が高空にて『風刃竜シュライティア』と接敵しました。

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