閑話休題2・増大する脅威
『……馬鹿にゃ!?』
『増えた…だと?』
「―――ふざけた、ことを」
とある戦艦では猫耳の概念体が、とある隠れ家では黒外套の概念体が。
そしてとあるエリアでは退魔の女性が。それぞれに離れた位置から同時に異変を察知する。
概念体の気配が、急に現れた。それも三つ。
ありえないことだ。既に日向日和がこの世界に現れた時点で日和や夕陽が済む世界とこちらの世界との間にできた孔は塞いである。これ以上の理や法則が異世界に影響を与える『異常流出』は起きないはずだった。
あとはこの世界に居座る概念体を全て抹殺し日和が封印処置をして持ち帰れば、双方の世界にこれ以上亀裂を生むことはない。そう思っていたのに。
さしもの日和もこれには苛立ちを隠せない。
彼女の背後には山と積まれた竜の死骸。ついでとばかりに襲い掛かって来た雑魚竜達を一掃したはいいが、これでは帰還する見込みはいつまで経っても立てられない。
原因は明白。
竜王エッツェル。ヤツが…正しくはあの竜王の内部に取り込まれた〝絶望〟の概念体が、新たな破滅の災禍を呼び込んだ。それしかありえない。
〝量子〟も、〝絶望〟の片割れたる希望も、回収するのは後回しだ。
(手早くあの竜王を核ごと殺すしかない。…だが)
思案の途中、後方へ掌を突き出す。掌底から飛び出した火球が巨大な火柱を上げる。だがそこには何もない。
殺して積み上げた竜の死骸さえ、火柱の中から掻き消えていた。
「我が同胞を殺して回っているのは、貴様か」
代わりに、桃色の風穴から現れた軍服の男が興味の薄い両目で日和を見据える。
(死骸を持ち去った。不味いな、まさか蘇生の術があるのか)
現状逆探知を危惧して常時発動を封印していた〝千里眼〟。普段の日和であれば、遠い地で死した竜が厄災を振り撒く邪悪な竜として蘇る様を確認していただろうに。
「ん。よくよく見れば貴様。ああなるほど、道理で」
吹き荒れる黒風。一言ごとに足が地面に沈む錯覚を覚えるほどの圧力。
「あの人間の小僧がいるのだ。貴様が居てもなんら不思議ではない。私を殺した退魔師よ」
赤い瞳をギンと見開いた時、彼を左右から挟むこむように火炎と水流の咆哮が叩きつけた。
「同胞…ではないな。作り物の紙細工か」
(さて。どう退散するか)
奇襲も無傷に終わり、日和の傍へ集まった二体の竜。日和が自身のほぼ全ての力を注ぎ込んだ渾身の式神六体の内の二体。
念の為に今だけ呼び集めていたことが功を奏した。日和単体の性能は、今や1/10にも届かない。
どうにかして逃げる。それだけならばどうとでもなろう。
「『待て、愚かなる人間よ。私の声に従え』」
「いいや断る。貴様はいずれ、この世界の全てで必ず殺す。この場で予言してみせよう」
森が焼け、地面が砕け、山が崩れる。
しばし神話じみた交戦が行われ、最後には撤退した退魔師と興の削がれた竜王がゲートで帰還した後の荒廃した大地だけが無残に残された。
『メモ(Information)』
・『陸式識勢・和御魂竜殻天将』の能力が強化・追加されました。
・『〝罪源・世〟の概念体【Fredrick】』が新たに世界に現出しました。
・『〝形態・崩〟の概念体【Faust】』が新たに世界に現出しました。
・『〝変転・反〟の概念体【Stanford】』が新たに世界に現出しました。
・『〝罪源・世〟の概念体【Fredrick】』が『エリア0・首都セントラル』に出現しました。
・『陸式識勢・和御魂竜殻天将 《ナ号》』が『エリア0・首都セントラル』へ向かいました。『日向日和』による最優先命令入力、『エリア0にて対理法概念結界を展開』。了承及び実行。
・『新ドラえごん』が三十四体の竜の死体を回収しました。
・『竜王エッツェル』が『日向日和』及び『陸式識勢・和御魂竜殻天将 《ヒ号(二型)》、《リ号》』と交戦しました。三百四十七秒の戦闘の後、隠形術式により『日向日和』離脱。
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