黒に抗う兵の軍


「光竜ポラリスは『神話劇場』という固有能力を持っていました。闇夜に閉じ込め、相手の望む夢を見せる世界」

「あァ。俺も見た。くだらな過ぎてすぐ出たが」

「そんな簡単に出られる能力ではないはずですがね…」

 そして、ヴェリテの手の中にあるペンダントはそのポラリスが所持していたもの。その内に何が封じてあるのかはおおよその予想がつく。

 ペンダントを宙に放り投げ、極大のサンダーブレスをぶつける。あまりにもオーバーな火力にペンダントは一秒掛からず塵ひとつ残さず消え去った。

「『神話劇場』に捕らわれたハンター達を収容していたアイテムだったのでしょうね、おそらくは」

 ヴェリテの言葉を肯定するように、砕けたペンダントからは無数の光が飛び出しては地に落ちていった。まるで地上で弾ける流星群のような光景に、アルは白埜が隣にいないことを密かに悔いた。あの娘なら目を輝かせて楽しんだだろうに。

「アル。貴方の言う通り、これで少なくとも数における劣勢は覆る」

「その連中を引き込むのはいいが、あれだぞ。俺が言った手前こんなこと言いたかねェが使えんのかそいつら?あんな見え透いた幻惑に取っ捕まっちまうような程度の低い連中をよ」

 地上に落ちた光はやがて人の姿となって光量を落としていく。この世界で冒険者やハンターとして活躍していた者達だろう。

 それらひとつひとつをしっかり確認しながらヴェリテは答える。

「何も貴方のように武力一辺倒が竜種にとっての脅威ではありませんよ。例えば竜に通じる特性を付与できる者、例えば竜種含む生物の動きを止める力を持った者。サポートや強化の面でも秀でているものは十分に障害足り得るのです」

「…なるほど」

 普段からそういったものを全て自分ひとりで賄っていたアルにはその考えが及ばなかった。確かにそれならば結界を抜けられる技量がなくとも竜に対抗できる者としては筋が通る。

「んで、この数をお前はどうする気だ?思った以上に……多いぞ」

「…………そうですね」

 光の乱舞は未だ終わらない。既に地上に解放されたハンター達は三百を超える。一体どれだけの人数が閉じ込められていたのか。

 予想外の数にやや引いていたヴェリテも、持ち直していつものクールビューティーな表情へ戻る。

「まあ多ければ多いに越したことはありません。…彼らは竜に翻弄され夜の牢獄に捕らわれ続けていた者。当然竜に対する憤慨はありましょう。しかもその当の光竜ポラリスはもう討たれている。こうなれば怒りの矛先を誘導してやるのは容易いことです」

「お前も案外悪いやつだよな」

「竜の王を討つ大義名分と指針を示してあげようというのですから、功績を上げたいハンター達にとっては冥利というものでしょう?」

 物は言い様である。

「ま、勝ちの目が見えてきて何より。んじゃな」

「待ってください。どこへ?」

 片手を上げて背を向けたアルを呼び止める。

「どこへって白埜のとこに決まってんだろ。こんな大所帯じゃ指揮取るヤツがいなくちゃ話にならん。お前のことは俺から話しといてやる、エリア1つってたな」

 勢いよく一歩をと前のめりに傾いだアルを、背後からの大声量が強引に止めた。

「ちょっと!貴方私を置いて自分だけ夕陽達に会いに行くつもりですか!なんて冷たい男ですか!!」

「うるせェよ馬鹿竜が!テメェが解放した連中だろうが責任もって面倒見ろよじゃあな!!」

「これだけハンターがいれば陣頭指揮に秀でた者も遠方から連絡を取れる者も当然いるでしょうこっちはその者達に任せておけばいいはずですから待ってくださいってば!!」

 ぎゃあぎゃあと口論している間に、ようやく踊り狂う光の乱射は終わる。最終的にはフロストマギアを見渡す限りに人が広がっていた。ぱっと見たところで五百は超えているか。

 解放され俄かに現状を理解しきれていないハンター達が騒ぎ出し、言い争いを続けていた二人もはたと正気に戻る。

「はぁーあ。じゃとっとと決めろよリーダーと連絡役を。こんだけ妥協してやったんだからエリア移動の足くらいにはなれよ雷竜サマ」

「言われずとも。貴方の移動に合わせていたら日が暮れてしまいますから」

 互いにぷんぷんと怒りつつも方針を固め、ふとヴェリテはアルに問う。

「そういえば、名は?」

「あ゛?アルだっつって」

「そうではなく、この一団の、です」

 アルの剣幕を遮って、ヴェリテは静かに五百を超える『竜種の脅威』達を横目に見やる。

「これだけの規模。いくらなんでも無名では通らないでしょう」

 アルも同じ風景を見渡して、ややの思案。そして口を開いて、

「『雷竜ヴェリテとその他愉快な仲間達』でいいだろ」

怒りころしますよ?」

「ルビが物騒すぎんだよなァ……」

 少なくとも放たれる殺気は本物であることがより一層笑えない。竜とはここまで殺伐としたものだったのか。

 諦め、アルは決めていたもう一つの名を口ずさむ。

黒抗兵軍こっこうひょうぐん

「…随分とシンプルですね?」

 ヴェリテの反応は淡泊だった。もっと子供が考え付くような痛々しい名前を想像していたのだろうかと思うとそれだけで腹も立つが今は抑える。

「こんなもんだろ。漆黒に抵抗するつわものの軍団。気に入らなきゃもうテメェで勝手に考えろ」

「いいえ。別に悪いとは言っておりませんよ」

 くすりと笑い、ヴェリテが五百余りのハンター達へと分かるように、掲げた戦槌から雷の柱を昇らせる。

 ここからだ。

 漆黒を墜とす、二度目の戦いはここからが本番。

 改めて気を張り直すヴェリテの背後で、欠伸を噛み殺すアルの様子はどこまでも平常運転であった。






     『メモ(Information)』


 ・星辰竜ポラリス撃破により、582名(数は適当にソルトが決めた)の義勇兵を獲得。

 

 ・義勇兵団、命名『黒抗兵軍』として活動開始。


 ・『黒抗兵軍』、編成の為しばしエリア5『フロストマキア』にて停滞。


 ・アル、ヴェリテ両名エリア1『アクエリアス』へ向け出立。

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