VS マギア・ロックダウン(後編)
先ほどの一件で気付いたことがある。
アルの顔面は不可視の壁に衝突したが、その後に斬り裂こうと振るった剣はその不可視の壁に接触せず、結果空振りに終わった。
アルの進路を阻害し、即座に解除したかと考えたが、おそらく違う。
あの壁は、たぶん。
「おォ!」
再びルーンの補助を得た両足による加速で車椅子少女の猛攻を躱し続ける。
「ミサイル三発喰らっといて!なんでそんなにケロッとしてるわけぇ!?」
「よく見ろクソガキ血だらけだろうがボケがいってェな!!」
「普通は肉片だし痛いでは済まないんだけど!」
器用に車椅子のタイヤをキュルキュル転がし、まるで踊るように跳ねたり回転したりしながらも武器の放出は止まらない。
数発被弾しながらも弾幕を突破し、渾身の右ストレート……はやはり不可視の壁に阻まれ、腕から滴っていた血だけが腕の勢いで何滴か少女の白衣に付着した。
確信する。
「ギアぁ上げんぞ、ついてこいよ」
「えっ?…は?」
魔性種の特徴である『悪魔の
一気に速度が跳ね上がる。姿が消え、
(…上!右、また上っ!)
目を向けることを諦め、感知する気配のままに能力を広げる。この
その自信の通り、アルが遮二無二振るい続ける剣は一度として少女にも車椅子にも掠ることはなかった。刃の範囲に入る前に『封鎖』の魔法で強制的に距離を保っているのだから当然だ。
「〝
「!?」
ゴゥッ!!と背後で急激に噴き上がる炎。驚いて振り返ると、そこには地に突き立つ両刃剣があった。
火焔を生み出す剣。アルが愛用している武装のひとつ。縦横無尽に動き回る間に刺していたらしい。
それも一本だけではない。
「〝
四方八方に突き刺さっている剣の力を一斉に解放する。強烈な熱と炎が天然パーマの髪の端を焦がす。
「なんのっ、つもり!こんなことしたってシッティは超高性能だから高熱でヤられたりしないんだけど!?」
「拳は届かねェのに血は届いたよなァ。ならテメェの力は万物を一切通さない無敵の壁、じゃねェんだ」
声は上から。絶妙な操縦でドリフトしながら高速で落下してきた剣を避ける。深々と地面に刃を沈めた瞬間、その刃も赤熱し爆炎を吐き出した。
「避けたな?
「だから、なにを…っ」
くらりと眩暈を覚える。
「生物だけを遮る結界…いや異能?なんでもいいや、とにかくそんな感じだろ?だから熱は遮断できねェし、空気を確保することもできやしねェ」
火柱を背に笑う男の姿が霞む。何かの能力ではないことを少女は理解していた。
自分の身に何が起こっているのかも正しく把握している。
「ガキのくせによく保つ。だがそろそろ限界か?」
四周を空高くまで覆う炎熱。発汗は止まらず、酸素は欠乏していた。
同じ状況にあって男に余裕があるのは、人ではない別の生物であるからか。
「警告はしたぞ。死ぬってな」
赤い視界に黒い人影。地面から引き抜いた無銘の刀を握って男が歩み寄る。
既に思考はまともに定まらず、魔法を使う選択も出来ない。
「……ひ、ぃ。ころさ、ないで」
「テメェが引き金を引いた。末路もしっかり受け取れ」
少女の涙にも、懇願にも、妖魔はまるで動じない。
もとより血に染まった両手。守るべきを守るために数々の非道外道を看過し、実行し、殺してきた。動揺など、今更に過ぎる。
一太刀で首を刎ねるべく軌道で、刀を振り被った。
―――、
「……、お前なぁ」
酸欠で意識を失ったままの少女の真横。刀の一撃でぐしゃぐしゃの屑鉄になりながらも自身を構成する大半のパーツを固めて盾にした車椅子。
もはや車椅子本来の用途しか残せていない、その残った唯一のアームが持っているもの、左右に振られるそれを見て嘆息する。
白旗。
「ま、いい薬にはなったろ」
元々からして別に殺すつもりはなかった。二度とこんな悪質な悪戯が出来ないように、十分に怖がらせて刃を寸止めするつもりだった。こんな決死の割り込みなどせずともよかったというのに。
「大したもんだポンコツ車椅子。お前、
車椅子を操作する少女は気絶している。ならこの決死行は何の判断に由来するものか。
白旗を振り続ける車椅子は何も応じない。
「お前に免じてここまでだ。ガキが起きるまで守ってやれ」
あちこちに散らばっていた炎の剣を解除し自壊させ、火炎の檻は消え去る。
予期せぬ戦闘で時間を取られてしまった。早く夕陽に追いつかなければ。
友を守る車椅子に一度だけ片手を振って。アルは山の登頂を再開する。
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