VS Mpm-803 ヴァンフート


 見るからに対物兵器。銃口から火を噴きながら分厚い弾幕が展開される。

(時間は掛けられない)

 一体どこから何を目的に来たのか。そんなことを考える余裕はないし、もとよりどうでもいい。

 最大の〝倍加〟五十倍の脚力でなんとか射撃の餌食になることは避けられているが、長くはもたない。

 敵機から距離を置いたまま円を描くように弾丸から逃れつつ、抜刀。〝憑依〟を行っていない肉体には色んな意味で普段より重たく感じた。

 ガトリングとは別に射出されたミサイルが正確に俺の移動先へ着弾する。

 好都合だ。

ッ!」

 ミサイルの直撃寸前に身を深く伏せ前に飛び出し、砂浜の爆風を推進力に一気に加速を得る。

 一閃。神刀の斬撃は機体の装甲をいくらか裂く。

 金属にしては妙な手応えだが、様々な性質を呑んでいる神刀である故か未知の装甲に対しても刃は十全に通った。

 気になる点は他にもある。肌身に感じる悪寒。

 この機械細工は普通ではない。その内にあるものは少しこちらに近い。生命の波動が脈打っていた。

(ただのエネルギー駆動じゃないな。魂魄、命の力を用いている)

 であるならば。

 基本戦法を重火器による遠距離戦闘としているのか、急接近した俺から離れるように後退する機体を逃さない。追随し、刀で裂いた装甲の奥へと貫手を突き入れる。

 幸を追う。その為に手段は選ばない。

 〝干渉〟全開。この身体は触れれぬものに触れ見えないものを見せる。

 貫手の先にありえるはずのない感触を確かめる。〝干渉〟の異能であれば視認できない魂という概念さえこの手で掴み取れる。

 心臓部にある僅かな温かみに、指を届かせ、爪を立てる。

 その瞬間、機械は無人らしからぬ挙動で暴れ、手甲から伸びた刃で俺を振り払った。

 明らかに嫌がっている。バグを起こしたように機械は身を捩じらせ、外敵を駆除すべく憎しみすら感じさせる銃口と砲口を向けてきた。

 多少無理を押してもここでころす。長々と付き合ってやる時間はない。

 最低限急所だけは守らんと刀を構え特攻した俺へと複数の火器が指向されたが、それらが放たれる前にその胸部を一振りの刀が背面から貫いた。

「!?」

 驚愕に動きがややブレるが、即座にこの好機を活かす大振りに切り替え、斬る。

 首と片腕を切断。ぐらりと揺らぐ機体はしかし動きを停止させない。

 まだ足りないか。〝干渉〟で視る魂はまだ尽きていない。

「下がってろ小僧。―――〝断雷千鳥ライキリ〟」

 追撃で撃滅をと神刀に力を込めるが、次に聞こえた声と機械に突き刺さったままの刀から放たれる火花に直観的な脅威を感じ取りたたらを踏んで後退る。

 何かしらの銘を口遊んだ直後、刀は稲光と共に轟雷を振り撒く。当然、貫通していた刃は機械の内側をも焼き焦がし破壊した。

「面白そうな仕合だったが、そのナリ見てたらつい手ェ出しちまった。日本人だろお前」

 黒煙を上げる機械が砂浜に崩れ落ちるその傍で、褐色肌の青年は気安く片手を上げて見せた。

「手出しついでに聞きたいんだが、お前銀髪の女の子見なかったか?こっちの方にいるかと思うんだが」

「…知らないな。逆にあんた、綺麗な長い黒髪の女の子見なかったか?死ぬほど探してるんだ」

 この言葉に虚偽はない。そんな俺の切羽詰まった様子を見て取ったのか、青年は神妙な面持ちを作って煤けた赤茶色の頭髪を掻き上げる。

「んだよ、どっちもテメェの女探しか。仕っ方ねェ。おい小僧、行くぞ」

「どこへだ。迷子センターにでも向かう気か?」

 精一杯の虚勢を見透かされたか、ハッと雑に笑い飛ばされる。

「なわけあるか。そんなモンよりよっぽど確かな力で辿れんだろ、能力者ァ」

 バレている。俺が幸を〝憑依〟の契約伝いに探していることまでは流石にわからないはずだが、青年は一目見ただけで俺を異能を宿す者だと確信した。

「俺の鼻も同じ方向を目的地としてる。案外同じとこにいるかもしれねェだろ?ちょっと話もしてみてェし、仲良く女を探そうや」

 正直言って胡散臭いことこの上ない。

 だが手助けをされたのも事実。そして何か不心得があるにしても行動が大雑把すぎる。

 思うにこの男、たいして何も考えていない。

 本当に言葉以上の思惑はない、と感じた。

 であればその戦力、頼りにしない理由はないだろう。ただでさえこの世界は危険なものが多すぎる。いちいち一人で相手取っていたらいつまで経ってもあの子に会えない。

 焦燥が駆り立てた愚行であるかもしれないが、俺はこの褐色の青年と行動を共にすることを決めたのだった。

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