蘇る漆黒は悪夢の再来
雷竜ヴェリテと妖魔アルの激突は僅かな時間で打ち切られることとなる。
それは十何度目かになる戦槌と刃の鎬を削り合った頃。
「―――あァ?」
「…馬鹿な」
頭部の血を拭うアルと、はっと何かの存在に顔を上げたヴェリテがそれぞれに違う方角を見る。あからさまな隙に、両者共に付け入ろうとは考えなかった。
それどころではない。
「チィ!」
(夕陽…!)
もはや相手のことなど意識の内にすら入っていなかった。常に戦の我欲と本能に支配されているアルですら、この事態はそれを放ってでも優先させねばならないもの。
ダンッ!!と地を踏み砕き、出せる全力で初速を得ながら竜と妖魔はほとんど更地になった丘を離脱する。これもまた示し合わせたかのようにお互い逆方向へと。
強大な力を持つ者同士の一戦は、こうしてあっけなく幕を閉じた。
ーーーーー
「んん」
ひとまずはヴェリテの要件が済むまではあまり大きく離れるのもいけないと思い、俺と幸はラフテ・コングを下したエリアから少し歩き、大きな滝のある地域へと辿り着く。エリアとしては2-2、大瀑布と呼ばれる場所らしい。
少なくとも先程のエリアよりは安全性は高そうだ。人の住んでいる気配のある邸宅も見えるし、獣の姿もない。
ようやく一息ついて幸と共に巨大な滝が落ちていく様を下から見上げていたところ、背後からそんな声を聞いた。
「人の顔なぞ皆同じにしか見えんが。貴様、あれだろう」
瀑布の轟音に掻き消されることなき呟き声がしっかりと耳に届く。なんだこれは、まるで聞き逃すことを許さないと言わんばかりの、絶対的な圧力を感じる。
ゆっくりと振り返った先、背後に立っていた男の姿に見覚えは無い。
黒い軍服、詰襟まできっちり止めて、まるで将校のような出で立ち。
こんな男は知らない。知らない、はずだ。
足元から首まで順繰りに見ていってもただの青年にしか思えない。さらに視線を上げ、丹精な顔立ちとうなじに届くローテールの黒髪を見ても、やはり覚えのない人物であることは明白。
だというのに、一点。
血のように赤い瞳と認めた瞬間。ある記憶が叩き起こされる。
灰の世界、死んだ空を覆うほどの漆黒、黒い給仕服の女、彼女が心腹していた破滅の化身。
男は鉄仮面のように冷えた無表情で、冷や汗を噴き出す俺に満足したのか、事実を再認識させるに足る一言を足す。
「私の
「幸ィ!!!」
「っ!!」
叫び、意思をひとつに。〝憑依〟を最速で実行しつつ神刀を抜き放っ
「『平伏せろ、下郎』」
「がっ!?」
急激に重力が何十倍にも増し、立つことすら不可能になる。〝憑依〟は間に合っていない。隣では幸も苦しそうに両手足を地面につけていた。
「…全く。随分と荒らされたものだ。最早在りし日の面影はどこにも残っておらなんだ」
地に伏す俺達などいないかのように、男は懐かしむように目を細め大瀑布の景観に顔を向ける。
一語一語が重なる度に重石を乗せられていくような圧迫を受ける。重力操作ではない、これは純粋単純な存在の力。威圧力の現れ。
信じ難いが、俺はこの気配を良く知っている。
「お、前。……
「
人の姿を模った絶望の災禍は、無表情の中に僅かな呆れを混ぜたような語調で言い放ち、静かに片手を上げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます