【真銀竜捜索網】編

銀の竜の背を追って・再


「…で、どうするよ」


 降り立った土地は非常に賑やかで活気に満ちた街だった。あまりの往来の激しさに到着早々人波に攫われそうになったので、慌てて幸を抱えて大通りを外れ人気の少ない路地へと入る。

「衣食は問題ないでしょう。となればまずは泊まる場所、拠点を構えるところから始めるべきではないかと」

 俺の大雑把な問い掛けに、レンガ造りの建物の壁面に寄りかかるヴェリテは答えるが、それは俺の求める返答とは少しだけ違った。

「俺が訊いたのはどう動くかってことだ。例によってこの世界も中々に広い。人が住める場所、住めない場所を問わずに見ればな。こんなド平和な街中でアイスでも食ってるんならすぐ見つけられるんだろうが」

 捜索対象エヴレナはこの世界で跳梁跋扈する同胞の竜たちに粛正おしおきをする為に出向いたのだという。となれば自然とその足は危険区域、人の繁栄が途絶えた場所へと赴くはずだ。

「さっさと見つけないとあのお転婆、何やらかすかわかったもんじゃないだろ」

 俺としては至極当然のことを言ったつもりではあったのだが、何故か眉間に皺を寄せたのはヴェリテの方だった。無言のままに意見を促す。

「…それでも、寝食はまず何よりも重視するものかと考えますが。その子とて人ではないにせよ、硬い地面より柔らかいベッドで眠った方が疲れは取れるのでしょう?」

 その口ぶりで得心がいく。

 ヴェリテは俺や幸を案じて、まず衣食住の態勢を整えることを優先しているのだ。

 竜種は人ではなく、竜は人の文明で寝泊まりはしない。彼女の方こそ外へ出て狩りをし腹を満たせるし、草原の上で丸まって快眠することが出来るだろう。

 だからこれは、足踏みだ。

「気にすんな。幸は〝憑依〟してれば俺の中で休めるし、俺だってそれなりに野外露営の経験は積んだ。わざわざこっちの調子に合わせなくても動けるよ」

「ですが」

「何度も言わせんな。お前が見込んだ人間なんだろ、俺は。だったらその物差しでちゃんと測ってくれ」

 これだけ大きな街だ。それにこの世界は他の異世界からの来訪者、ハンターと呼ばれる職種の者も多い。探せばテントやランタンなんかの野外道具はいくらでも見繕える。

「街中の宿を拠点にしてたらいちいち戻る手間が掛かる。外で逐次簡易拠点を張って行動する方が効率がいい」

「……わかりました」

 ヴェリテは俺を見て、それから隣に立つ幸を見る。幸はいつもの無言ながらもぐっと親指を立ててふんすと鼻息をひとつ。彼女なりの、『心配するな』の意だ。

 それを見て、ようやっとヴェリテは折れた。それから方針を転換した後の意見を再度口にする。

「にしても物品を揃える為にまずは金策に走る必要はあります。この世界の金銭を得る為に、まずはいつもの」

「ハンター稼業ね。慣れてきてる自分が嫌になるな…」

 戦闘能力を有する俺やヴェリテのような者は、下手に街中で仕事を探すよりもよっぽど手軽に手早く金を手に入れられる方法だというのはこれまでの異世界生活でようく思い知っている。

「どうせギルドだのハンター登録だの、また面倒な手続きがあるんだろ。早く終わらせて依頼を受けるか野生生物を狩りに行こう」

「ええ。私と貴方であればすぐにでも必要な金額に到達することでしょう」

「……っ、っ!」

「ふふ、はい。もちろん幸、貴女の力添えも必須です」


 そんなこんなで当初の目的は定まった。

 どうせこの世界もロクでもない人間、生物のオンパレードだ。来た時点で固めていた覚悟を、再度強く固める。今回は何度死線を潜る羽目になるのだろうか。




「それで夕陽。手始めにどの猩々ゴリラから狩りますか?」

「お前俺のことをゴリラからスタート切らないとエンジン入らないヤツだと思ってんの?」

 結構な侮辱だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る