妖魔は好奇にて戦場に降る
「おいまた女神からのお誘いが来たってなァ!!?」
「またってなんだまたって」
居間の襖を乱暴に開け、褐色肌の青年が喜々として飛び込んできた。
青年の名はアル。かつては神門(旧姓陽向)旭を筆頭とした組織『突貫同盟』の一員として、そして現在はその息子・神門守羽の立ち上げた組織『アーバレスター』に仮所属として身を置く妖魔だ。
「前にも来てんだよ、大将が元気だった頃にな。あん時もなかなか面白ェ連中とぶつかれたからな…今回も期待できんだろ!俺が行くぜ俺が俺がな!!」
「うるっせえぇーよちょっと待ってくれよオレだって今その話してる最中だったんだぞ抜け駆けしようとすんなよズリーぞアルお前!!」
「いやうるさい。お前も十分うるさいからマジで静かにして。近所迷惑だから」
先客だった守羽の同級生であり親友でもある、組織の切り込み隊長の東雲由音がアルの勝手に猛反発して勢いよく立ち上がる。二人の大声で震える卓上の湯飲み茶わんを片手で押さえながら、逆の手で守羽は頭を押さえた。
「そもそも行くかどうかはまだ決めてない。危険だぞたぶん」
「「だから行くんだろ!!」」
「お前らが行くべきは病院だろ頭よく診てもらえ」
由音は人生の大恩人である守羽に危害を加えさせないために、アルはハイリスクな殺し合いを望んでそれぞれが声を合わせる。そんな二人に対し困った溜息を漏らすのは守羽の隣で同じく茶を啜っていた少女、久遠静音。
「私も行けるなら怪我も〝復元〟で治せるんだけど、定員が一人だけみたいだから。そういう意味でも守羽は危険だって言ってるんだよ」
「別にオレは死なないから平気だぞ?」
「真顔でそれ言えんのお前だけだろうな…」
〝再生〟の能力者としてほとんど寿命以外で死ぬことのない由音の言葉は冗談ではない。だからこそ多少の危険は目をつむってきたが。事が異世界でのものとなれば話は別だ。不死殺しくらいはいるかもしれない。
「やっぱ俺が行くべきだろうな。父さんも通った道っぽいし…」
「やめとけ!『アーバレスター』のリーダーがわざわざ死地に行くんじゃねェよくたばったらどうすんだ!」
「アンタはただ自分が行きたいだけでしょうに」
力説するアルの頭を背後からぺしんと叩いた女性、音々はうんざりした様子で胸に抱えていた銀髪の少女を床に降ろした。
「……アル。またむちゃ、しようとしてる」
「げっ、テメェ音々このクソアマ!何うちの子無断で連れてきてやがる!レンはどうした」
「そのレンから頼まれたのよ。アンタのブレーキ役にこの子は必須でしょって」
「どうでもいいけどお前ら人外は呼び鈴と不法侵入って言葉を知らんのか」
どんどん無断で家に上がり込む人ならざるもの達にもはや怒る気力すら湧かない守羽であった。
「もういいからお前らここでおとなしく留守番してろ。静音さん、俺の居ない間はこっちよろしくお願いします。由音も、頼むぞ」
「む…ぅ…わかった!!」
「うん。任せて」
守羽に頼み込まれては頷くしかない由音も引き下がり、彼へ絶対の信頼を寄せている静音も見送る瞳に不安は微塵もない。
そうして守羽が顔を向けた先。部屋の角が歪み、異界への扉と変わる。
荒事も珍事も慣れたものとばかりに胡坐を解いて立ち上がる守羽の背中を、アルだけは悪戯っ子のような目で見据えていた。
「(おい
「あ…?」
とびきり困惑した声でそんなことを叫ぶものだから、扉を潜る寸前だった守羽も振り返り不審げな顔を向ける。他の面々も、普段あれだけの不遜ぶりを保っているアルがそこまで狼狽えるとは何事かと、彼が指さした窓際の方へと視線を送ってしまう。
瞬間、アルは床から一振りの短剣を生み出し引き抜き、全員の視線が集うその一点へと放り投げた。
「馬鹿め!〝
『!!』
気付いたところであらゆる挙動が遅かった。
短剣は中空でひとりでに罅割れ自壊し、その剣身の内から莫大な光量を吐き出し顔を向けた全員の目を眩ます。
「ぐあぁ目が!目があ!?」
「…チッ!アルお前!」
「くはは間抜け共が甘いんじゃい!おっしゃ行くぜ白埜ォ!」
「……ん。いいよ」
視覚を封じられた守羽がすぐさま直感頼りに止めようと手を伸ばしたが、両目を手を覆いもんどりうつ由音の足元を崩され空振ってしまった。
「前々回は不完全燃焼、前回はクソ鬼に邪魔された!今度こそは誰にも譲らねェからな!ハハハハハハ!!」
白埜を小脇に抱え大笑するアルは、一目散に開いた異界への扉を蹴破ってその先へ飛び込むのだった。
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