〝事故〟の概念体【Heinrich's】
『それは300もの気にも留めないただの些事』
『これは29の歯牙にも掛けない軽微な事象』
『総て経て、死を告げる』
『ひとつ。1なる大事は、汝の命に届くだろう』
一見すればどこにでも見るような工事現場の勤務員のような服装をして、ヘルメットを被る表情は影に隠れて何も読み取れはしない。
右手に持つ赤いライトの合図灯は、いかなる経緯を持つものなのか鉄のような硬度を有し、生半な刀剣の類では鎬を削ることなく折られてしまうであろう。
必要なタイミングでのみ条件を満たした旨を告げる言葉を発するが、やはり概念体としての例に漏れず、彼に個としての意思は存在しない。ただただ、己が理と表出させ具現させることのみを理由とし、あなたの前で真価を示すことだろう。
【Injury law・Reversal】
Heinrich's出現時に発生する、一定領域を支配する特殊な場。事故の法則に基づき、一定時間経過によりとある条件を満たし、敵対者を殺す一撃を用意する。
領域内では何かを制限・封印するような縛りは一切働かない。Heinrich's自体の戦闘力は常人では到底叶わない程度の耐久力、腕力は有するものの、異世界より招来された者達であれば打倒するのにさほど苦労するほどの相手でもない。攻撃方法も関しても素手、あるいは合図灯を振り回すくらいの行動しかしない。
ただし領域内のあらゆる行動とそれに伴う影響は全てHeinrich'sの法則により集約され、やがて300に至る小さな小さな行動の集積が完了すると、第一の条件が達成される。
さらに戦闘を続けることでそれらを束ねた、29もの行動が悪手となり、ついに第二の条件も満たされる。敵対者はこの辺りから自らの行動と相手の行動に何か不穏な違和感を覚え始める。
最後。一切危険視することのなかったあらゆる行動の総てが繋がり、極大の現象を伴って敵対者を襲う。それは道端の石ころを蹴り飛ばした行為がやがて暴走したダンプカーを呼び寄せるが如き暴挙、暴論の顕現。
領域の真相は、一件の重大事故の裏には二十九の軽微な事故と三百件の怪我にも至らない事故があるという法則をなぞり、逆転させた因果の連鎖。Heinrich'sは己の概念体たる所以を意図的に変転させ、攻撃手段をしている。
敵対者は自身でも気付かぬうちに自身を殺す為の要素を生み出しHeinrich'sに与え続けているのだが、それに感づけるのは二十九の軽微な事故に至る頃でようやくといったところ。とてもではないが300もの些事の集積に気付けることはない。よほどの推理力、直観力があればまた話は変わるだろうが。
因果逆転の末、至る重大事故は敵対者の質に比例してその規模を増していき、どうあれ敵対者を『必ず殺せる事故』として形を興す。
『攻略メモ』
概念体お得意のチート領域。これに関しては時間を与えれば与えるほどに不利になっていく時限爆弾のような性質を持つ。
Heinrich's自体がそこまで強くないせいで逃げることも選択肢から外れやすく、仕留めようと躍起になればなるほど早く要素を集める手助けをしてしまうので、倒すのであれば高火力における短期決戦が妥当か。
保有する理はとても有名な、労働災害における経験則のひとつ。それを真逆に捉えたもの。『つまり一つの最悪な事故を起こす為には三百と二十九のたいして気にもならない事柄の集積があれば成し遂げられる』と曲解させた極致の真髄、ともいえる。
ちなみに領域内では何もしていなくても、『立っている』『呼吸している』だけでも要素として収集されてしまうのでどの道領域に入った時点で早々に倒すか極大の事故が到来する前に逃走するかの二択しかない。
事故領域は十戒領域とは違いガチガチにルールに縛られた場ではないので、領域外へ逃げるのは比較的簡単。別に倒さなくてもいい相手。というか概念体は大体そう。
あと極大の事故とはいっても、某呪術なんたらの領域とは違い『必殺』の一撃ではあれど『必中』の一撃ではないので、全力で躱すことだけ考えていれば避けることも出来るかもしれない。
Heinrich's(というか概念体)は痛覚も無く手足が無くなったところで戦意喪失も失血死もしない存在なので、完全に息の根を止めるまでしつこく食い下がる。深追いは禁物。
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