〝推究〟の概念体【Knox's】
『…………』
『戒律の三にてその逃走手段を許さず』
『否である。我は七の戒により罪を持つ者に非ず』
『無効。その劇薬は第四戒に触るるものなり』
『犯人は、お前だ』
藍色のスーツの上から袖を通さずに羽織るは茶色のインバネスコート、同色の鹿撃ち帽を目深に被り、永久に燃え尽きない葉巻を常時咥えて吸う初老の男性。その立ち姿は誰しもが一見して『考え、推理し、真実を暴き出す者』のテンプレートを想起させる。
気配は無く、敵意も無く、予兆すら感じさせず、気付いた時には既にその場に在る。それはあらゆる事件の現場に意図せず遭遇してしまう推理者の必然性が成す神秘の一端であるとも取れる。
ただし、出現の瞬間は読み取れずとも、彼自身が展開させている領域の異質性には触れれば嫌でも分かるので、領域縁端部に触れた時点で転身し引き返せば遭遇を避けることは可能。
【Ten Commandments】
Knox's出現時に発生する、一定領域を支配する特殊な場。十の戒律に基づき、Knox'sが敵対者と判断した対象に〝探偵と犯人〟の理を付与する。
敵対者はこの理の下に行動を制限され、戒律に反するアクションの一切を封じられる。戒律の全容に関しては違反行動を実行しようとした際にKnox'sの口から違反項目を都度指摘される。
十戒に関しては以下の通り。
【1. 犯人は物語の当初に登場していなければならない】
第一戒により対峙する敵対者は強制的に『犯人』に指定される。
【2. 探偵はその方法に超自然能力を用いてはならない】
第二戒により自己を戒め、Knox'sは(その存在自体を除き)人の領分を超えた動きや能力は使えない。
【3. 犯行現場に秘密の抜け穴・通路が二つ以上あってはならない】
第三戒により領域への離脱方法は原則一つのみとする。さらに第二戒により『探偵が常人であるならば犯人もまた超常能力者であってはならない』こととし、異能による離脱を許さない。つまり徒歩や疾走、車両などの一般的な方法でしか逃げることは出来ない。
【4. 未発見の毒薬、難解な科学的説明を要する機械を犯行に用いてはならない】
第四戒により既知の外にある害毒、超未来的な科学現象や機械の使用を禁ずる。ただし古典的・常識的な毒素(高濃度酸素による毒性発露等)であれば第四戒には抵触しない。
【5. 主要人物として異邦人を登場させてはならない】
第五戒によりKnox'sと同質の生物であることを強制させる―――のだが、『異常流出』の弊害によりこの戒律は機能せず、異世界に存在するあらゆる生命体を領域内で承認している。
【6. 探偵は偶然や第六感によって事件を解決させてはならない】
第六戒によりKnox'sは絶えず思考を繰り返す。敵対者は何の罪を暴かれるのかを事前に察知し、これを阻害しなければならない。第一戒にて既に『犯人』と確定されている状態である故、その阻害にもはや手段は問わない。
【7. 変装して登場人物を騙す場合を除き、探偵自身が犯人であってはならない】
第七戒においてKnox'sは確定された『暴く者』である為、『犯人』はKnox'sに罪を擦り付ける行為、共謀者として相打ちにすることを禁ずる。
【8. 探偵は読者に提示していない手がかりによって解決してはならない】
第八戒によりKnox'sは明かされていない証拠や動機で『犯人』を追い詰めてはならない。ただしKnox'sは『読み解く者』の性質を得ている。
【9. サイドキックは自分の判断を全て読者に知らせねばならない。また、その知能は一般読者よりもごくわずかに低くなければならない】
第九戒によりサイドキック(助手あるいは共犯者)の性能を引き下げる。たとえ『犯人』に同行している者がこの世を統べる魔王であったとしても領域内でKnox'sを物理的に殺害することは不可能。
【10. 双子・一人二役は予め読者に知らされなければならない】
第十戒により分身や分裂、複数の命のストック等がある生命体は領域に入った瞬間からその能力を封印される。
【読み解く者】
Knox'sは領域内の生物の生きた道を読む技能を有する。有体に言ってしまえば『生命の物語を読む取る』力。その者がどのような世界を生きて如何様な罪を犯したのかを識り、その中から『犯人』として突き止める為の要素を探す。
【暴く者】
罪を解き明かし真実を解放する能力。明かされた罪の重さによって身に負うダメージが変動する。「犯人はお前だ」の一言をキーとして発動。
『攻略メモ』
概念体は目に見えるし触れられるものではあるのですが、しっかり殺そうとするならその領域内部のルールに従った形で倒さないと消えてくれません。しかも概念体はその性質上、ぜっっったいに自分にクッソ有利な領域を広げた状態でしか出現しません。クソゲー。
十の戒律を潜り抜けた上での方法で殺害する方法があれば『犯人』の勝ち。殺せばちゃんと消え失せてくれます。領域から逃げても別にしつこく追ってきたりはしません。ただうっかり領域に足を踏み入れちゃった場合は即座に姿を現して探偵と犯人の討論会強制スタートの流れにされるので要注意。
黙っていると勝手に人の中身を読み込んでなんか罪状を露わにされるのでとにかく話しかけることが重要。逆にこの概念体は探偵としての柄なのか絶対論破マンなので問いかけや言い訳に対しては逐一返答を返してくれます。その間は罪状暴露や「犯人はお前だ」の致命傷指名アタックは来ないので時間稼ぎも大事。
軽い罪であれば裂傷や打撲程度で済みますが、あんまり重い罪を犯してると内臓破裂とか引き起こさせます。仕方がない状況下での殺人だったとしてもなんかしらこじつけて罪にしようとしてきますが、きちんと理に叶った弁明ができれば無罪でやりすごすことも可能。
正直別に倒さなくてもいい相手。そこら中をふらふらしながら十戒領域を広げているはた迷惑な存在。自身を中心に初期は百メートル程度の領域。時間経過に連れて最大千メートルまで拡張される。領域内であれば一瞬で対象の眼前まで転移することが出来るので一歩でも足を踏み入れたらエンカウント。
特殊な使い道としては避難場所。誰にとっても平等に迷惑な領域であるということは、どれだけ強い敵であってもこの場であれば弱体化は余儀なくされるということ。もし勝てないような敵に出くわした時、Knox'sの十戒領域に逃げ込む(あるいは誘導する)ことが出来れば戦況はひっくり返る…かもしれない。
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