最終戦 照らすもの VS 暮れるもの
「〝
灰の癒し手による助力で灰が総動員し矛と盾になる。剣帝剣・白兎の砕けた欠片群はこれで動きを封じられる。
「やめましょう日和さん!目的は達した!俺らも帰りましょう!」
「それは怯えかな?それとも身内を傷つけたくない良心かい?もし後者であるなら心配いらない。君は私に傷一つ付けることもできないのだから」
(だろうなァ!)
大根役者ばりの演技力で夕陽を煽るが、そんなもの夕陽とて分かっている。大方これをいい機会に組手がてら子と遊んでやろうという考えだ。
「君が私を傷付けることが出来たならば考えてあげてもいいがね」
「そっすか!―――俺ずっとアンタのこと大嫌いだったんですわ!!」
「確かに傷付いたがメンタル方面はカウントに含まないよ。……あとそれ、嘘だよね?」
若干不安そうに顔を曇らせる日和だったが、その間にもしっかりラストアッシュの攻撃を防いでいた。正直夕陽の心境的にも恩師への慣れない罵倒で心が痛い思いだった。
(やるしかないってことか!)
日向日和は嘘を吐かない。ことに、夕陽と相対している時に関しては殊更に真摯に接してくれていると認識していた。
だから、夕陽にできる打開策は一つしかない。
真っ向勝負で、この生きる伝説に抗うこと。
「―――お、ォォお」
「…うん。間違いないね」
疲労していようが関係無い。力の一部を未だこちらに委ねた状態でも、やはり関係無い。
「ォぉあああ!」
「夕陽。今の君は」
どれだけの条件を重ねたところで、この人間には勝てない。
だから全力で、殺す気で、ほんの少しの擦過を与える為に決死で挑む。
「ハァぁアあああああああ!!」
「これまでの中で紛うことなく最強だよ」
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〝
ガーデン・ライラックから借り受けた戦斧も元は英霊の一部。霊力として還元し取り込むことでラストアッシュに次ぐブースト効果を夕陽にもたらした。
今や夕陽は憑依の使い手にして遺灰の担い手、そして人の形をした破壊の化身。
歯を剥いて飛び跳ねるその姿は獣のようでいて、洗練された武の極致にある動きには一片の隙が生じない。
日和の周囲が爆散する。厳密には速すぎる夕陽の動きが着地の度に地を踏み砕いているだけなのだが、ともあれこれだけでも常人ならば吹き飛ばされるだけの威力を有している。
「なるほど。いいね。随分と力の後押しが効いてる。真名全て預けたのは正解だったかな、危うく制御に耐え切れず君が木っ端微塵になるところだ」
神刀を持つ夕陽に合わせてか、右手に集う刃片が再び剣帝剣・白兎として長剣の姿を取り戻す。
初手、背後からの強襲を防がれ再び高速移動による撤退。打ち合いでは勝てない。一撃離脱でチャンスを窺う。
(…………ダメだこりゃ!!)
目くらましに展開した灰がまるでリングのように日和を中心に吹き荒れる取り囲うその中に紛れ込み円周上に駆け回るが、どこから攻めても通る気がしなかった。
(格上への戦法としては間違っていない…が、少し引腰だね)
対する日和は灰嵐の中央で様子を見ながら愛弟子の動きに注視しつつ採点を続ける。やはりまだ怯えが見えた。
「それでは駄目だよ。時間を掛ければそれだけ不利になる。こんな風に」
たむ、と地を小突き水行を発動。噴き上がった水を吸って灰は動きを一気に緩慢なものへ落される。
不良だった視界が晴れ渡った瞬間に勝負に出る。
出鱈目に名付けた
「確実に当てる自信が無いのなら囮や意識の誘導以外での攻撃は無策と見なされる。動きもバレるしね」
長剣で灰を弾き、振り返った日和と刃を交える。
「ぁああ!!」
灰の霊魂と破壊の化身による霊力任せに振るう斬撃は一撃で地を割るほどに強烈だが、まるで柳の木を相手にしているかのように刀はいなされ、空振った衝撃だけが周囲の建物や大地をズタズタに引き裂いていく。
「数打って当てるのも悪手だ。並みの相手ならいざ知らず、それでは…」
剣で迎撃する片手間で講釈を垂れていた日和の言葉が途中で止まり、首を少しだけ後ろへ反らす。
「…いいよ、とてもいい。今のは危なかった」
反らした顎の少し下を通過した刃の先端。交戦から初めての回避行動。判断を誤れば頬を裂かれる程度はされていただろう。
日和の判断を遅らせたのは他ならぬ夕陽の発想によるもの。刀の峰から発生させた火球を爆裂させることによって急加速を得た斬撃を見切られたことに舌打ちを鳴らす。
どれだけ速くとも動きを追われるのなら、速度の緩急に重きを置く。通常の高速に加え、意図的に遅くした斬撃。それと火球による発破加速を得る最速斬撃を織り交ぜて猛攻を再開。
だが退魔師に二度目は通じない。
完璧な『眼』による見切りは刃を交わすだけでこちらの思考まで読んでくるかのように次の手を的確に潰してきた。
奇策は一度のみしか通じないから奇策。そうでなくとも初見でなければ全ての攻撃はほぼ通らない。
「くそ!」
汗を滲ませながら二歩後退し再度の灰嵐。視界を分断された日和は薄暗い灰の奥を見据えた。
(ここまでかな)
そもそも夕陽には圧倒的に経験が足りていない。自分であればこれだけの力、いくらでも応用を利かせるだろうところを夕陽はそれをしない。出来ない。
責めるつもりはない。むしろいきなり身に宿した力にしてはよく扱っている方だ。
だがそれもここが限界。ジリ貧で倒れるのを待つよりかは、親として師として決定的な勝敗をつけてやることが最善。
同じように水行を発現させ灰と相殺させるべくして指向性を付与する。
「えへへっ」
そして、その先に紅い砂嵐が吹き荒れた。
(クローンか)
灰はともかく、この砂嵐は真っ当な『土』に属する攻性術式。であれば日和の水行は相剋によって土行に打ち負ける。
出力比での威力負けをさらに厚みを増した灰嵐が押し上げる形で突破し、日和の水行が無効化された先。
「えーい!」
中空から圧縮された大気の水より出でる巨大な牢。日和を囲い外側から無数の日本刀とビーム砲台。拙い〝模倣〟による兵器の複製が一斉に牙を剥き飛び出す。
(…まだだ)
分解した白兎の拡散刃でそれらを迎撃、自身も術法と徒手によってそれらを全て叩き落して牢を破壊した直後を見計らって、残り四枚の翼を全駆動させたアイネが割り込む。
「「お父さんっ!!」」
「ええ!」
連携で生んだ虚を突く最大の好機。体勢、軌跡からして回避は不可能。
触れさえすれば四度の斬撃は身を裂く。
「機を、狙っていたな」
抑揚の無い、夕陽以外に向けられる慈悲の無い声が失敗を明確に告げる。
アイネの技が持つ弱点の一つ。対象との間に障害を挟むことによって現象は発生しない、というもの。
日和の着物数センチ手前で止まった虹天剣は即席で練り上げた防護結界に阻まれ速度を殺されていた。直後に四連斬撃が結界を破壊するがその時には既にアイネは日和に蹴り飛ばされ遥か後方。
これだけ策を弄しても無傷。
(残る打つ手は…)
やや余裕を奪われたか、思考をすぐさま次に移す日和が弾かれたように真上へ感じた気配へ剣を突き出す。
その手が握る剣は対象を突く前に急制動を掛け止められる。
「……」
日和の真上を取っていた相手は、小さな体に纏う和服をふわりと揺らめかせて、ふんすと強気に二本指でVサインを向けていた。
座敷童子の幼子がそこに。
ではこの娘を宿していた少年は?
「ッッラぁ!!」
横合いから放たれるは殺気。日和が求めていた、その最上級の気概。
今度の防護は間に合わない。何せ彼の持つ獲物は神を討つ大業物。この短時間で練る術式では薄紙の役割すら果たさない。
見事、とは言わない。こういった状況に陥った以上、日和は悪役のロールを演じ切る。
「…まぁ、及第点と、しておこうか」
そんな内心とは裏腹の言葉を吐いて、微笑む日和の胴を夕陽の一閃が直撃した。
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