天地竜王決戦 地 ノ 3


 認めてもらいたかった。誰でもいいから、誰かひとりでもいいから。

 その為には強くならなきゃ、って。みんなが、すごいね、って言ってくれるくらいに。

 だからそう。俺様は。


 ―――馬鹿が。そんなことをして何になる。


 …え?


 ―――人を超越した先に孤独以外の道があると考えていたのなら大間違いだ。その先もまた孤独だというのに。


 なんだよ…知ったようなこと言うじゃん。


 ―――知っているからな。だから警告してやっている。


 でも…じゃあ、俺様はどうすればよかったんだ?どうすれば。


 ―――知るか。ただ貴様は道を違えた、それだけは確かだ。人としての正道を歩めば、きっと別の道もあったはずだが。


 人を、超えようって、そうしたのが間違いだったのか…?


 ―――そうだ。貴様は間違えた。結果がこれだ。


 ……そっか。結局、俺様はひとりぼっちか。


 ―――本当にどこまでも馬鹿な小娘だな、貴様。そういうセリフは、きちんと空を見てから言え。


 あ。


 ―――貴様を迎えに来た満天の星空が、言葉以上に貴様の望みを示しているのがわからんか。


 ほんとだ。本当だ。


 ―――それと。以前どこかの女が言ったことを忘れたのか。


 ?


 ―――『誇れよ。私が認めた強者はそう多くない』。残念だが、貴様がどこまで高みに至ろうが上には上がいる。孤独を味わう余裕なぞどこにもありはしない。


 …へえ!そうか、世界は広いな!


 ―――異世界に限ってだがな。ともあれ、これで満足か?はた迷惑な魔女。いつまでも友を待たせるものではない。


 おう!……あのさ!


 ―――なんだ。


 またいつか会おうぜ!そん時にはもっと強くなってっから、な!姉御!!




     -----


「終わったかい?日向日和」

蠢く泥の巨体が、星空と共に崩れ去る様に背中を向け、日和はリルヤの横を抜ける。

「…やれやれ」

 完全無視されたことにも肩を竦めるのみで、リルヤはその背中に追従する。

 与えられた仕事はまだ完遂していない。地上が済んだのなら、次は天空。

 黒竜を堕とす。





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 不死の倒し方。それは場合によるがいくつかある。

 一つ、封印。呪式・術式による封緘で身動きの取れない状態にすればいい。基本一般的な不死への対抗策としても有効打となる。

 一つ、完全抹消。不死の中には存在を丸ごと消し飛ばすことで復帰・再生に時間を要するものもいる。その場合は火力さえ足りるなら通じる手である。

 一つ、半殺し。『死亡』を判定材料として蘇生を行うタイプは、大体はこれで黙らせられる。

 流星群の爆撃が降り終えた後、立っていたのは一人。ガーデン・ライラックが手足を捥がれた屍神の首を鷲掴みにしていた。

「か、はっ……やるじゃん」

「フン」

 一言も返さず、ライラックは瀕死のゾン子を黒竜の背から投げ捨てる。再び空を満たす幾何学模様。今度は敵方の攻撃、三度目のアルマゲドン。

(ヴェリテが梃子摺ってやがるのか…!)

 不死屍に向ける意識も無く、ただ雷竜が未だ敵を仕留め切れていない事実にその脅威の認識を改める。

「竜舞奏!ヴェリテの援護を頼む、進路上の隕石は俺が蹴散らす!」

「貴方一人で務まる相手とでも!二人掛かりでも手を焼いているというに」

「やるしかねぇだろ本命は黒竜使いメイドだ!コイツは俺達でどうにかする!さっさと倒して援護に来てくれりゃいいだけの話だ!!」

 叫ぶ夕陽の周囲に灰が集う。いくつもの円錐の形を作る灰の砲弾が矛先を真上の隕石群へ向けられた。

「行け!」

「承知しましたが無理は禁物で!」

 射出と同時に跳び出る奏をライラックは追わない。

「…そうかいイカレ女。テメェの本命は、あくまでも…ッ」

「おうよ、てめぇさニンゲン」

 刀と斧、咆哮と灰が鎬を削り合う。

 決着の時は近い。




     -----

「げっほ。やべ、これ一回落下死するまでなんもできねーじゃん。どうしよ、舌でも噛むかー?ま、屍神がそれくらいで死ぬか怪しいけどなー!?」


『ヴェリテーたすけてー!?あのブレスこわすぎるんですけどー!』

「見ての通りこちらも手一杯です!というか貴女はなんなら対暗黒竜このための抑止ではありませんでしたか!?」

『そんなこと言ったってまだ若いんだもーんー!きゃー翼のはじっこ掠った!』


「うん?この声はまさか…………うぉーいドラ子、ドラ子ぉおおおおおー!!」


『だからドラ子ってやめてっ、てあれ?お姉ちゃん?えなにしてんのうわまたグロいことになって落ちてるし』

「ぃよっしゃでかしたドラ子、へい!へいカモン!トドメ刺して、早く殺して!一刻も早く殺して!!」

『本当に何言ってるの大丈夫!?』


 屍神、地上落下前に絶命と蘇生により復帰を果たす。


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