依頼番外 『逆鱗暴走vs逆鱗乱舞vs…(前)』


     -----




依頼主:CEOフーダニット

 ちょっと!なにこれ聞いてないんだけど!

 このままじゃ戦力を削り取る以前にコロニーが消し飛ぶじゃない!初めは笑って見てたけど、そろそろ笑えないわねっ。

 報酬は追加で用意しておいてあげるからちゃっちゃと!やっつけちゃいなさい!!




勝利条件:

 雷竜ヴェリテと竜舞奏の無力化(生死不問)




     -----

「ふっざけんなよ小娘コラァ!!」

 バラエティ番組見るような感覚でモニターしやがってあのクソガキ!

 大暴れ壊滅待ったなしの第①コロニーで、いきなりぺいっと目の前に転移で現れた殴り書きの依頼書。まるでたった今書いて送りつけてきたかのような、っていうかたぶんそう。

 まあこうなることは誰にとっても予想外だろう。

「ヴェリテ!なにブチ切れてんだか知らないけど正気に戻れ!」

 雷撃を掻い潜り巨大な竜の顎先まで跳ぶ。

 ただでさえ天空からの墜雷でドームのそこかしこが穴空いて酸素が逃げて行ってるこの状況。マジで早めにどうにかしないと俺達も死ぬ。

 飛翔する雷竜の頭部や背中を蹴りつつ、同様に滞空しながらも神刀と木鞘の即席二刀で手数を補う。

 だが自由に空を飛び回る飛竜相手に空中戦など愚の骨頂。あっさりとマウントを取られて爪牙に弾き飛ばされる。

「こんの…いい加減に―――チィッ」

 片手で受け切るには重すぎる竜の猛攻に両腕を痺れさせながら吐く悪態も最後まで続かず、後方から距離を詰める竜舞へ強制的に対応を迫られる。

「ぐ、がっ!クソ…!」

 こちらも重い、速い。五行によって武器攻撃以外にも攻勢を展開したところで焼け石に水。

 隆起した土は四股を踏むようなスタンピングで逆に衝撃を生み出させてしまうし、蔓や蔦程度では動きを止める手助けにもならない。金行で練り上げた鉄の壁も薄紙を破くように素手で突破するし火球はそもそも当たらない。

 化物に挟まれてもう泣きそう。

〝……〟

(うんアリ、普通にアリ。依頼なんぞすっぽかして逃げ出すのも余裕で選択の内よ?)

 逃げよう逃げようと涙目で訴えかける内側の幸に全面的な同意を返す。

 なんて現実逃避していたせいで痛烈な殴打を許してしまう。交差させた二刀で受けたとはいえ、突き抜けた衝撃で内臓が悲鳴を上げる。

「げほっごほ!っ!これは、やべぇ」

 咳き込む俺の側方から黄金の輝きが。見れば天を仰ぐ雷竜の口腔からめちゃくちゃ大きな雷球がチャージされている。しかもまだ膨らむ。おそらくサンダーブレスの予兆。

「……」

 憤怒以外の感情を捨て去った竜舞がその場で拳を構える。まさかとは思うが受けて立つ気か。いや立つ気だ拳に大気が集束されてる、あのレベルになると素手で衝撃波が撃てるのか。

 ってか受けて立つんじゃねえ。ヴェリテも撃つな。お前らの射線上にいる俺はどうなる。

(不味い、まずい!いやどうするどうする)

 介入して防ごうとすればまず消し炭は免れない。逃げても砲撃の衝突は間違いなくドームの外殻を破壊する。そうすれば待つのは酸素の存在しない死の世界。結局俺は死ぬ。

 あれこれ詰んでない?

「くっそがぁぁあああああああああ!!」

 〝憑依〟最深度。利き手に握る刀の権限を行使。真名開帳。

 布都御魂ふつのみたまの権能を以てして、神力にて現状を打開する。

 ただし大きな問題はある。刀の真の所有者たる日和さんでなければこの権能は万全に機能しない。あくまで貸し与えられたものを振るっているだけの俺にそこまでの力を引き出せるか。

 そして神刀の真価は人外の全てに特効を発揮する。〝憑依〟を扱う俺の肉体、ひいてはその内で絶えず力を捻出し続けてくれている幸が危ない。

〝っ……〟

(だろう、なぁ。お前はそういう子だよ、知ってた)

 躊躇いなく俺を支える意志を示す童女に感謝を。

(どの道俺らは一蓮托生。あの世逝きでも、一緒なら寂しくないよな)

〝っ!!〟

 肉体を蝕む神力を〝倍加〟で強引に抑え、刀の深奥を抉じ開ける。

 いける、と思った。一度きりなら、保つ。

 刀身と連動して鞘にも神力が伝う。一振りを二分した両手の刃と鞘で迎え撃つ。

 解放の瞬間は三者一様。

 雷が吼え、衝撃が撃ち、そして刃が穿つ。


「タンマだ。それは使うな」


 両腕が上から踏みつけられ、俺だけが対抗する術を封じられた。




     -----

 爆光。

 眼球が焼かれるような痛みに耐え兼ねて閉じてしまっていたのを、ゆっくりと開いていく。

 跪いた格好の俺の両手の甲は編み上げブーツに踏まれ、刀と鞘も手から離れていた。相当の威力で踏ん付けたのか、両手は地面に深々と埋まっている。

「ごめんね。痛かったよね。でも許してほしい、間が無かった」

 すぐ足はどけられ、自由になった両手を地面から引き抜く。

 顔を上げれば日和さん。凛々しく整った面立ちが、見上げるローアングルから大和撫子の麗しさを垣間見せる。

 双方からの砲撃を打ち消した両掌を広げた状態で、困ったように笑う。俺にだけに見せる、人間味のある彼女の表情。

「それはいけないよ。使えば二度と君は戦えなくなる。生き残ることは出来ただろうし、その手段をあの場で決められたのは英断だったけれどね」

 誉めるように叱るように、言って聞かせるその様子は珍しく親らしかった。刀を拾い、俺に手渡す。

「しかし君という子は、幸によって〝幸運〟の能力者であるはずなのに悉く不幸な目に遭うね。学園都市のレベル0かな?」

「だったら異能を打ち消す右手も付けてほしかったですがね…」

 受け取った刀を杖代わりに立ち上がる。

 光の中では見えなかったが、しでかしたことは一目瞭然だ。

 雷竜は水の牢獄内部で暴れ狂い、竜舞奏は姿こそ見えないがあの分厚い岩の立方体の中に閉じ込められているのは気配で分かる。

 切迫した状況下で俺の行動を阻害し、割り込んで二つの攻撃を相殺。即座に二種類の術式を編み上げ両名を捕縛。

 頭の回転どうなってんだこの人。

「日和さん、あの」

「あっち」

 俺が言葉を選んでいる間に、日和さんは人差し指で廃墟となった施設のある方向を指した。

「狩り損ねた灰がまだいるから、君はそっちをお願い。その刀なら余裕で勝てるはずだよ」

「…じゃあ、日和さんは」

 もう一つ転がっていた鞘を拾い上げ、掴む。そういえば持っていた長大な白い剣が無くなっている。

「莫迦共をおとなしくさせる。今の私は君を傷つけられて少々ご立腹だ」

 ジャキン!!と金属質な音が鳴る。

 着物の袖から飛び出た苦無を指の間に挟み、指先には梵字で綴られた符が摘ままれていた。

 色々と本気らしい。

「こ、殺さないでくださいね…特にヴェリテ」

 一応仲間なので。

「そう簡単には死なないさ。だから大丈夫」

 なんだか返答に違和感が拭えなかったが、大丈夫と言うのだから大丈夫なんだ。俺は日和さんに全幅の信頼を置いているので何も疑わない!

「了解。では、ご武運を」

 間もなく捕縛も破壊される。俺がいては迷惑だろう。これから始まるのは怪獣大決戦。ただの人間は逃げ惑うのが関の山だ。

 全力で離脱する。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る