幕間2・竜人同盟


「…それで、またお前か」


 ヴェリテと幸を連れてミステリーダンジョンへ舞い戻った夕陽だったが、そこで待ち合わせていた相手は露骨に顔を顰めていた。こうまで他人に感情をぶつける日和の姿をあまり見たことがない夕陽にとっては新鮮でもある。

「ええ、また私です」

 対して雷竜ヴェリテは飄々としたもので、にこやかに日和へと笑みを向けた。

「目的は何だ。まさかわざわざ助太刀の為だけに世界を跨いできたわけでもあるまいに」

 日和の方もこれ以上その話題に触れても意味がないと解ったか、さっさと次へ進める。

「もちろん夕陽への助力もありましたが、他にも」

「同胞の竜を助けに来たらしいですよ。今は他のハンターに…保護?収容?されてるらしいですけど、⑪コロニーに」

「何故竜が豚箱に」

 純然たる疑問を抱く日和に手短な状況説明をすると、彼女も嘆息しながらひとまずは納得した。

「とりあえずは貴様、その竜を無事に帰すまではこの世界に居残り続けるというわけか」

「はい。あの仔を安全に元の世界まで戻すのを見届けて、それから私も帰ると致します。本当は私が手ずから連れ帰りたいのですけど、郷に入りてはなんとやらとも言いますし」

 バウンティーハンターとして世界に降り立った以上、他のハンターが請け負った仕事に横槍や介入をするような真似は極力避けたい、という意味だと夕陽は理解する。銀竜の件は依頼に沿って動く例の投獄されたハンターに一任する腹積もりらしい。

「なら貴様はその子を守れ。死なせたら殺す」

「言われずとも。貴女が与えなさ過ぎた愛を私が与えて御守りしましょう」

(あっ)

 いち早く、無表情の奥に見えた憤怒の焔に気付いた夕陽が幸を連れて数歩下がる。


「上限無しに与えているが?闘争にしか熱の向かないトカゲ共は爪と牙を研ぐことに傾倒し過ぎてそんなことも理解できないのか」

「貴女の行いは獅子より過酷です。そんなものは千尋の谷どころか奈落の底へ叩き落とす外道の所業ですが?」


「…っ、っ」

「あれを止められるのは神様だけだよ幸。そして俺は人間だ」

 メンチを切り合い無意味な舌戦を繰り広げ始めた二人から距離を置き、夕陽はポケットから取り出した紙を取り出す。


「というかなんですかその大剣。前から狂戦士じみた怪物っぷりでしたがいよいよ本格的に人の皮を捨て去る時が来ましたか?」

「さっき拾ったんだが試し斬りがまだ済んでいなくてな。良ければ脳天から両断させてもらえないか」


 ここへの移動間、突如として目の前に転移で出現した一枚。それは壁に張ってあった幾枚ものそれと同じ、依頼の発注を示す紙。

 何者かが、転移技術を用いて夕陽へ直接送り付けたものだ。


「ちょうどいい大きさですし、剣より避雷針の方が役立つんじゃないですか。ほらそこに立ってください行きますよ逝ってくださいどーん」

「効くと思うか馬鹿竜が。やはり戦うことばかりしか頭にない人外は駄目だな」


(いやうるさいな)

 背後では落雷と放電が絶え間なく、たった一人へ襲い掛かっている轟音と破壊音が続いている。

 耳がおかしくなりそうな中、片手で幸の耳を押さえて紙面の上部分を見る。

 下部には依頼内容と指定された場所。ターゲット情報や勝利条件などが記載されている。

 一番上にあるのは、この依頼を発注した主の名。

 幾多ものハンターがこぞって報酬目当てに蠢く中、わざわざ名指しに近い形で夕陽を選んだ理由。加えて、相手は独自に転移技術を利用できるほどの地位立場の者。

「お得意の騎士様はどうした、我儘姫」

 溢した呟きは雷鳴に掻き消され、すぐ近くにいる幸にも届かない。




 ―――依頼:その女、危険につき。

 ―――依頼主:CEOフーダニット。



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