日向 日和 (決戦礼装)
「……ひ、日和さん?」
「うん?」
「その恰好は一体」
前回の日和には油断があった。この世界で無類の強さを誇ろうと、それが他の世界でも同じように通るとは限らなかった。無意識化で慢心を覚えていたとしか思えないほどの愚かしさに、彼女は社長戦争終了後密かに己を叱咤していた。
二度目は絶対に無い。あってはならない。
これは日和なりの覚悟であり、決意の表れでもあった。
「いやね、元々が古臭いド田舎の集落暮らしだったせいか、こういう服の方が身が引き締まっていいんだ。ことに、本気で挑むのなら尚の事ね」
流れ乱れる桜刺繍の施された緋色の行灯袴に乳白色の着物。肩から被る長羽織には太陽を模したような、見たこともない不思議な家紋のようなものが刻まれている。
滅多に服に気を遣わない日和の完全和装に目を奪われるのも束の間。腰帯に提げたホルダーにはぎっしりと何か紙札の束が見えるし、袖の内側からはガチャガチャと金属質が擦り合う音もする。
何より驚いたのはその髪。
「切った、ん…ですか…」
「どうせすぐ伸びる」
いつもは適当にヘアゴムで括って背中に流していた黒髪が、肩口辺りまでのセミロングになっていた。
「退魔師の肉体は術式や呪具とすこぶる相性が良い。昔から生爪や髪の毛を意中の相手に送る愛情表現を見ることはあるが、アレは元々呪術の類だからね。念や情といった力を発現させる媒体として抜群なのさ」
「ちょっ…!?」
そんな恐ろしいことを口にするものだから、思わず日和の手を取って爪の有無を確認してしまった。そんな夕陽に「大丈夫」と声を掛けて、解放された自身の手を我が愛し子の頭に置く。
「流石に爪はね、痛いし。ともあれ君もよく覚えておくといい。退魔の家系はこれを本気、全力とするものだと」
身体技能や術式性能だけではない。あらゆる道具、装備を用いて魔を退ける一族こそが陽向家。かつて陰陽を担った大いなる家系。
あらゆる儀式・儀礼に対応した完全特化武装。
「決戦礼装、と呼ばれていたものだ。いや懐かしいね」
最良を纏った最強が、最高の状態で最前線へ向かう。
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