終戦後


「どうなったと、思います?」

「さてね」


 自宅にて。

 椅子に腰掛けた俺の膝に乗った幸とあやとりして遊びながら、ずっと気になったままのことを口にする。

 異世界社長戦争から早一週間。

 片腕を失い全身重傷の俺は、転移で帰還してから出待ちしていた閃奈さんによって速やかな治療を受けた。

 それでも強敵との連戦に次ぐ連戦は俺の身体に想像を絶する過負荷を掛け続けていたらしく、起き上がれるようになるまで二日を要した。

 千切れた腕もようやく元通りに治り、リハビリの甲斐あってようやくこれまで通りに動かせるようになっている。

 まったく、これが初めてではないとはいえ、失くした手足を今までと変わらぬ感覚まで持ってくるのは手間暇掛かる。

「……」

 俺の胸に後頭部をもたれかけた状態で見上げてくる逆さまの瞳。それが僅かな怒りを覗かせていた。

「わかってる。そうそう何度も千切れてたまるか」

 そんな無茶をする度に烈火の如く怒るかこっちの胸が痛むほどに泣くかのどちらかなのだから、俺としても出来る限りそんな事態は避けたいと思っている。痛いし。

 手元の本に視線を落としたまま、文字を追いながら日和さんは確信めいた口調で言う。

「私達はやれるだけやった。結果がどうこうというのは、これから分かると思うよ」

「…それはどういう」

 答えを求めて向けた言葉に返事は無く。

 ゆっくり顔を上げた、日和さんの見つめる先に返答はあった。

 テーブルの上の空間が揺らいでいる。あれは最早見慣れた空間転移。

 ぺいっと適当に空間の揺らぎから吐き出された一通の便箋。

「あれは…」

「結果報告、でしょうか。主様、緑茶にございます。お嬢様にはココアを」

 絶妙なタイミングで台所から戻ってきた篠から湯呑みとマグカップを受け取りつつ、テーブルに落ちた便箋を見やる。

「となるとフーダニットからか?」

「どうかな。他の陣営が勝っていれば没落貴族の我儘姫なぞ生かしておく理由は」

「はいそこ子供の前で物騒なこと言おうとしない!」

 ただ、そういう懸念をこれまで一度も抱いたことがなかったわけでもない。

 俺達の属していたフーダニット陣営はいわばイレギュラー。それが散々戦場を荒らしたのだから他四陣営にとっては面白い話ではないだろう。勝利した暁には真っ先に狙いを定めてもおかしくない。

 考えたくはないが、最悪処刑までありうる。

「見てみなよ。考えるのはそれからでいい」

 途中参戦とはいえあれだけ大立ち回りしておきながら日和さんは他人事のようだ。篠の置いた茶を啜りながら読書に戻る態度からしても、本当に異世界の情勢には興味が無いらしい。

「…あー、見るかぁ」

 どんな内容か、そもそも送り主は誰なのか。

 読まねば始まらない。なんにせよ戦争は終わったんだ、これ以上何に巻き込まれることもない……はず。

「ええい、南無三!行くぞ幸っ」

「っ!」

 折り畳まれた便箋を勢いよく取り上げ、一息に開く。

 そこに書かれていた内容は―――。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る