シェリアシャルル(♦)

「ひーまー」

 純白のワンピースを揺らし、頭頂部の猫耳を隠すニット帽を被った少女が目尻に涙を滲ませて大欠伸した。

 開いた口から見える丸っこい八重歯が印象的な妖精猫、シェリアは衣服の内側に収めた黒尻尾をゆらゆら振らして街中を当てどなく歩く。

「シズ姉もシュウとどっか行っちゃったしー……あとユイ!ほんとどこユイー」

 一番の仲良しを探しキョロキョロと顔を向けても見えるのは知らぬ往来の人間ばかり。彼の姿はどこにも見つけられなかった。

「うーん。どうしよ」

 晴天の空から降る日光はやや暑さを感じさせるが、微風を纏い涼を得るシェリアにはまるで問題なかった。


『……もし。そこの妖精さん』


「ん」

 ニット帽の下に埋もれた猫耳が小さな音を拾った。

「ん、んっ?だぁれー?」

『こちらへ…』

 猫の因子を持つ彼女だけが捉えられた音声に誘われ、シェリアは人目を外れた脇道を行く。

「どこの誰?人間じゃにゃーいよねぇ」

 八割方はただの勘だった。二割で働いた本能が相手の正体を人外と判断する。

 そして現れた獣人がゆっくりと会釈する。

「申し遅れました。私はモナリザ・アライ。あなたに協力を仰ぎたく参上致しました」

「こんにちはっ、あたしシェリア!」

「存じ上げております、風精の申し子」

 にぱっと可愛らしい笑顔で応じるシェリアに微笑み返すアライ。

「アライさんは幻獣のひと?」

「そのようなものです。シェリアさん、あなたが人との親しき共存を望むのなら、どうか私に力を貸して頂けないでしょうか?」

「ふーん?」

 シェリアは人を好いている。人の心を信じている。

 アライに手を貸すことが、シェリアの大切な人達の助けに繋がるというのなら、それは是非もないことだった。

「別にいーよ!ひまだったし!あ、でもね、悪いことはしにゃいよ?」

「ええ、無論です」

 協力者に嘘はつかない。それが純真な子であれば尚更。

 アライは今戦争の細かな内容を詳しくシェリアに教えた。その上で判断を委ねるべきだと考えていたから。

「アライさんが勝てば、人と人じゃにゃいひとが仲良くなれるの?」

「そのように善処、いえ全力を尽くします」

「わかった!」

 屈託なく笑い、シェリアは耳をピンと立てた。

「いいよ、たくさんがんばる!だからアライさんもがんばってね!」

 シェリアの意気に同調するように強風が二人の肌を撫ぜた。

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