ハルファス(❤)


 常世に地獄があるのなら、それは今この時においてこの場所以外に無かろう。


「何故拒む。皇帝に傅け。余にその永遠を捧げよ。これ以上の誉れは無いというに」

「その骨に鼓膜は備えておらんか愚帝よ。私は私を含む神格を嫌悪する、幾度も言わせるな下郎」


 紫炎は酸素尽きても燃え盛り、空は遍く全てを呑み込む寒色。

 相対するは黒き鳩、豪奢な人骨。


「余に敗北は在り得ぬ。その為の一助に貴様を使役してやろうというのだ。歓喜に震え、末代まで誇るが良い」

「……言葉というものがこれほどに億劫と感じる時が来るとはな…」


 本来お喋りを好み、他の魔神からくだらない話をとよくよく一蹴される魔神ハルファスにそうまで思わせる、ビンイン・ジ・エンペラーの大概さも中々のものであった。


ね。唯それだけが私の抱く願いだ。聞き入れろ愚者の骸よ」

「我が敵を屠れ。無知を無知とすら知らぬ人の愚行を正せ、粛正せよ、殲滅せよ。路傍の石にも満たぬ塵芥に身の程を叩き込め」


 黒鳩の紅き瞳が細められる。怒りと哀れみを半々に満たす複雑な瞳だった。

 この愚か者は未だ理解していない。

 何よりも見下している存在こそをが、何よりも恐れるべき脅威であることに。


「……いいだろう。先駆者として、先神として、私が見せてやる。神々わたしたちよりしぶとく、神域の者わたしたちより足掻き、最強わたしたちより強き存在ひとの姿を」


 渋々ながらに神は地上へ降臨する。

 同じ死を司る愚かな大帝に、ただ一つの真実を突きつける為だけに。

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