謁見


 ベルを手に取りすぐさま転移、戦闘開始。

 そういう認識だったが、なにやら違うらしい。

 初めに俺と幸はどこぞの城らしき内部の最奥へ転移した。そこでふてぶてしい表情で組んだ足をぷらぷら揺らす少女が玉座に居座っていた。

 その姿にすぐ勘付く。

「お前がⒿの?」

「無礼なヤツね。あなたの主となる者に対する言葉遣いではないわよ」

 没落王家のお姫様。プリンセス・フーダニットが品定めするように俺達を睨みつけ、それから大きな溜息を漏らす。

「ふーん。冴えない凡夫ね。期待は出来無さそうだけど、まあ頑張って三人くらいは倒して頂戴な。死んでもいいから」

「…………」

(やっべぇ…)

 隣に立つ幸がブチ切れ寸前だ。目のハイライトが消えてる。このままだとお姫様が祟り殺される。

「いやうん、善処するよ。どうせお前も遠くから観戦してんだろうし、期待がどうのは見てから決めてくれても」

「そこの田舎臭い小娘もなんなの?お遊戯会と勘違いしてるんなら帰ってもらえるかしら、子守に人員を割けるほどの余裕は無いのだけど」

「あ゛?」

 殺すぞクソガキが。

 負の感情が完全一致したことによってかつてないほどに強力な〝憑依〟が発現しようとしたところを、周囲の近衛兵らしき連中に槍を突きつけられることで平静に戻された。

「…へ、変なのばっかりね!あのゴリラ女といい、どうして私のところにはこんなのしか来ないのかしら!」

「お前がそんなんだからだろ」

「っ」

 見ろ、うちのお姫様も大変ご立腹だ。

「駄目ね、ぜんぜんダメ!…やっぱり私にはあの人達しか頼りにできるのがいない…」

 ぽつりと呟いた言葉を偶然耳にしてしまう。どうやらあんなポンコツ小娘にも信頼を寄せられる騎士様がいるらしい。じゃあもう全部そいつに任せろよと言いたいがぐっと堪える。

 こちらにもこちらなりに参戦を決意した意志がある。

 これまで二度も関わっておいて、今更関与せず連中を誰かが潰してくれるのを見てるだけというのは、なんというか、嫌だったから。

「で、なんで俺らはここに召喚されたわけ?」

「別に。一応手駒になる連中の顔を見て激励でもしてやろうかと思っただけ。でもいいわ、あなたなんてあっさり負けちゃえばいい」

「負けて困るのはお前だろ」

 尚も憎まれ口を叩こうとしていたフーダニットの体が一瞬硬直する。

「Ⓙは圧倒的な戦力不足。んなこた来る前から知ってた」

 前回のアルファベットシリーズ戦。俺はもとからふざけたイベントに付き合うつもりは無く、初めから主催していた『カンパニー』及び『ベイエリア』の壊滅を目的に動いていた。それは他の陣営にとっても周知の事実だろう。

 つまり前科がある。今回も何を起こすか分からない危険因子。お行儀よく決められたルールに従い勝敗をつけるイベントに乗るつもりが、あるのかないのか不明な存在。

 だから他の陣営は手を出さなかった。それでもⒿは俺宛てにベルを送り付けた。

 これが決定的な差。四つの陣営はそんな危険を冒す必要もなく戦力を充足させることが出来た。コイツにはそれが出来なかった。

 余裕が無かったとしか思えない。

「だが勝つ、それでも勝つ。お前が『カンパニー』を潰すと豪語した唯一の勢力だと言うのなら、俺はお前に加担して必ず勝たせてやる」

 現社長では駄目だ。アレは『カンパニー』をより良い形で再建させる魂胆らしいが不可能だ。

 雑草だったらまだ良かった。あの組織は毒草そのものだ。それも根まで枯らさねば何度でも生え変わる悪質な毒草。

「…できるの?あなたに」

 挑戦的な視線を向けるフーダニットに、あえて同じ性質の笑みを返してやる。

「俺じゃねえ、俺達だ。俺達なら出来る、俺達ならやれる」

 幸だけを含めたものじゃない。この我儘姫に同調し召喚に応じた者全てを指して言う。

「自分の人徳の無さを信じろよ。ここまで酷い陣営の大将の側にそれでも付こうってんなら相当なお人好しか、自信家か、『カンパニー』大嫌いかのどれかくらいだろ」

 近くで今なお槍を構えていた兵士の一人に頼んで一枚の紙きれを見せてもらう。此度の『味方』が書かれた代理者リストだったんだが…、

「解っちゃいたが想像以上に少ないな!」

 これ一人でどれだけ倒せば勝ちに持っていけるんだ?

 非常に絶望的だが、目を通して見れば中々面白そうな面子が揃っていた。

「黒騎士…?」

 前もいた騎士かな。見れば俺の独り言にぴくりと反応を示すフーダニット。頼りにしてる騎士様はこの男(と一派?)で間違いなさそうだ。

(あの死体娘は、いないか。気まぐれで生きてるしんでるようなヤツだったし仕方ないな)

 いてくれたらくれたで大きな戦力にはなったはずだが。

 他にも名前は見たことが無いが、心当たりのある単語や詳細がリスト上にいくつか散見された。あのもふもふ獣人のお仲間来てんじゃねぇのかこれ。

(アマゾネス…覆面ヒーロー。デュエ…リスト?)

 なんだか見れば見るほどイメージが不明確になっていく。デュエリストってなんだよ。

「うーん…もういいや。開戦は正午なんだろ?それまでは俺らも好きにさせてもらうぞ」

 とりあえずどっか安全な場所を見つけて早い段階で天幕を張っておきたい。

「あ」

 何かを思い出したフーダニットの声に何か嫌な予感を覚えつつも振り返ると、

「どうでもいいと思ってたから、代理者達の初期ポジションはランダムで飛ぶように設定してたわ」

「なん!?」

「っ!」

 いきなり身体が奇妙な浮遊感に包まれる。転移の予兆だ。

 全力で〝干渉〟を展開しこれに抵抗。僅かな時間稼ぎにしかならないが幸を抱き寄せ恨み事の一つは言わせてもらう。

「この小娘ぇ!余計なことばっかしやがる!」

「関係ないでしょ。こんな程度であなた達は負けるの?」

「……」

 発破を掛けている。小生意気にも。

 なら、乗ってやる他あるまい。

「勝つから見てろ。馬鹿に付き合って完璧不利な状況から!劣勢覆して大逆転するⒿ陣営の勇士達をな!」

 それだけ言ってやるので限界。

 再度の転移で、今度こそ俺達は王国を戦地とした何処かへと飛ばされる。

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