日向夕陽(社長戦争版)


「時に夕陽、そろそろ五行は覚えたかい?」

「あれって覚えるとかそういう問題の話じゃないような気が…?」

 あまりにも自然な流れで訊いて来るものだから思わずこっちが悪いような気になってくるが、はっきり言って五大属性の行使なんてものは無理だと思ってる。

 だが日和さんは反抗期の子供を見るようなやや困った顔を浮かべて、

「それはいけないね。手札は多いに越したことはないのだから。こと退魔師にとって切れる札の数は、それだけ対処できる事態の規模に直結する。火とか水とかは出せて損ないしね、応用も効くし良いこと尽くめさ」

 言って両手にそれぞれ火球と水球を発生させて見せる。いやだからどうやってんのさそれ。

「閃奈さんも出来ますけど、あれって妖精種の持つ固有能力なんですよね?」

「んむ、その通り。妖精は古来より自然と共に生きてきた種族だ。故に木々花々と親密な関係にあり、それすなわち万物万象に満ちる五大属性(西洋においては四大)たる精霊種からの支援を積極的に受け取れるということ」

「人間の日和さんはどうして?」

「私は退魔の術法として無理矢理精霊達を従わせて現象を引き起こしている。隷属使役法って言ってね、妖精とは五行を繋ぐプロセスが違うのさ。かなり強引な手順を踏むから退魔師は基本的に精霊種から疎まれてる」

 だけど、と続けて日和さんは俺の隣にくっつく幸を視線で指し示す。

「その子は古参過ぎるが為に様々な伝承と情報を集積されている。本来の妖怪種から後付けで二つ……幸は概念種と妖精種の性質も内包している。〝憑依〟はそもそも概念種の固有能力だしね」

「?」

 話に自分の名が出たからか、幸は俺を見上げながら両手を開いたり握ったりして、それからまたよく分からなそうに小首を傾げた。

 どうやら日和さんのように五行を使ってみようとしたらしい。

「駄目っぽいすけど」

「認識と知覚が足りないからだね。それは君が補えばいい。〝憑依〟によって幸から属性掌握の力を、そして君自身がそれらを正しく感じ取ることによって一心同体の属性掌握は成る、…はず」

「はず?」

「あくまで推測だからねぇ。そもそもが双方同意の上で発動される、代償を必要としない完全なる〝憑依〟なんて君達くらいの非常に稀有なパターンなんだ。だから前例が無く、手探りで扱い方を模索していく他ない」

 確かに、〝憑依〟といえば通常は概念種側がほぼ強制的に人間に取り憑いて寿命を貪り喰らう為の手段だ。その過程で人外の力が流入して暴走することはあっても、それを自身の意識下で自在に操る者は他に見たことがなかった。

「まだ少し時間がある。五行の力を少しでも扱えるように私が見てあげる。刀も持っていきなさい。それとコレもだ」

 ぽいとテーブルに置かれていた朱色の鈴を投げ渡してくるのを受け取った。

「…、ですか」

「幸が許可されているのなら、ヤツの使役も使い魔の類として了承されるはずだ。戦力にはまったくならないが、囮くらいの働きはするだろう。それと篠」

「ここに」

 何も無かった空間から突然姿を現した忍者のような鬼の少女。毎回びっくりするからやめてほしいんだが…。

「夕陽と交わした契約の効力も利用する。主従の経路を辿り遠隔から彼を補助しなさい。出来るね?」

「…おそらく。ですがそう何度も行えるかは怪しいです。精度も同じく」

「構わない、君の神通力は多少質が落ちても充分通用する」

 静かに首肯し、しかし彼女は最後に俺の前へ片膝をついた。日和さんも促すように俺へ微笑みを向ける。

 最終的な認可はおれがやれ、ということか。

 っていうか。

「もう俺が行くのは確定なわけですね。……今回も長丁場になりそうだ。篠、前回は無理を言うようで頼めなかったが、いけるか?無論、やれる範囲でいい」

「御意に。もとよりこの身命は貴方へ捧げたもの。主様、お嬢様共々にご自愛専一にてお頼み申し上げます。武運長久を」

「任せろ。幸運の女神は俺と共にある、運気は常にこっちのモンだ」

 紅葉からは事前に拒魔こまの符、破魔の符、そして感知の札を貰っていた。準備としてはこれまでになく万端と言える。

 ただし依然として以前と変わらない点もある。

「他世界の技術や異能が寄り集まってくるくだんの地。何故だか霊障や怪異といった存在の少ない現状から見て、君のステータスは常時極めて不利なものになる。それは分かっているね」

 最終確認を取るように、日和さんが俺に正対して問う。

 とっくのとうに承知済みだ。

「関係ないし、問題ありません。『J』の陣営とやらで今度こそ連中を潰す」

「んむ、その意気だ。私が参戦出来るかはまあ怪しいが、ルールの改正に期待しておくといい」


 出来ればこれで三度目の正直といきたいところ。

 連中の駒として弄ばれるのはいい加減うんざりだ。そろそろ盤面を叩き割ってでも決着をつけてしまいたい。

 今より十数時間の後、再三に渡る異世界転移を開始する。






   日向 夕陽

   《人物詳細》

 『カンパニー』のしぶとさに不愉快を隠し切れぬままに参戦。最早自分の危険がどうこうよりも幸のことの方が心配になってきてすらいる。

 重火器の持ち込みも日和に提案されたが、これをやんわりと却下。いきなり使い慣れていない武器の実戦使用はリスクを感じたのもあるが、第一に直接的に人命を傷つけ奪い取れる凶悪な火器を持ちたくなかったし、幸の見ている前で使いたくもなかったのが理由。

 オペレーターに日向日和、篠をレギュラーとして配置。状況と時間によっては紅葉、閃奈、蓮夜が見に来る。

 ベルは防水でもある為、議論の結果咥内(舌の内側)に押し込むことによってまず破壊は不可能な措置を取った。




   《能力・装備》


 ・〝倍加〟

 身体能力や五感を強化することが可能な異能力。夕陽はこれをメインとした接近戦を得手とする。


 ・〝干渉〟

 見えないもの、聞こえないもの、触れられないものを知覚接触可能にする異能。これによって相手と同じ次元に昇華、あるいは同じ土俵に引き摺り降ろすことが出来る。


 ・〝完全憑依〟

 通常の〝憑依〟とは違い、寿命や供物などの代償を必要とせず、また相互理解を得た末の『友好的な〝憑依〟』という極めて稀有な例によって便宜上これを完全なる憑依と記す。

 〝完全憑依〟によるところの利点はより引き上げやすくなった人外の性能と、憑依契約対象たる幸の能力を十全以上に発揮できるという点。


 ・〝幸運〟

 本来の完全なる妖怪種の座敷童子であれば〝幸福〟という異能のもとで何もせずとも一生を不自由なく暮らせる異能だったのが、後年によって他の性質が混ざった結果劣化した能力。

 主には咄嗟の判断における優位権獲得、被弾判定の軟化、致命傷の回避等があるが状況によって大きくブレが生じる。


 ・〝鬼の神通力・隠形術〟

 藤原千方の四鬼、その一角隠形鬼たる篠を契約従者として迎え入れた主としての使用権限。ただし遠隔に加え間接的な使用によってその性能は大きく低減する。

 負荷を鑑みた上での使用は五度を上限とし、隠形術による隠蔽は発動後八秒が限度。


 ・〝五大属性掌握〟

 幸の存在構成が1/3に分割された内の妖精種の性質を、〝憑依〟の上から夕陽が操作する能力。

 まだ拙く大きな力に束ねることは不可能だが、ひとまず行使だけは出来るようになった。


 ・漆黒の木刀/神刀/神代三剣・布都御魂ふつのみたま

 人ならざるものに対する特効を秘めた神代の一振り。解放段階によって相手に与えるダメージ、また人ならざるものを内包する夕陽自身が受けるダメージが増加していく。単純な切れ味だけでも並の名刀を上回る。


 ・狛犬の符(札)

 神社にて霊力を蓄え続けている二対一対の片割れ、紅葉の製作した術符。

 拒魔の符にて霊的攻性の遮断を行う壁を展開する。これは魔力、エーテル、その他科学等の『常人の識』の外側にあるエネルギー全般に対して有効である。これを三枚。

 破魔の符にて上記と同対象への攻撃を行う。籠められた霊力に物理攻性も含まれる為、ある程度であれば実弾兵器や機兵に対しても有効打を与えられる。これを三枚。

 感知の札は半径約二百メートル圏内に存在する敵性存在の接近度合いに応じて真白の札が徐々に黒く染まっていく。


 ・朱色の鈴

 とある都市伝説が親交の折に残していった召喚媒体。たいして役には立たない。


 ・日向日和特製符

 ???


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る