VS『カンパニー』 2
形代、というものがある。
それは古来より人の身を侵す厄や害を移し、変わり身として受け負ってもらう代行の術。地方によってはこれを海や川に流し無病息災を願う『形代流し』を行うものだ。
これを陰陽道の術式として改良・改竄させたものこそが日向日和が夕陽へ与えた符の一つ。
所持者への肉体及び精神への攻性を肩代わりする〝
曰く『一つ作るのも凄い労力掛かるスーパーレアだから大事に使ってね』とは当の日和本人の言である。
一度死んだ。
(チィッなんつう無様!日和さん申し訳ない!)
ポケットに入れておいた人型の紙札が散り散りになって紙吹雪と舞うのを尻目に、俺は酷い罪悪感と共に幸と再同化する。
異形に全身をくまなく破壊され肉塊と化するしかなかった俺を救ってくれた形代。本当なら最終盤まで全て残しておきたかったのだが……。
「へえ、なにそれー?」
「ッ!」
不細工な鳴き声に耳を痛ませる中で、明確な意志を持った人語が聞こえた。
身を伏せ、まずその方向から飛来した何かを回避する。背後の怪物達が上下に分断された。
飛び散る冷水が肌に当たる。
「もしやだけど、アンタも
(水使い……それも考える頭のあるヤツかよ)
新たに召喚された内の一体、言語を解す相手が物珍しそうに小首を傾げて擦れたワンピースの裾をはためかせた。
…………ん?
「…あれお前、確か参加者の」
「先手必殺ブッコロ死ねオラァ!!」
「ちょ待て!?」
一切の躊躇なく水の刃を飛ばしてきた見覚えのある女をまさか攻撃できるはずもなく。
「テメェ召喚された異世界生物じゃねぇだろふざけんなイカレゾンビ!!」
「腐ってるけどイカれてまっせーん!あとゾンビじゃなくてゾン子ちゃんって呼べこのクソガキぃ!」
マジでヤバイのが来た。参加者の中で一番厄介そうな相手。〝憑依〟と似た気配を放つ生きた死人。
他のヤツらと同じく空間の揺らぎから現れたように見えたが、はて俺の見間違えだったのか。
「てゆーか何さ、もしかしてアンタこのゾン子ちゃん様を知ってる感じ?」
「何度か顔会わせてるだろ脳味噌腐って記憶まで欠如してんのか?まぁ直接話したことはなかったけどさ」
会話の最中にも敵を迎撃していく。意図せず互いに互いを補佐する形で水刃と刀身が交差し合っていた。
「ふむん?」
しばらく黙って水流操作を続けていた女が、ふと得心のいったとばかりにぽむと手を打ちついでに桜の枝が刺さった人型の頭部を踵落としで潰した。
「あーはいはいなるほどね。今のアタシってばそういう立ち位置なわけか!ハッハー道理で記憶が中途半端な感じだと思ったってばよ!」
けたけたと愉快げに笑うゾン子とやらが、隙を晒して手足を食い千切られていた。すぐさまくっ付けて再生させていた辺り、やはりコイツも死とは縁遠い存在なのだろうか。
「結局なんなんだよお前は!敵なら諸共ぶっ飛ばすけどそうじゃないなら…」
「いんや」
頭上高く片手を掲げ、その手に集うは多種の液体。
青緑黒と死んだ異形達から流れ出る様々な血液を初め、粘質な唾液や体液までもをかき集め、巨大な渦を形作る。
その渦が弾けるように瞬間で広がり拡大、超高水圧の攻勢が四周を囲っていた怪物共を一掃した。
(……マジかよ)
腐っても不死は強者、という証明か。
「アンタがあの貧弱不死身マンに敵対してるってんなら、今のアタシは敵じゃなさそうよ?……っていうか、さぁ」
すぅ。数秒掛けて吸い込んだ息を存分に溜めて、
「ーーー人の
ビル全体がビリビリと震えるほどに、ゾン子の叫びは怒りと殺意に満ちていた。
「クローン、って…。じゃあ、お前は」
「きたわー来た、ひっさびさにトサカに来ちゃいました!!」
俺のことも無視して、どこか愉しそうに激昂するゾン子が一歩踏み込む。
「ねぇアンタ名前聞いてもだいじょーぶ?」
「いや話を……あぁいいやもう。夕陽だよ、日向夕陽」
「おっけ!そんじゃ夕陽、アレ、アタシが貰っちゃってもよろしくて!?」
ずびしと前社長を指して、ゾン子が声高らかに叫ぶ。
「お前、アレ不死身だぞ?勝てるのか?」
「不死身だって殺し続ければいつか剥がれる。アタシが言うのだから間違いねー!」
こっちとしては倒せれば文句は無いし、この女も頭はパーだか戦力としては申し分ない、ってか多分不死もあって俺より強い。
適材適所か。
「わかった。じゃあ取り巻きは俺がなんとかしとくから、お前はお前でアレどうにかしてくれ」
「かしこま!……ってかさ、ずっと思ってたんだけど夕陽、もしかして幼女ちゃん取り込んでない?」
「なんのことかわからんし忙しいからもう行くぞ」
コイツに怯える幸のことは明かせない。色々と危なそうだから。
ーーー異世界死人、謀反。
ーーー限りなくオリジナルに近い性能と戦闘実験間までの記憶を再生復元、保持している。
ーーーしかし生命のストックまではオリジナルに届かず。その数は『カンパニー』の技術力をもってしても三百が限度だった。
「不死とはいえ、アタシとは事情が違ぇ。アンタ、元々は死から逃げた死人だろ」
この女に人の常識は通用しない。死人は死を恐れない。
たとえその上限が『無数』から『三百』に格落ちしていたとしても。
「いやいやそれなら結構結構。おかげでアタシもズバッとキメられるしね♪そんじゃあ行きますか!死体をぉーーー」
死人は自らの在り方を気にしない。それが近い未来に朽ちるべき
「ーーー検分しちゃうよん!」
その女は、良くも悪くも『
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