VS『カンパニー』 1
まず初めに失策を悔いた。
相手の性質はある程度理解していたはずなのに。
(狭すぎるか…!)
ビル、いや屋内自体があまりよくなかった。何らかの精神疾患を抱えているようにも思える前社長は場所の狭さもお構いなしに異世界生物を召喚し続ける。
壁面と天井を跳ね回るように動き回り敵を殺していっても、ヤツが新たな召喚を数体分行う方が早い。
とは言えど、
「ヌゥ、うォアアあッ!!」
異形の合間を潜り抜け、最奥で吼える前社長を狙う機会はいくらかあった。
否、まだあると言い換えた方が正しいか。異形の数、そして密度がこれ以上増せばそれも難しくなる。
昆虫を模した不気味な怪物の羽を千切り蹴り飛ばしてビルの外へと叩き出す。あわよくば地上のサイボーグ達と殺しあってくれれば幸いだ。
かつての実験に付き合わされた際に投入されていた異世界生物は100と少し。
前回は俺が三体と他の参加者が何体かずつ倒した。残りはそう多くはないはず。
ひしめき合う異形とその余波・流れ弾によって外に面したガラス張りの一面が粉砕し強風が雪崩れ込む。
律儀に相手にはしていられない。一番手っ取り早い方法として先の一匹と同様突き落とすこと。階下の混乱はより増すだろうが構っていられない。どうせこの期に及んでまだ避難の済んでいない連中なんぞ関係者しかあり得ないのだから。
(見えた)
瞬間で捉えた道筋、異形犇めく狭域の中から人外レベルと成った感覚が導くコースに従い突貫した。
「……ぐぅァあ!?」
回転しながら右腕が飛ぶ。すれ違い様に斬撃を三度、頸動脈と腕と脇腹へ。
明らかな致命傷、加えて致死量の出血。
だが
悲壮感漂わせる音楽がどこからともなく鳴り始めると、途端に蘇生が開始された。
これが運命。あるいは呪い、捩じ曲げられた因果の弊害。
確かに殺害は極めて困難だと判る。
だが潰す。どんな方法でもいい、コイツを無力化さえ出来れば。
血の痕を残して起き上がった前社長の周囲が再び歪む。さらに警戒を強めたらしい、不死の癖にやたら小心者だ。
さらにスーツの懐から拳銃を引っ張り出して社長自らも攻撃に混じり始める。
「なんだよ……結構当たんじゃねぇか…」
(一発も当たってねぇよこの節穴!)
一体どこに照準を付けているというのか、あの銃弾はまるでこちらへ飛んで来ない。
やはり社長自体の脅威は大したことない。問題は握っている権限そのものだ。
(あの真っ黒騎士だか巨大ロボだかにハッキング能力とかあればいいのに……)
明らかに俺の世界よりもその手の技術は高そうだし、案外頼み込んだらいけそうな気がしなくもない。
今から引き返すか?
「ハ……どう考えても今更だよなぁ」
それに、何よりも。
〝……〟
(冗談だよ。当たり前だろ?)
もの悲しそうな気配を漂わせる同体の幸へ、安心させるような声色を意識して告げる。
(この俺が、お前の力を借りながらにして余所に浮気するものかよ)
心身文字通り一心にして同体と化している今、互いに嘘偽りは通用しない。いやこの状態でなくとも嘘を吐くことは無いけども。
ともあれ本心は彼女に通じている。それは幸もとっくに分かっていることのはずだが、心ある者同士とはかくも厄介なものである。
想いを言葉に変換して聞かせて欲しいという気持ちは、俺にもよく理解できるから。
でもまぁ。
〝……!〟
この子の場合、言葉すら不要だ。
ガガギギンッ‼
羽と爪の斬撃を弾き、火炎と氷礫を刀で薙ぎ払う。
異世界のバリエーションは多彩だ。その全てを攻略するのは流石に至難。
特に厄介なのが呪霊の類。
大小様々なモンスターの中でもとりわけ小さな藁人形に予感を覚えた。
アレは、不味い。
(幸……幸!)
藁が数本人形から伸び鋭利な切っ先を向けて来た。そのまま、弾丸に匹敵する速度で迫る。
四周を囲まれ捌き切れない。先読みすら可能にした五感が不可避を確信してしまう。
〝…っ〟
(いい、やめろ!!多少出力を落とすことになってもいいから痛覚共有と魂魄融合をカット!あの攻撃だけはお前は喰らうな!!)
こっちの神刀と同様に心霊へ直接干渉し得る存在。
中身は分からないが、アレは異世界の〝憑依〟だ。
攻撃は器たる俺ではなく幸へ向く。
半ば強引に幸の融合を引き剥がし、硬化した藁の刺突を腕で受ける。
貫通した。
(くっ……手さえ、届けばっ…握り潰してやれんのに…!)
浮遊する藁人形は異世界特有の不思議エネルギーで貫通した腕ごと俺の体を持ち上げた。
そこへ殺到する顎、牙、それぞれが誇る武器の数々。
いつの間にかビルの最上階は壁を全てぶち抜かれて丸ごと人外魔境の伏魔殿と成り果てていた。
〝ーーーっ!!〟
異形の海に噛み砕かれ、最後に握り込んだ拳から藁の欠片が溢れ出た。
異世界生物多数討伐。
未だ前社長には届かず。
残りの『反撃者』……?名。
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