VS『???』


 赤いフルフェイスヘルメットのサイボーグを木刀で払い飛ばし、もう一体のサイボーグの方へとぶつける。赤サイボーグのスペシャルか、装甲を覆っていた強酸だか猛毒だかにやられて衝突した骸骨面のサイボーグの半壊した胴体が内側から熔解した。

(…次!)

 半死のサイボーグ二体を盾にグレネードランチャーの砲撃を受け止め即座に後退。交戦開始時からアレの凶悪さは目の当たりにさせてもらった。まともに受けるどころか掠りでもすれば人体に腐食を侵す砲弾には細心の注意を払っている。

 0番に足を踏み入れてから先、既に十五分を無意味な戦いに費やされている。デスマッチ方式は一体どこへいったのか、最早イベントだのルールだのという設定すら遵守するつもりが無いのがありありと見て取れる。

 一度交戦したアルファベットシリーズはもう出て来ないものと考えていたのだが、ここに来てその認識も改めなければならない。十五分の間にゴリラ型を八体、卵型を五体屠っている。遠距離から重機関銃を掃射してくるあの角張ったヤツも三体ほど沈めたがまだ数体に囲まれていた。

 それに加えて骸骨面と赤ヘルメットのサイボーグの出現。

 何より厄介なのがこの悪趣味極まりない全身金ぴかサイボーグ。現状これ一体のみしか視認していないが、他がこれだけ押し寄せているところからしてお察しだろう。まだ増える。

 まだ六種―――俺の選んだ英単語から該当するシリーズしか現れていないのは、連中なりの言い訳のつもりかもしれない。…数で押してきている時点でアルファベットシリーズの面子はぺしゃんこ同然に思えるが。

(全力でやれば片付けられないこともないが、の前にバテるのは避けたい。それに…)

 銃弾砲弾を躱し森林公園の地形地物を利用して駆け回りながら、空を見上げる。

 気色の悪い寒色で覆われた空、いや0番エリア全域か。〝干渉〟が告げる感覚がアレを『反撃者』を始末する為の策だと認めさせた。

 もう俺を含む参加者達は総じて籠の中の鳥というわけだ。

(二、三人くらいは来てるな。サイボーグだのゾンビだの巨大ロボだので気配を掴みづらくなってはいるが)

 意図せずして、ベイエリア・カンパニー両勢力と『反撃者』との総力戦という構図となりつつある。いい流れだ。

 ならいつまでも雁首揃えてサイボーグ連中と遊んでいる理由は無い。敵ではないが味方かもわからない彼らに任せ、俺は俺の目的を果たさせてもらう。

 ―――術符、起動。






 ―――『反撃者』の内、一名をロスト。

 ―――あらゆる探知、感知の反応不可。

 ―――未知の技術、あるいは理論に基づく隠蔽の術と思われる。

 ―――解析、解析、解sき

 ―――該TOう者の所属界域全すキャン、未ちを既知へ。

 ―――ふメいを化意明し対象ヲh捉。

 

 ―――不、可―――







「時間切れか」

 黒煙を上げて炎上するビルの中で、塵と化した一枚の札を握り潰して床にばらまく。

 俺の従者、隠形鬼おんぎょうきしのが扱う隠れ身の術は誰にも明かされたことが無い。それは現状最強の認識が揺らいだことのない日和さんですら本気の篠を見つけることは不可能だと断言させるほどに強力だった。

 そしてその隠蔽の術を、極限定的にだが使用可能としたのがこの隠形符。日和さんお手製の貴重な一枚。この地を来る直前に餞別として受け取ったものだ。

 分かってはいたが、肉眼での目視はもとより機械の類をもってしても見つけることは叶わなかったらしい。おかげでサイボーグの包囲網を抜け、ビルへの侵入と破壊を容易に成し遂げることが出来た。

「さて。上に昇りながら重要な施設やら機材やらを叩き壊して来たわけだが」

 粉砕されたガラスをジャリジャリと踏みながら、その背中を睨め付ける。

「テメエ。

「…………ハッ」

 振り返った長身の男。浅黒い肌と白みがかった銀髪からして、俺と同じ極東の人間には見えなかった。

「随分と、俺の団員が世話になったみてぇだな」

「あのサイボーグ共のことか?……団員…?」

「まだ終わりじゃない。俺が…俺達が積み上げてきたもんは全部、無駄じゃなかった」

「…なんの話だ?」

 おかしな前髪をした男は俺を見ているようで見ていない。虚ろな瞳はどこか、違う情景を映しているようで。

 外見自体は一致している。おそらくはコイツが不死と噂の前社長。

「道は、続く。俺達が立ち止まんねえ限り……なあ、―――」

 誰かの名を呼んだ。それはたった二文字に込められた親愛の情。在りし日の過去を視ている妄執の亡霊。

(不死でもいい、勝つ必要はない)

 目的は無力化。手足を捥いで鎮圧すればそれで終わりだ。

 伸びていく髪を後ろで束ねる。混合、融合していく幸の綺麗な黒髪が器に反映され、〝憑依〟の深度を底まで引き上げる。

 この為に温存していたいくつかの術符。神刀の解放。異能の力。全て使ってまずコイツを黙らせる。

 異界電力社長は後回しだ。

 事前情報の通りなら、前社長とやらは単身でも厄介。

 権限の持ち逃げによって乱用される『カンパニー』の異世界情報。違う世界に住まう凶悪な生物や独自の改造で異形と化した怪物達。

 あの戦闘実験で相手にした数々の脅威。それを掌握している。

「なあ、なあ!おっ、俺は!俺は止まんねぇからよ、だからッお前らも…!!」

 何かに怯えるように、恐れるように。後退る前社長の周囲が揺らぎ、空間に穿った穴からずるりと現れる異形達。

「最短で殺すとめる。幸ッ!」

〝っ!〟

 床を踏み砕き、刀と符をそれぞれ両手に携えて突っ込む。

 相手は人間一人じゃない。全権限を握る最悪の敵。

 『会社カンパニー』そのものを相手にしていると考えて闘わねば、負ける。

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