VS『E』
「…、…っ」
「幸よ、そのパターンはもう懲りような」
正面の敵の姿形を指差して俺の手を握る幸。大方、あのマスコットキャラクターじみた流線型の外見が童女特有の琴線に触れたのだろう。
確かに卵みたいな形で危険は少なそうだが、『前回』はこの認識であの熊猫に殺されかけたのだ。一切の油断は許されない。
さっさと0番へ向かいたい。ここで撒いてもいいが、その結果として他の犠牲が増えるのであれば、この場で時間を掛けずに始末しておくべきか。
全身体能力を四十倍で固定。ぽんと一度幸の頭に触れる。
「ちょっとそこで待機な」
「!」
二歩で側面に回り、横薙ぎに木刀を叩きつけた。
「っ…!?」
初めは水面を叩いたような感覚、さらに衝撃が押し返される。軟質のゴムをぶった手応えに僅か動揺する。
(対物理…単純な打撃は効果が薄いか)
瞬間思考し、十秒のみ展開した五十倍でそこから八撃加えて吹き飛ばす。吸収はされるが完全な無効化は無理らしい。ならば木刀の状態のみでも撃破は可能かもしれない。
『中身』を抜いてもいいのだが、出来れば控えたいのが本音だった。
今回も日和さんからの認可の下、神刀の使用権限は譲渡されている。だがあの刀はあらゆる魔を穿つ調伏の刃。対象を選別できないこの刃には〝憑依〟を扱う俺はもちろんのこと、幸へも接触のみでダメージが入る。
熊猫の慧眼はまさしく正論を突いていた。座敷童子という妖怪と一体化する〝憑依〟の使い手に、神力を帯びた武装などは本来相性が悪すぎるんだ。元々退魔師たる日和さんが扱っていた武具を貸してもらっているだけなので当然といえばそれまでだが。
(しかしこれだと時間が掛かり過ぎるか。…一撃、一太刀で決められれば…!)
木刀を反転させ、腰の位置まで落とす。
逆反りの刀、つまり本来峰に当たる部分が刃になっているこの刀は居合いが非常に難しいが、発動時間短縮の為に抜刀からの即斬りを敢行する。
さっきのゴリラと同じく特筆すべき特徴は無い…と思いたい。衝撃波と爆破を持っていたゴリラの性能を見極められなかった俺がまた何か見落としているのはほぼ確実な気がするが、現時点で速度では勝っているのだ。
何か出される前に斬り捨てるしかない。
低い姿勢から跳び出す。
―――パチン。
強化された聴覚が何かを捉えた。既に柄に利き手は添えられていた。
バチチッ。
今度ははっきり聞こえた、弾ける音。距離は詰められ、二尺八寸の間合いを確保。
バヂィッッ!!
敵が稲光を放ち、白い体が帯電した。
発電能力。
流石にそんなものを備えているとは思わなかった。もう木刀は本来の姿を幾分覗かせ、
(知るかッ!!)
そんなもん、ようは感電する前に仕留めればいいだけの話だろうが。
腕が軋む。五十倍に上昇した強化に抜刀の速度が跳ね上がった。
瞬間。
空振った鋭爪は頬を裂き、
そして白光を断つ白刃。
両断されたサイボーグが機能停止したのを、倒れ伏した狭い視界で確認する。
「ぐ…ぅ」
身体が上手く動かない。電速を超えた動きなど人間の範疇で出来るはずが無かった。痺れる肉体を緩慢に動かし、感電し切るより早く腕を振り抜けたことに幸運を感じていた。
〝幸運〟。
「……」
「お前のおかげか、幸…」
遠隔による能力補正。座敷童子の加護により俺の勝利は後押しされていた。
「ありがとな。…あ、まだ俺に触らない方がいい」
ゆっくりと起き上がり、震える手で抜刀から戻せなかった刃を漆黒の木鞘に納める。やはり短時間であっても掌は鑢で削られたようにジンジンと痛んだ。
「…?」
「ん、大丈夫。大したことな」
ジャコン!!
両手を合わせて擦り寄ってきた幸に応じ切る前に、全身を襲った悪寒と脳に鳴り響く警鐘に引き摺られる形で幸を抱えてその場を離脱。直後には倒れていた場所の地面が消し飛んでいた。
「―――ク、ソが」
鳴り渡る銃声は留まることを知らない。巨大な機関銃を片手で扱う角張ったサイボーグがそこに立っていた。
なんとしても中央の重要区画へは向かわせないという、無機質な意志を感じ取る。
「上等だポンコツ共。丁寧にスクラップにしてやるから、掛かって来い」
「…!」
幸の体がふわりと浮き上がり、疾走する俺と同化する。
〝憑依〟発動、もう出し惜しみはしていられない。
―――『E』のスコア、ゼロ。
―――0番エリアの防衛に回していたシリーズだった為、これらも現段階で死傷者を出していなかった。現在日向夕陽と交戦している『M』も同じく。
―――残りの当該シリーズも回しているが、これらで0番への侵攻を食い止められるかは疑わしい。
―――大型級の投入も視野に入れる必要あり。
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