35 1000ヒットオーバーのお祝い
朧の旅行と前後して、この様な催しがあった。
幽冥牢のサイトの1000ヒットオーバー祝いである。
「それでは皆を呼んでいますのでこちらで1000ヒット御礼の挨拶をしたいと思います。恐らくそのまま飲み会になってしまうかと。いいのかしら。
では皆、どうぞ」
近頃、この後の彼らのあれこれについて考えると疲弊度が途方もなく双肩にのしかかるので、ルビノワは考えるのをやめた。
「皆さんこの度はありがとうございました。幽冥牢です。
今後ともごひいきにお願いしますよ、旦那」
閲覧者の皆様にご贔屓頂く為には、時として揉み手も辞さなかった幽冥牢。
「揉み手はしなくてもいいのでは……」
「う!?い、いかん。つい癖で……」
癖だと暴露してしまった幽冥牢。
「あ、主殿……」
ルビノワはそんな彼の精神性を鑑みて、そっと眼鏡を外すと、ハンカチで涙を拭った。
「皆さんこちらではご無沙汰ですねえ。こんばんは!朧ですよう☆
『過去の色々……』4月分コーナー担当になった事でまた少し、『ルビノワさんの心を掴んじゃえ計画』達成に近付けて、夢一杯の朧委員長ですよう☆」
「そんなに愛されて私も幸せです。わーい」
棒読みさ加減も鮮やかで絵になってしまうルビノワ。
「自分の気持ちをあえて棒読みにする棒読みプレイですかあ? やっぱりカッコイイですね、ルビノワさん☆」
「私の行動はあなたのセリフによって裏目裏目に出るばかりだわ」
改めて眼鏡を外し、ハンカチで涙を拭うルビノワ。
「私がいつでも支えてあげますから、妙な風評被害に負けてはダメですよう☆」
「ううっ、天然め……」
「鬼岳沙衛門、るいと共にここに見参。
朧殿、たまには離れてみてはどうだ? すると彼女の良さが身に沁みて良く分かるのではないだろうか、と思われるが」
「うーん、そうですねえ。
……私のいない間、夜一人で寝られますかあ? ルビノワさん」
「ご心配には及びません。ちびっこではあるまいしちゃんと寝られます。朝までグッスリと」
「夜中にちゃんと一人でトイレに行けますかあ?」
「行けないみたいに言うな!」
「なら私も一寸旅に出てみようかしらあ。実は用事があるんです。お墓参りですけども」
「あっ、そうか。忘れていたけど友達のお墓参りがもうすぐね」
「こんばんは、るいです。それなら皆で出掛けませんか?」
「ああ、いいかもな」
「皆で、か」
「それでは、今の私と朧の話は無意味ですか?」
「ルビノワさんが決めて、それで行く人がほぼ決まるでしょう。
はい、ルビノワさん、大きく深呼吸を。30数えてゆっくり吸う」
「? すー」
30秒経過。
「はい、30秒息を止める」
「!? う……」
30秒経過。
「はい30数えてゆっくり吐く」
「? ふー」
30秒経過。
「充分に氣が練れた所で頭がスッキリしたかと思うので、じゃあ決めましょう。
ルビノワさんは同行しますか?」
「う、うーん……」
氣を練る必要性が全く見えないながらも黙考するルビノワ。
「俺とるいは海外に行くのは始めてなので是非」
「見聞を広めて来たいですからね」
「う、うーん……留守番はつまらないなあ……」
「美味しいものを色々教えてあげますね、沙衛門さん、るい姉さん」
「俺は今、つくづく
『この屋敷に来て良かった』
と思っており申す」
「沙衛門様が敬語をお使いになるのは情けない話ですが滅多にない事なんです」
「彼らしいと思います。色々な意味で」
「お褒め頂きありがとうございます。でも私も同じ気持ちですよ。朧ちゃん、ありがとうね」
「う、うーん……美味しいものかあ……」
「俺も海外は始めてなんだー。わくわくするなー。
飛行機って大気圏突破する時、すごいGがかかるってホント?」
「ん?」
「おや、そうなのか? 俺は心配ないがるいはどうだ?」
「沙衛門様がお出でになられるなら私も付いて行きます。
『もう離さない』
っていつもお言いになるのにいけずですね」
「ああ、いや、済まぬ。お前の事が心配になってな。場合によってはやめようかと思ったのだ。
謝る」
「もう、沙衛門様ったらそう仰って下さればよろしいのに。ありがとうございます。
るいは優しい沙衛門様にお仕え出来て幸せですよ」
「そうか、ありがとう」
「ラブラブですねえ☆」
「朧ちゃん、Gは?」
何故かG○ckt声で問う幽冥牢。
「ご主人様のおとぼけさん☆ そもそも旅客機で大気圏突破したら皆焼いたさんまみたいになるか、お空のチリになっちゃいますよう。もうっ、コイツ~」
「それもそうかー。てへっ、ごめーん」
幽冥牢の頬をつつく朧。照れくさそうに頭をかく幽冥牢。楽しげに笑う忍び二人。
まあ、幽冥牢は本気で聞いていたのだが。
「……主殿は飛行機も海外も初めてなのですか?」
「飛行機は高校の修学旅行で京都、奈良方面に行った時、乗れば早く目的地に着いたんだけど、聞いた所では理事長が
『生徒が減ったら金を毟り取れなくなるじゃねえかよ……!』
という考えをお持ちだったとおかで乗り損ねました。おかげで朝から夕方までほぼ半日新幹線っすよ。
くたばれ守銭奴理事長」
「な、何と……。では私は主殿のケア係という事で同行します」
「あ、なるほど。乗り物酔いするかなあ、やはり」
「飛行機は発着後ホンの一秒だけ五万Gかかりますから、その時私が、全力で主殿をカバーします」
「やあ、それは知らなんだ。そうか、快適なだけじゃないんですね。
普通なら潰れる様な気がするが。優しくしてね、ルビノワさん」
「ええ、任せて下さい」
ルビノワが穏やかに微笑した。
そこから少し離れた所で他の三人が小声で話していた。
「ルビノワさん、ご主人様が何も知らないのをいい事にある事ない事言ってますよう?」
「素直に
『主殿と離れるのいやーん』
と言いながら縋り付けばいいのものを。不器用なおなごだ。彼女らしいが」
「いっその事、今からお二人を縄で括っておいては如何でしょう? 点呼の時、楽でいいですよ?」
「私とルビノワさんを向かい合わせで縛って下さいませんか?」
「では主殿はどちらかの背中に括りましょうか」
「いい考えだが主殿とルビノワ殿がそういう状況で何もしないほど子供だとは思えぬ。
バラで放置しておくしかないだろう。何、俺達でさぽーとすれば良い。
ではあれをやろう」
「ええっ、あれですかあ?」
「何だか沙衛門様ったら、あの番組を見てから気に入ってしまった様なんです」
「ではいいかな?肩を組んで。
木更○ぅー!!キャッツ!!」
「にゃー!!」
「キャッツ!!」
「にゃー!!」
「キャッツ!!」
「にゃー、にゃあああー!!」
いい汗をかいたとばかりに首に濡れタオル、手にはスポーツドリンクの容器という佇まいで、沙衛門がコメントする。
「ふう。よし、これでいい。
あの鉄の棺桶もちゃんと、戯れに空を飛ぶ事だろう」
「後でうがいしないとのどが~」
すかさず何かを差し出するい。
「はい、喉アメ」
「ありがとうございますう」
やけに包装のビニールが光彩拡散しているそれをはがし、頂戴する朧だった。ちなみにこの光彩拡散だが、特に意味はない。
ルビノワ嬢が幽冥牢と接近して来た。無理もない。
「木更○キャッツアイの掛け声が聞こえた気がしますが、何の騒ぎですか?」
「いや、旅が無事に楽しく進行するように祈願していたのだ。ルビノワ殿も楽しい旅にしたいだろう?」
ひょうひょうとその場凌ぎのホラを吹いてはばからない沙衛門。しかしこれも本当の忍びの姿なのだ。
これくらい出来なければ忍びとして生きては行けぬ。
「み、皆……」
思わずホロリとしてしまい、ルビノワは三度涙した。
「あらあら。今日のルビノワさんは涙もろいですねえ☆
はい、ハンカチ」
「ありがと。ごめんなさいね。
では皆で楽しく旅行しましょう」
「更新は今まで通りなのでご心配なく」
「ではごきげんよう」
幽冥牢がサムズアップし、ルビノワが穏やかに微笑んだ。
それから思い出した様に幽冥牢が呟く。
「そう言えば飲み会にならなかったですね。場所変えて仕切り直しを」
「うれーい☆」
万歳をする彼らだった。
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