6 幽冥牢、小説の反応で凹む
ルビノワの話が始まる。
「皆さんこんばんわ。ルビノワです。
ではお知らせを。今まで
『幽冥牢のプロフィール(その2)』
としていたものを、
『お気に入り』
として独立させる事になりました。現在の元のタイトル名の場所は看板にふさわしいちゃんとしたものになっていますので、興味を持たれた方は是非覗いてみて下さい。
今回の事についてですが、何でも主殿の話によりますと、
『良く考えるまでもないが、プロフィールとして打ち出すのは少し方向性が違うと思い、今回の決断に踏み切った。情報伝達の混乱を避けたい所だが、
『ルビノワさんがお知らせするからいいかな?』
と思い、彼女に任せる事にした。
改めてこのコーナーの重要性を痛感した。感動して泣いた。
ルビノワさん、さんきゅー☆ ちゅっちゅっ☆」
だそうです。舐めてますね」
冷ややかに微笑して告げるルビノワ。
「あとで追求しておきます。場合によってはお尻叩いたり。
本日のお知らせは以上です。ルビノワがお伝えしました。
では、ごきげんよう……」
ルビノワの話が始まる。
「皆さんこんばんわ、ルビノワです。
今日は主殿こと幽冥牢さんがゲストで見えています」
(彼女が自分の事を何故か『主殿』と呼ぶ様になったのはいつからだっけか)
などと思いながら、幽冥牢は挨拶をした。
「こんばんわ。つい今しがた小説が出来上がり、少しヘロヘロな幽冥牢です。
ヘロッ」
ルビノワがフッと冷笑する。ここまではいつもの流れだ。
「ではお知らせを。
『闇の幽冥牢小説の魔』の『坩堝』第1章、『始 刺』をアップ致しました。
今回は前回よりも滅茶苦茶な気がします。特に登場人物の一人である『蔦田』の過去。それが明かされます。それにしても、ここまでとは……」
既にその小説の現行をチェックしているルビノワだったが、そのキャラクターは彼女が見てもドン引きするチャラ男だったので、言葉に詰まった様に見えた。幽冥牢もさすがに慌てて言った。
「ああ、えーとその、とことん○○なキャラにしようと思っていたので、
その何だ、ごめんよう!?」
ところが。
「さすがの私もちと絶句致しました。主殿……ステキ☆」
「ああ、やっぱ女性にはそう言われると思っていたんですよって、ええ? マジ!?
嘘だぁー!!」
「ああいうキャラを描き出してしまう事への恐怖に打ち勝つ勇気みたいなものがちゃんとあるんだな、と思って……主殿?
どうしたんですか!?」
幽冥牢が肩を震わせて涙しているではないか。慌ててハンカチを差し出すルビノワ。それをうやうやしく両手で受け取ると、まるで
『旦那が多額の借金をこしらえて来て相談口が見つからない主婦』
の様な雰囲気を漂わせて涙を拭いつつ、話を始めた。
「あ、あのさ? 正直ああいうキャラを作り出すのって俺、初めてじゃないんですよ。
でも、こういう
『ここを一旦知ってしまえば誰でも見る事が出来ます』
って所に出すのは初めてなんすよ。正直、ちょっとビビるじゃん?」
「成る程、私が追い詰めてしまったんですね」
申し訳なさそうな表情を浮かべるルビノワ。この頃はかなり態度が軟化して来ていた時期だった様に思われる。
「いえいえ。それでですね」
「あ、はい。どうぞ」
「ホント今更なんですけど、
『こういうスプラッターホラーとして始めた以上、日常生活でキャラクター達が押さえているものをぶちまけたりしないと非日常に放り込む意味がないよなあ』
と思ったんですよ。それで、ああいう嫌~なキャラも、当然必要だと思い、見てくれている人の反応にびびりつつ、奴の本性を小出しにしつつ話を展開している訳です。もし、女の人がこれを読む様な事があり、不快に思っても、これはフィクションであり、作者の人格及び生き様とは一切関係ありませんので、
『暇潰しに呪ってみる』
とかそういうのは勘弁して下さいね。そういう目に遭った事はないですが、マジでお願いします。
あー情けねーな、もう。すんません。あーあ」
ふう、と一息ついて、ハンカチを畳んで仕舞う幽冥牢。
『洗って返します』
という事らしいので、ルビノワは頷いて済ませた。それから言う。
「大丈夫ですよ。作品と作者の人間性が全く一緒だと思う程幼くはないですから。
分かりましたからもう泣かないで下さい。ね?」
幽冥牢の背中を優しく擦ってやるルビノワ。
「びびって引いたり、態度が素っ気無くなったりしないですか?」
「しませんよ、そんな事☆
それで、あのキャラはこの先どうなるんですか?」
「とりあえず、もっと酷くなります。すいません……って、あーっ!」
何時の間にか幽冥牢から軽く100m程離れており、その場所から
『とととっ☆』
という音を立てて戻って来るルビノワ。涙目で幽冥牢は睨み付けた。
「ううーっ! 嘘ついたなぁ!?さっきのセリフは嘘だったんだなぁ!?
騙したのね?」
「いえいえ、何でもないですよ?」
返答するルビノワはよそよそしい態度で、語尾が上がり調子だった。どう見ても更にドン引きしている。
「しかも何で訛るんすか?そんなぁ……酷いよう」
「そ、そんな事はありません……」
視線を泳がせるルビノワにジト目を向け続ける幽冥牢。そんな所へ朧が颯爽と登場した。
「こんにちはあ、ってああっ!ご主人様!?」
何やら
『どばーっ!』
と目の幅涙を流す幽冥牢に飛び付き、抱き締め、
『よしよし……』
と頭を撫でる朧。
「面倒なのが来ちゃったなあ……」
と、小声で呟くルビノワ。
「一体何があったんですかあ? 誰がこんな……こんな真似をっ!?
酷い!」
「えーと、とりあえず、発端はこの原稿だから読んでみて」
「ひっく、ご主人様の小説ですかあ。
どれどれ……?」
彼を抱き締めたまま、さめざめと涙を流していたが、ルビノワから原稿を受け取り、目を通し始める朧。
しばらくして、素敵な感触が感じられなくなった事に気が付き、幽冥牢は目を開いた。
「あ、あれ?
ああっ!何だあ!?」
今度は朧が100m程離れている。
(しょうがないわよねー……)
という顔で視線を伏せているルビノワ。
「ご主人様! この『蔦田』って人と、それを考え出したご主人様!
滅茶苦茶おっかないですよう!?」
「お、おう……」
「はっきり言って、
『堅気のくせに何なのこの人』
って感じですよっ!?」
「ですよねー☆
って、フィクションと現実をごっちゃにするな! ともかく、何もしないからこっち来なさいっ!!」
「凄く信憑性が薄く聞こえますよう! ご主人様っ!」
遠くで身構える朧。
「ちきしょー、そんなら、
『ご主人様』
等と呼ぶんじゃねえ!!」
愕然とした表情の朧。
(ああいう風にコロコロ変われるのはいいなぁ……)
とルビノワは思った。しかもその後の台詞がこれまた酷い。
「そ、そんな……酷いっ!! 早速
『言葉攻め』
ですかあ!?」
「だから何でそういう……あーっもう!!」
長引きそうだ。ルビノワは穏やかな微笑を浮かべて告げた。
「後ろの二人はほっときます。お知らせは以上です。
ルビノワがお伝えしました。ごきげんよう」
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