4 遠い記憶
若かった。
元気があって、賑やかで、テンションが高かった。
学生時代よりも、屋敷の仕事が始まってから短めになった仕事の時間よりも、その時間が一番充実していたかもしれない。
若かった。
ルビノワの話が始まる。
「皆さんこんばんわ。ルビノワです。
今日はあの二人も来てますので彼らも交えてお伝えしたいと思います」
幽冥牢が挨拶した。
「こんばんは、皆さん。フクロウサイドの主兼安全保障問題担当の幽冥牢です。クスクス☆」
「狭い自治範囲ですねぇ」
「そうなんですよね、すいませんテヘ☆ 気をつけますから許して下さいねって、ほっとけ!
狭い方が良く寝られるんだよ!」
朧の指摘に素直な返答をしただけだが、彼女の心の琴線に触れるものがあった様子だ。
「私もですよう☆」
何と、そんな同好の士がいるとは。しかもこんな間近に。幽冥牢の心にもティンとする何かが去来した。
「おっ、仲良し? イェーイ☆」
「ララ~☆」
仲睦まじそうに手を取り合い、軽やかにオクラホマミキサーを踊る二人。
「話を戻してよろしいでしょうか」
「あ、すんません。そう言えば昨日はバレンタインデーでしたね。
日頃のお礼にお二人にそれっ、チョコレートだ!」
サプライズというものはこの頃は今程に定着していなかったので、幽冥牢もそのつもりはなかった。おやつを上げる程度のニュアンスで考えていた。餌付けだと言われても恐らく反論は不可能だったろう。
「ギブ・ミー・チョコレート~☆」
主から差し出されたチョコレートに美味しそうにかぶり付く朧。
「チクショー、あんたいつの生まれなんですかもう☆
むー」
「あらあらお恥ずかしい☆
んー」
何だか調子に乗り、キスしそうになる二人。
若かった。本当に若かった。
ルビノワの前でこんな命知らずな真似が出来る程に無理無茶無謀の三拍子だった。
若かった。
「話を戻してもよろしいでしょうか」
プロの意地を見せ、状況を修復するルビノワ。
「あ、すんません」
ルビノワはその日の更新分に目をやる。
「では、フクロウサイドのお知らせです。
『闇の幽冥牢小説の魔』に新コーナーができました。タイトルは
『主とメイドの黄昏……』
です。
朧と主殿がぼやく珍奇なコーナーです☆」
「凄い身も蓋もない言われ方ですが、全くその通りです」
自信に満ちた熱い眼差しだ。
『自信がない事なら自信はある』
という彼のスタンスに由来している。
「ただ、今日は主殿がコーヒーを飲用して行動しましたので、短篇小説仕立てです。その内容は御覧になってのお楽しみです。
ああ、エロくはないです。悪しからず。次回は恐らくぼやくと思いますのでお楽しみに☆」
「すいません、ハアハア」
「何で息が荒くなるんですかあ?」
ここも何故そうなったのか、今は全く思い出せない。
『遠い記憶』
と付けると少しロマンチックな印象がしなくもない。サブタイトルをそうした。
「さあ。それはさておき、ちゃんとぼやいて下さいね、二人とも」
「『ちゃんとぼやく』
って、どういう日本語?」
「頑張りますよう☆」
「ああ……その用法でOKなんだ……ふうん」
「今日の新しくアップした所は以上です。
ルビノワがお伝えしました」
「では、ごめんなすって!」
幽冥牢が一礼する。
「おひけえなすって!!」
朧も一礼し、ネグリジェに覆われた谷間がたゆんと揺れる。
「始めるなよ!!」
「ひい!」
幽冥牢とルビノワのツッコミに朧の目が『><』となるのがおかしかった。
「で、ではごきげんよう」
昨日にも増して疲れた様な微笑を浮かべ、ルビノワが締めた。
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