2 告白

 ルビノワの話が始まる。

「皆さんこんにちは。ルビノワです。

 ではお知らせを。

 おぼろがまた派手なのをやらかしました。詳しくは『小説の魔』の『メイドと秘書のぼやき……』を御覧下さい。更新しています。

『小説の魔』では、『坩堝るつぼ』の第1章『 参』をアップしました。

 主殿こと幽冥牢ゆめろうさんの残虐性が少し垣間見れるかもしれません。元々『ホラー』として始めた物なので今回から次第に正気と狂気の狭間を漂っていく展開になると思います。

 ちょっぴりグロいです。後、頭が少しイカレています。

 主殿的にはどうなんですか?」

 幽冥牢も本日は同席していた。稀有なパターンだったが、思い返せばこの頃からスタジオに入るスタンスになっていた。

 少し唸ってから、話し始める。

「私は自分で書いた物でうなされたりしますので、出来の方がどうかは分かりませんが、今回はそれなりに少し弾けてみました。もっと弾けた内容にして行きたいと思っています。

 正直に言いますが、今頃になって

『年齢制限とか付けた方が良かったのかなあ』

とか思っています。

 でも、そういうのって、活字物限定で話を進めますけども、自分で境界線が何処までなのか良く分からないんですよ。まあ、当然あるんでしょうけど。

 例えば本屋さんとかで手に入る小説で、読んでいて

『うへえ、ここまでやんのかよ、グロいなあ』

と思っても別に年齢制限とか活字物の場合付いていなかったりするでしょ。

『自分で判断してね』

って事で。だから俺も悩んでいるのよね。

『こういう行為は鬼畜過ぎるかな』

とか。特に嫌な奴の行動を考案する時」

「敵キャラとか、どちらかと言えば仲間サイドなんだけど猟奇方面担当のキャラとかですね」

 頷く幽冥牢。

「そう。私も個人的に

『生理的に痛そうな、もしくは、ばばっちすぎる行為は勘弁してくれ』

という基準があるもので。

『爪をどーたらとか目をどーたらとかいうのが嫌だなあ』

と思うし。

 汚いのは俺も嫌なので例には挙げませんが、あります。そこで、

『見るのは嫌だけど、想像する程度には、俺基準ではまだ何とか平気』

というのを含む作品になっていくと思って欲しいです。一応『スプラッターホラー物』として展開して行きますんで、どいつがどえらい事をやらかすかは明かせませんが。

『とりあえず、次くらいで第1章『始』は終わりだよ』

とだけ明かしておきます。今週か来週には終わりで、そのまま次の章へ突入します。緊迫した状況下での人間を描ければとは思いますが、どうなります事やら。

 また、感想など寄せて頂くと多少は反映されるかもしれません」

「あれ? 自分の好きな様に暴走していくのではなかったのですか?」

「最初はそのつもりだったんだけど、やっぱり

『読みましたよ~』

と言われると

『『読んで……くれたんだ……』

と腰砕けになる、揺れる年頃なので、皆さんの反応も参考にしようかな、と思いましたので」

「何だか今日は大人しいですね。何かあったんですか」

「珍しくコーヒーを飲んで作業致しまして、今さっきカフェイン摂取による気分高揚のゲージがゼロになった所なんです。この場合俺には良く訪れる

『今なら素直に泣ける』

という状態です。そうだ、ルビノワさん。実はお話があります」

「いいですけど、どうしたんですか? ホントに変ですよ。いつもは私に敬称つけて呼んだりしないのに」


 怪訝な顔をするルビノワの前で、背筋を伸ばしてから、深々と幽冥牢は一礼した。

「いつも言葉攻めとか凄い接近接触とかして誠に申し訳ございません。ここにお詫びします。悪気は全く無いのです。尚、悪いか。

 これからは控えますんでどうかご勘弁を」

 そんな彼の様子に何だか決まり悪そうなルビノワ。明らかに困惑している。

「ねえ、何かそんなの嫌です。顔を上げてください。あなたらしくもない」

「いえ、今なら自分に素直になれる気がするので謝っておきたいのです。許して頂かなくても結構です。只、なあなあで済ませるのが嫌なんで。けじめという奴です。反省!」

 反省のポーズを取る幽冥牢。とても……とてもおサル風だった。

「……分かりました。分かりましたからおサルのポーズはもういいでしょう? ね? 主殿☆」

 ルビノワは、幽冥牢の肩に優しく手を置きつつ百万ドルの笑顔を向けるのだった。

「よう御座いますか」

「ええ、OKですよ。だからいつもの元気な状態に戻って下さいな」

「美味い飯を食えば治ります。もしよろしければご一緒に如何でしょうか」

「いいですよ。後で一緒に行きましょう」

「では後ほど」

「あら? 主殿、どちらへ?」

「朧さんにも今の内に謝って来ます。それで決まりじゃー。ドットコム」

「えっ……朧にもですか?」

「ええ、でないと、また偉そうな私に戻ってしまうから。ホントに時間がないんです」

「待って下さいっ!」

 幽冥牢の背中に縋り付くルビノワ。正確には彼女の方が背が高いので、後ろから彼の首に両腕を優しく回して抱える様な感じになってしまった。そうしてから

(何で自分はこんな安い芝居みたいな真似をしているのだろう)

と少しびっくりした。


「どうしたんですか?」

「今日はいいじゃないですか」

「でも俺は」

「行かないで下さい!」

 ルビノワは駄々をこねる自分が

(凄くカッコ悪いな)

と思ったが、

(今はそれでもいいんだ。カッコ付けているばかりが自分じゃない)

とも思った。

 また一方では、悪くないけど、いつもはこんな事しないので自分の足元が凄く不安だった。

「でもそれじゃえこひいきになってしまう」

「いいじゃないですか、それでも。と言いますか、今日だけはひいきして下さい」

「でも俺は君達の雇い主なんだ。公平に接していないと俺の納得が行かないんです。

 真面目な話、過去に俺はひいきばかりしている上司を一杯見て来ました。そういう奴の被害を受けて泣きを見る連中の事も。そういう上司達と来たらどいつもこいつも鼻持ちならない嫌な奴だったんです。

 去年なんかそういうのの典型を一人殴っちまった。殴らなきゃそういう事を辞めない奴だったんでね」

「聞きたくないです。

 嫌いですか? 私が」

 ルビノワの瞳から涙が溢れた。

(自分がそんなに月並みな人間だったとは)

と思って驚いた。

 情けなくて、カッコ悪くて……だから何だ、と思って混乱した。

 でも自分の主の話は良く分かった。自分だってそうありたいと思う。

 でも、人の口からそういうセリフを聞いた時、こんなに勝手なセリフに聞こえるとは思ってもみなかった。

(どこまでも自分は不完全だ……でも、だから何だ)

と、ルビノワは思った。

「そんな事は全然ないです。大好きだよ。

 正直に言うけど、助けてもらっているし、俺一人じゃこのフクロウサイドの多様性みたいなものは出せない。ルビノワさんがいるから、朧さんがいるから上手く行ってるんだよ。二人はどちらも重要なんです。

 絶対にその他大勢だとか言わせない。

 でも、その事とは別だと思うんだ。いい? 一回えこひいき的な事をして、それを押し通しちまったら、もう周りの事なんてどうでも良くなっちまう。何でひいきしちゃまずいのか、それが分からなくなるのが俺は嫌なんだ。そういう面で奴らと一緒になるのが怖いんだよ。

 だから雇い主としては公平でありたいんだ。そこは譲れないと思ってます。

 仕事の上で誰に嫌われてもだ。恨まれてもしょうがないと思っているよ。

『バカがスカしやがって』

って思われても、俺はそういうのは嫌なんだ」

「そんな事は思っていないし、私の知っている範囲では言わせません。絶対」

 沈黙が訪れる。幽冥牢が言った。

「……助かります。

 ルビノワさんと喧嘩したかったんじゃないし、今も喧嘩したとは思ってません。そこはきちんと伝わって欲しいです。

 けども……色々ごめん」

「謝らないで下さい」

「……はい」

 ルビノワは幽冥牢から静かに離れた。うつむいたままだ。涙は止まっていない。

(今日はとことん自分らしくないな)

と思った。でも、何かすっきりした様な気がした。

 幽冥牢は幽冥牢で

(またやっちまった。食事の件はこれでおじゃんだな)

と思っていた。いつもの苦い気分。今日は特別切ない様な気がした。


 そのまま静かに幽冥牢が歩き出そうとした時、そこに朧が立っているのに二人は気が付いた。

「朧……」

「聞いていたの」

「はい。黙って聞いていてごめんなさい」




 突然、先程のものとは比べ物にならない激しい切なさが幽冥牢の、そしてルビノワの心を締めつけた。

 終わりの時が来た、と思った。




……それ程強い絆では結ばれていなかったとは思う。

 でも、こんなに早くその時が来るとは思っていなかった。


 何でもっと色々しておかなかったのだろう。

 皆で出かけるとか、並んで色々喋りながら寝るとか、お金のかからない範囲でだって、短い時間でだって、想い出は作れただろうに。


(また、やってしまったんだ)

 今度こそ幽冥牢の目にも涙が浮かんで来た。ルビノワも肩を震わせて泣いていた。

 誰も口を開かないでいたその時。




「皆で皆を独り占めにすればいいじゃないですかあ」




「はあ!?」

 朧の一言に仰天し、ついハモってしまった。

「ですからあ、お互いにラブラブな気分に相手を引きずり込むんですよう。

 頭を撫でたりほっぺにチューしてあげたり、抱き締めたり、ご飯を作ってあげたり、まだまだありますけど、そういう事をこのメンツで素直に相手にしてあげればいいじゃないですかあ」

 本当に困った人達。そう思っているであろう雰囲気が、両手を腰に当てて複雑そうに見つめて来る朧から感じ取れた。

「そもそもルビノワさんは、幽冥牢さんや私の事がそんな簡単に嫌いになれちゃうんですかあ?」

 幽冥牢は自分が名前で呼ばれている事に気が付いていなかった。

 そして、ルビノワはさっきより酷く悲しそうな顔になり、しゃくりあげて彼女の言葉を否定した。

「なれる訳がないじゃないの……嫌よ、そんなの……考えるのも嫌よ……」

「では、幽冥牢さんはどうですかあ?」

「無理です。そもそも……俺には勿体無さ過ぎる二人なんだから」

「自分を卑下しない。自分の前に現れたんだから自分の出来る様に付き合えばいいんですよう」

「……はい」

「そこで提案なんですけど、くじ引きでこれからお互いを一人占めする曜日を決めます。

 恨みっこ無しですよう? その前にルビノワさん、仕事を済ませてしまいましょうよう」


 何で深刻な気分になっていたのか、今ではもう分からなかった。

 朧の一言で見事に流れが変わったのだ。

(そうだよ、お互いにお気に入りなんだったら皆でラブラブになればいいんじゃないか。

 それをしてもいいんだ)




(問題は解決した……のかな)

と、幽冥牢とルビノワは思った。まだ少しだけ不安だ。

 しかし、よくあるくたびれ儲けのような気分ではなくとても清々しい気分だった。

 朧への感謝の気持ちは尽きなかったが、上手い言葉が出て来ないのがもどかしかった。

 勿論変な所はあるだろう。

(でも、これでいいんだ)

と、ルビノワは思った。

 本番中だったのも忘れていたが、どうでも良かった。何しろ、今し方飛び込んで来た大ニュースがあるのだから。

「はい。では、今日のお知らせは

『フクロウサイドの三人がバラバラにならずに済んだ』

です。

 では、ごきげんよう……」




 さっきまでの雰囲気は何処吹く風、という感じで、楽しそうに歓談しながらスタジオを出て行くルビノワ、幽冥牢、朧。

 出会った時からは考えられない程に、お互いの距離が縮んだ様な……その後ろ姿はとても仲睦まじそうに見えた―

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