第3話 戦場にて(Ⅲ)
………ない。
馬車が…ない。
敵の戦車の残骸や兵士の死体が転がっている荒原で、俺と少女は歩き回っていた。
「あ…!ありました…けど」
少女が指さした先には荷台はあったが、馬がいない。
…どうしよう。
この少女を、戦場で見つけたと言って連れ帰るのは不可能だ。
ペトラ国は外国の人間をいっさい国に入れない。
生物兵器のことが国民にもれないためだ。
「どうするか…」
おれはその辺にあった木の下に座り、幹にもたれる。
「兵士がいない門以外のところを通るのはどうです?」
少女がそう提案する。
「それはできない。ペトラ国は領土を壁で囲っていて門以外ペトラ国の中に入れる場所がない」
「では…いっそ門から強行突破しちゃいますか」
こ、こいつは…難しいことをいとも簡単なことのように言うな…。
「いいか。もしその作戦が成功したとしても、俺たちは国内で指名手配犯だ」
「全然大丈夫です。どっちにしろ私はペトラ国の王を襲撃する気でいますから」
「は?」
突然の告白に、思わず目を見開く。
ていうか、俺はどうするんだよ。
「私聞いてしまったんです」
「なにをだ?」
「私を運んでいた車にはたくさんの人が乗っていたんです。その人達みんな泣きながら『いやだ』とか『お母さんに会いたい』とか言ってたんです」
話しているうちに少女も泣きそうになっているのが、わかった。
つらそうだった。
「だから…もう…兵士じゃない人が無理やり戦争に行かされて、そのうえ不必要になったら爆破するなんて…許せません」
たしかに…。俺もこんな地獄みたいな光景見るのはもうゴメンだ。
「しょうがないな。それで行こう」
▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶
え?
今、それで行こう。って言いました?
つい、熱くなって語ってしまいましたが、まさか…ね。聞き間違いですよね。
「え、今なんて…?」
私が聞き返すと、フルークさんは立ち上がって私の方に手を置きます。
「だから、俺も共犯になるって言ってんだろ」
そう言ってフルークさんは近くに倒れていた兵士の剣を取りました。
あの、気の弱そうなフルークさんが、協力してくれるなんて……。
私、感激しました。
これで百人力だ!とはなりませんが。
「じゃあ、行くか。歩きながら作戦考えよう」
「そうですね」
私たちはクルッと方向転換して、国の方へ向かいます。
さっきまではこの先、不安で不安でたまらなかったのに、フルークさんが一緒だと思うと少し楽になります。
▶▶▶▶▶▶▶▶▶
強行突破をするとなると少なくとも10人は兵士を倒さなきゃいけない。
まぁ、俺はこれでも訓練校を結構いい成績で卒業したが、兵士を10人相手にするのはさすがに無理だ。
「なあ、敵は少なくとも10人いるんだが…どうする?」
門の近くに民家はないので、兵士さえと倒せば、とりあえずは大丈夫だ。
「じゃあ、私が9人倒すので1人よろしくお願いします」
今からどう乗り越えるか話し合うつもりだったのに、そうきたか…。
でも、ゾンビを一瞬でKOしたこの少女ならいけるのでは…?
そう考えているうちに、門まですぐそこの所まで来ていた。
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